思いがけない使い道
「うーむ、見事にツルツルだなぁ」
「ツルツル!」
休憩がてらオーロラにはジャーキーを与えて、俺はおにぎりを食べながらワイバーンの巣らしきものの支柱に触れる。荒野ダンジョンに存在するのにも関わらず、傷1つないそれは人工物と言われた方が納得できるほどだ。
――あ、見上げたら皿の部分からトカゲに近い頭部が飛び出てこちらに視線を向けている。これで確定したな、ワイバーンの巣です。
その顔を覗かせたワイバーンはというと、暫くこちらを見ていたかと思えば、特に警戒する様子を見せるでもなく顔を引っ込めてしまった。積極的に襲うつもりは無いのか?もしくは脅威として見られていないか。
「ヤドリギで巣折ってタオしちゃう?」
「出来るだろうけど卵は無事じゃないだろうなぁ」
さて、目的地だということが分かった以上、卵を取りに行く必要がある訳で。
卵があるであろう、皿部分まではかなりの高さがある。いくらハイエルフになったところで跳躍してマンションの屋上まで登ることは不可能に等しい。くそっ、何でハイエルフには翼が無いんだよ!
そうなると翼――というより羽と言えば
「ワタシが行こうか?」
我らが妖精女王がいるわけで。当然考えなかったわけじゃ無いけれど、問題が色々あるんだよな。
まず、あの皿部分にどれくらいのワイバーンがいるのか。顔を覗かせた一頭で済めばいいが、複数いた場合、オーロラが無事に済まない可能性がある。あくまでも可能性で、オーロラなら無傷で殲滅できる可能性だってあるが、普通に心配。
そしてそもそもの話なのだが――
「ワイバーンの卵って結構重いけど大丈夫か?」
「ドレくらい?」
「スイカレベル」
「ムリ!」
はい、判断が早くていいことですね。流石のオーロラでも持てはしなくても転がすくらいなら出来るかもしれないが、転がせたところであの高さからスイカを落とすと考えたらね。凶器だよ凶器。
まぁそもそもの話、ワイバーンの卵を提案した須藤さんはどうやって卵を確保したのかってなるのだが、普通に上ったそうだ。登攀で。ツルツルのこの柱に指がめり込むほど掴んでだってさ。思わず聞き返しちゃったね。ちなみにその時に柱についた傷は、一定時間経過後、自動的に修復されるのだとか。
「ジョージ、出来そう?」
「フンッ!……あー、出来たな」
オーロラに言われてやってみたら、見事に指が柱にめり込んだ。ただ、思った以上に柱が硬くて体力を使ってしまうな。あの高さまで登るとなると相当の回数めり込ませなきゃならない訳だから登り切ったところで体力が持つかどうか。
じゃあ普通の冒険者はどうするんですか?当然それもリサーチ済みですよ。スキルやアイテムを頼りにしましょう!というものでした。そもそもワイバーンそのものならまだしも、卵はあまり狙わないものなのだとか。
……アイテム頼りかぁ。登攀用のアイテムは持ってはいないんだが物は試しということで
「しょうがない、アレを使うか」
「アレ?」
・
・
・
「ほっ、よっ、とっ」
「ジョージガンバレー!」
俺は周囲を飛ぶオーロラの声援を受けながらワイバーンの巣の柱を登っていた。
登攀なんて初めてだけれどスイスイ行けるのは、やはりハイエルフスペックのおかげだろう。歩くように――とまでは行かないが、そこまで体力を消費しているわけではない。
いやはやダメもとで使ってみたこれが、まさかここまでハマるとは思ってもみなかった。本来の用途からは逸脱しているのは間違いない。しかし壊れる様子は微塵も見せず、その鋸歯状の歯が柱をしっかりと食い込ませて俺が操作をするまで放そうとしない。
「トラバサミ、持ってて良かったなぁ」
「ネー」
トラバサミ、目立った活躍は殆どないけれど、男の時からずっと俺を支えて来てくれたいぶし銀な存在。まさかこんなところで助けられる時が来るなんてな……本人が一番困惑しているだろうけども。いやでも本当に優秀なんすわ。元々丈夫さを売りにしたアイテムだったからこんな使い方しても歪まないし簡単操作で歯が開いたり閉じたりするし。
「ツイたよー!」
「ふぅ、ようやくか」
眼前には皿の底の部分。試しにノックの要領で叩いてみるが、柱よりも硬そうだな。外側から行こうとすると皿状故のネズミ返しのような構図になっているため、相当面倒だろう。多分、俺とトラバサミ君でならそれも余裕で行けるんだろうが――ショートカットが余裕で出来るんならやらないとね。
「はい、ヤドリギの矢"人一人通れるくらいの穴でぶち抜いて。あ、もし直線上に卵があるようならぶち抜かないで"」
ここまで来ればヤドリギの矢でいいんですよね。そしてしっかり保険を掛けるのも忘れない。ここまで来ておいて卵全部オシャカは笑いごとではないからね。他にもワイバーンの巣はあるだろうが、それを探し回るものまた登るのも勘弁だからね。
「ギュワッ!?」
「ギュウ!?」
おーおー、ヤドリギの矢で開けた穴の先から慌てふためく鳴き声が聞こえること聞こえること。ひょっこりと穴から顔を出してみれば――いたな。地上から見えていたワイバーンが巣の端に移動してこちらを睨みつけていた。
その傍らには本日の目的の鶏の卵の何倍のサイズもある、緑色の鱗の様な模様をした卵が数個転がっていた。……ん?いま何か光った?




