もしもしドラゴニア?
「ぃよいしょっと」
「オツカレー」
少し重めの音を響かせて両手に抱えた、ダンジョンから持ち帰ったものをリビングの机の上に置く。
今日は相模原ダンジョンに行ってきた。狙いはいくつかの海鮮モンスターと――今机に置いた2つのものだ。
「ピギッ!ピギーッ?」
「おう親分、ただいま。これが気になるのか?」
庭から帰りの挨拶をしに来てくれた親分が机の上によじ登って、持ち帰ったものを見て首――というか胴体を傾げる。それは中身を守るため頑丈な木箱に入っているのだが、まぁ特に隠しているという訳ではないので、開けて見せてやることに。親分の注目を浴びる中、木箱を開く。その中に入っていたのは、2つの壺だった。
「ピッ?ピギー」
「おう、入ろうとするのやめろ。確かにサイズ感ピッタリだけどお前の新しい家じゃないんだよ」
壺を親分の前においてやればジロジロと眺めたかと思えば、「あぁなるほど」と言いたげに手を打つ。そして壺に捩り登って中に入ろうとしてきたので抱えることでそれを阻止。お前には立派な植木鉢があるでしょうに。え?セカンドハウス?マンドラゴラにそういう概念あるの?
「これは料理に使うんだよ。だから悪戯しちゃダメ」
「ダメだよー」
「ピギーッ?」
あからさまにガッカリとして見せる親分の頭をオーロラと一緒にポンポンと軽く叩き、一旦壺をキッチンの調理台の下に収納しておく。
この壺の正体は相模原ダンジョンに生息する壺蛸の壺部分だ。少し前の配信でたこ焼きにしたばかりだから食材としての壺蛸は記憶に新しいが、今回は壺目当てで狩ってきました。とはいえ、身部分も持ち帰ってはいるのだが。
今回、この壺を使って俺が作って食べたいのは、いわゆる"漬け料理"だ。シビ辛ペーストを使った時の卵がちょっとパッとせず消化不良だったからこれで挽回しようという訳だ。ついでに戸中山ダンジョンの野菜や海鮮類も漬けれたら最高じゃね?ってことで壺蛸以外もいただいてきた次第だ。――あ、配信には載せれないけどマンドラゴラを漬けるのもアリか。他の漬けの味の深みも増しそうだしいいかも。
じゃあこれで準備完了?とはならない。そう、卵だ。無論市販の鶏の卵でも調理上問題はないのだが、壺蛸の壺を用意してまで作るんだ。海鮮、野菜のみならずそこも拘ってみたいと思ってしまうのが人――いや、ハイエルフの性というものだろう。
しかし卵か。行きつけのダンジョンの中で鳥モンスターがポップするとなれば戸中山ダンジョンが候補として挙がるんだが、戸中山ダンジョンの鳥モンスターの卵って軒並み小さいんだよな。うずらの卵サイズだし、正直あまり美味しくはない。
……ん?いや待て。何で俺は鳥モンスターに固執していたんだ?そりゃ卵と言えば鳥と結びつきやすいが、鳥に限らず卵生の生物は存在する。亀やら蛇やらだって卵を産むしな。蛇……アカオオダイショウとアカオオダイショウ……ボスは卵産まないんだっけか。少なくとも見たことないな。爬虫類……そうだ!
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「という訳で漬ける卵を探してて。ドラゴンの卵、可能なら漬けたいなって」
「オシエテー?」
『漬けですか。なるほど、それは素晴らしい発想ですね』
俺が求めるものについて心当たりがありそうな人と言えばやっぱりこの人、亜人仲間でドラゴニアの須藤辰希さん。ドラゴンを討伐したことのあるこの人からであれば出現するダンジョンを聞き出せるのではないかと思い至った次第だ。いや、ドラゴンと真っ向に勝負できるかは分からないが、隙を盗んで卵をちょろまかすくらいは出来るかもしれないからな。最悪ヤドリギの矢あるし。
ところで須藤さん、お泊り配信、内にも外にも大好評だったみたいで。リアタイは出来ていなかったが、どうやら当時はTwitterのトレンドにも載ったようで、そのトレンドワードが"熊肉料理"とか"胆嚢スープ"だったとか。
『ですが――ごめんなさい。私も近場のどこのダンジョンにドラゴンが出現するかは知らないんです』
「あれ?この前狩ったって言ったのは?レッドドラゴンだっけ?」
『アレ、実はあの方に近所のダンジョンから強制的に連れていかれた別のダンジョンのドラゴンっぽくてどこのダンジョンかまでは不明なんですよ。教えてもいただけなかったですし』
何やってんだヤマダ。本当に何やってんだヤマダ。
『その時は卵はなかったんですけど、この前連れていかれたブルードラゴンの時は卵ありましたよ。お肉と一緒にオムライスにして赤ワインを飲んだら最高でした。』
さらっと言ったけど、須藤さん2体目のドラゴン討伐してないですか?そしてそれでオムライスを作っただって?なんともうらやまけしからん。しかし、ヤマダに連れて行ってもらうという手段か……"魔女の一撃"の一件で消費すれば手助けしてくれる勾玉を1つもらってはいるが――これは危険な時に使いたいからなぁ。
『あっ、でもそうですね。流石にドラゴンほどではないですが、お眼鏡に合いそうなモンスターなら』
「ほう?」
『ワイバーン、どうですか?』
オーロラ、明日は早朝出発だ。早めに寝るぞ!!




