その希少性故
目の前に並べられた数々のユグドラシル産の食材。果実を除くとあまり食べることに向いて無さそうなラインナップではあるが、ユグドラシル本人が食材として提供している以上、食べられはするのだろう。
実際、ダンジョン内には食べられる木のモンスターというのは存在している。例えば見た目はトレントだが、切り倒すと樹皮の下にはミッチリと肉が詰まっているモンスター、"ミートレント"。実はアメリカで秘かに人気のモンスターなのだ。
その理由は、丸太のまま焼けば、樹皮が焦げることでその香ばしさが肉に移り非常に美味。見た目も「肉を焼いている!」感があることだ。そして何より重要なのが、"トレント"を焼いて食べている点にある。
曰く、ミートレントはトレントの仲間である。トレントは植物のモンスターである。つまりミートレントも植物。ミートレントの肉を食うことは野菜を食べていることと同義だ!――ということらしい。
なんともアメリカらしい言い分で、実は一部のベジタリアンもそれに乗っかり、ミートレントは野菜だから食べても問題ないと食している。なお、研究の結果ミートレントの肉には動物性タンパク質と植物性タンパク質、どちらも存在していたらしい。
で、話を戻してユグドラシルの食材だ。ミートレントは俺の住んでいる辺りのダンジョンには出現しないが、日本国内ではぼちぼち存在するモンスターで、強力ではあるものの倒せなくはないモンスターなので、それなりに流通はしている。
それと比べてユグドラシルは……?俺は彼女……彼女?に重要なことを聞かなければいけない。
「あの、ユグドラシルさん。ちなみにあなた、ご家族はいらっしゃいますか……?」
「あれ?急に畏まられるのは困るのだよ?家族なら譲二がいるのだよ?あ、オーロラも入れてもいいのだよ?」
「そういうんじゃなくて……他にこの世界に世界樹がいたりなんてしないですかねぇ」
「ハハハ!譲二は面白いことを言うのだよ。世界樹は我1本しかいないのだよ!まぁ"イルミンスール"なんて呼ばれたこともあったけど、結局は我のことだし。我の周りに生えている木もあくまでも我から派生した木だけであって世界樹じゃないのだよ!」
カラカラと笑いながらユグドラシルはそう答えた。まぁ、うん。予想通りではあるよね。イルミンスールの事は知らなかったけれど、世界樹がそう2本も3本も生えていてたまるかって話。つまり、目の前にあるこれらはここでしか取れない上、出所がとんでもない超超高級食材となる。配信どころか冒険者組合にも明かせないのでは?
オーロラにアイコンタクトで何か良い案がないか確認してみた所、苦笑いしながら肩をすくめた。そうか、オーロラでもアカンと思いますか。さて、俺達が食材に分かりやすく困っていることに気付かない程、ユグドラシルは鈍感ではなかったようだ。眉を八の字にして如何にも悲し気な表情を浮かべた。
「もしてかして……迷惑だったのだよ?」
あの、その見た目でその表情はやめてもらえませんかね。見た目通りの歳ではないのは理解しているんだけど、だからと言って見た目少女をあまり困らせたくはない。こういうことを言うのは少々心苦しくはあるが……仕方ない。
「あー、いや。食材自体は嬉しいんだけどな?やっぱほら、これらの食材って配信で使うにはちょーっと刺激が強いというかね?」
「チョットじゃなくない?」
「オーロラ、シッ!」
「ほら、俺の配信はダンジョンで獲れるものやスーパーとか買える食材で酒を飲む配信だからね?酒は名前を隠して飲むならまだしも、食材は目立っちゃうかなって」
「じゃあ酒以外はいらないのだよ?」
「いや、それは普通に欲しいです。配信外で食べればいいんで」
我ながらすごい食い気味で返しちゃったけど、本当に配信外で食べる分には問題ないんだよ。だからこれは絶対いただいていくつもり。でも、ユグドラシルは配信で食べるつもりで出してたからね、そこは訂正しなければ。
「うーん、でも配信の力になりたいのだよ……あっ、なら我の素材じゃ無ければいいのだよ?」
「え?あ、まぁ。それなら……あんまり強すぎるモンスターじゃなければ、はい」
「なら少し待ってるのだよ。その間に食材たちの調理方法を教えるのだよ!」
何で待つ必要があるのかは疑問ではあったものの、調理方法を教えてくれるのは助かる。……あれ?なんで自分の体の一部だったものの調理方法知ってるんだ?
「絶滅前のエルフたちの特別な日には我の素材を提供して宴を開いていたのだよ。そのレシピがあるのだけれど、譲二のそれは文字には反応しないから我が口頭で教えてあげるのだよ」
「メモっても?」
「勿論なのだよ!」
食べてたのか古のエルフたち……そしてレシピ、あるのか……んでもって世界樹ユグドラシル自身がそのレシピを教えてくれるとは中々にシュールな絵面だな。あれ?ハーフエルフたちは食べてないの?それならそっちに聞くことも……あぁ、恐縮しまくって食べないのね。
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「――ってやると美味しくなるのだよ!」
「なるほど……根っこはやっぱりアレに近いんだな」
「あ、獲れたのだよ!」
ん?レシピについて話していたユグドラシルがいきなりそんなことを言い出した。獲れたって何をよ。今レシピの話を……あ、また腹に手を突っ込んだ。何を取り出すつもりなんだ――え?何それ。爬虫類?この特徴的な目や尻尾……
「カメレオン?」
「そうなのだよ!このダンジョンで獲れるモンスター、"威借レオン"なのだよ!我の獲れたてほやほやなのだよ!」
はぁ、なるほど。生憎俺の知識にはないモンスターだが、ダンジョンで獲れたモンスターならまぁ、配信でも使えるか……まって?我の獲れたて?いつの間に?




