封筒の中身
「こいつぁスゲーや」
「スゲーヤ」
群れのボスを失った後、烏合の衆となり果てた子分イャナサウルスをオーロラと手分けして殲滅した後、マグイャナの死体を見下ろしながら俺達はボソッと呟いた。
ヤドリギの矢、超強化である。事前にユグドラシルのいた空間で試射させてもらっていたからある程度は分かっていたが……前回マグイャナを斃した時に比べたら疲労感は減っている。しかし命中するまで飛んでいく過程をすっ飛ばすとは。試射の時はそんな素振りはなかったが、何か違うところがあっただろうか。……ハイエルフになってたわ。
「まぁ獲物が狩りやすくなったことはいいことか。オーロラ、今日はこの辺にすっか」
「アレ、早くない?ボスとかイイノ?」
「あんまり時間かけて人に見られるのもな。それにこの先のボスにはあんまり興味ないんだよなぁ」
韮間ダンジョンの追加階層のボス部屋に待ち構えるモンスターはブロックザウルスという名前の体を構成する肉体1つ1つがおもちゃの某有名企業のブロックの様な形をした恐竜型モンスターだ。普段はティラノサウルスに近い形状をしているのだが、いざ戦闘となると状況によって自身の体を構築し直して他の恐竜の形を取り襲って来るなかなか面倒なモンスターだ。
もしかしたら俺達2人で斃せるのかもしれないが、食材的な意味であんまり旨味が無いんだよな。なんせブロックザウルスを斃して得られるものが体を構成するブロックだけ。建材には使えるらしいが、食えたもんじゃないらしいからな。勿論、有用なアイテムが入った宝箱がドロップする可能性だってあるが、今日は元々マグイャナまでって決めてたし、マグイャナやゴブリンキングより強いモンスターと戦う心づもりで来たわけじゃ無い。という訳で今日はお開き!
「今日は配信ないけど、このマグイャナで何か作るか。オーロラ、良いアイディアないか?」
「ジャーキー!」
「ホントジャーキー好きな?それは後日作るから。他!」
「じゃあカツ丼!」
「おっ、いいねぇ採用」
こうして、ハイエルフになって初めてのダンジョンは満足いく結果となった。不意打ちの様に進化してしまった形だが、まぁ冒険者としては怪我しにくくなって討伐もしやすくなったし、良かったのかもしれない。これがユグドラシルの目論見通りなのかは分からんが。無論、次会った時はお小言から入らせてもらう!!
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帰宅後、一旦今日の成果を冷蔵庫に押し込んでから、リビングの椅子に座る。おっと、玄米茶を淹れるのは忘れていないぞ。ダンジョンに潜った疲れを玄米茶の芳ばしい香りで癒しながらこれから更に疲れさせる可能性のあるものに目を落とす。そう、麻鬼要から送られてきた封筒だ。
「鬼が出るか蛇が出るか……」
「マジョが出るんじゃない?」
「よせ、冗談にならん」
麻鬼要は種族としての魔女であり、それならば同じ苗字である女々という人物もまた魔女の可能性もある。魔法には詳しくは無いが、封筒を開けた瞬間そこから本物が飛び出してくるなんてあり得ない話ではないだろう。
とはいえ、開けずに放置しておくというのもまた気持ちが悪い。なんというかこう……期限は無い上、やってしまえばすぐに終わるけど明らかに面倒な仕事のメモが常に視界に入ってくるような……自分で言ってて意味わからん。
「とりあえず、オーロラ。この封筒に魔法的な何か感じるか?」
「ンー、ワタシは感じない。タダの封筒じゃない?」
「そうか……よし、開けるぞ!オラァ!」
そんな気合の声をあげながら俺は封筒にハサミを入れて開封する。……煙が出るとかはないな!安全を確認したら中にある2枚の便箋を取り出す。……わ、駄目だこれ、読めない。いや、字が汚いという訳ではない。寧ろ綺麗なんだけど――達筆すぎて所々読めないのだ。辛うじて読める文字もあるのだが、如何せん穴抜けになってしまってよく分からない。
「ジョージ、コッチに何か書いてあるよ?」
解読班の如く手紙と睨めっこしている俺の頬をオーロラが突き、封筒に入っていたもう一枚の便箋を差し出してきた。それを受け取って開いてみると――冒頭に"木原さんが読めなかった時用 by麻鬼要"と書かれていた。……非常に助かる。何でこういう気は回せるのに前回あんなのだったんだよ、麻鬼要……!!まぁ読ませてもらおうじゃないの。えーっと何々……?
『拝啓
余寒いよいよ身に沁みる季節となりましたが、木原様におかれましては、日々ますますご健勝にしてご活躍のことと、謹んでお慶び申し上げます。
時下ますますご清栄の段、誠に慶賀の至りに存じますとともに、まずは早春の候、冷気厳しき折柄にもかかわらず、ご機嫌麗しゅう日々をお過ごしのことと拝察いたし、深く安堵いたしております次第でございます。
さて、このたびは、面識もございません私が、突然このような筆を取らせていただきましたご無礼、まずは何とぞ広き御心にてお許しいただければと、伏してお願い申し上げます。
と申しますのも、木原様には、何かとご多忙の日々をお送りであろう中、私の孫、要に対しまして、過分なるご厚情とご配慮を賜り、かくも手厚くご指導・ご支援の数々を賜っておりますこと、遠くより拝聴し、恐縮と感激の念に堪えぬ思いを日々募らせておりましたところでございます。
本来であれば、面と向かい、深々と頭を垂れて御礼を申し上げるべきところ、拙筆ながらこのような形でのご挨拶と相成りました非礼の数々、重ねてご寛恕賜れますよう伏してお願い申し上げます。』
……ご丁寧に長いな。敬意をもって挨拶してくれているのはよく分かるのだけれど、スゴクナガイ。役所からの手紙でも、挨拶はもう少し短いぞ?
というか挨拶に紛れて一瞬見逃しかけていたけれど重要な情報があったな。"孫、要"とあったな。便箋の一番最後に"麻鬼女々"って書かれていることからこの文章を書いたのは麻鬼女々さんであり――名前的に麻鬼要のお婆ちゃんか。そういや、あげたマンドラゴラの使い道がお婆ちゃんの病気を治すためだって言ってたか。この手紙はその御礼って奴か?
ようやく得心がいったので、続けて手紙を読み進める。やはり長ったらしかったので要約するとこうだ。
・自分は要の祖母であり魔女であり蔵元杜氏を務めている
・孫が自分のためとはいえ、俺や翠ちゃんに迷惑をかけて本当に申し訳なかった
・譲っていただいたマンドラゴラのおかげで症状が改善された。なんなら若返ったと勘違いしそうになるほど
・俺の指定する時で一向に構わないので、一度要を伴って謝罪と御礼に伺わせていただきたい。
・日にちはメモにでも記載して封筒の中に入れた後、俺の家のポストに入れて置けば魔法で勝手に転送される
・ハイエルフへの進化おめでとうございます
・今後も配信者並びに冒険者としての活躍をお祈りします
――とまぁこんなものか。祖母であり魔女であり杜氏と蔵元のインパクトが強いな。前2つまでなら理解できるけどその2つに蔵元杜氏が並び立つことって出来るんだ……感動すら覚える。
しかし、ウチに来たいかぁ。断ってもいいとは書いてあるけれど、ここまで丁寧にされると断り辛いというものがあるよなぁ……あ、なんか注釈がある。何々?『配信を拝見させていただきました。"魔女の一撃"を大変気に入っていただいたとのことで、お土産に"魔女の一撃"とそれに合う御つまみをご用意いたします』――抗えねぇ……ッ!!




