【塩】これで飲めるんだよ【味噌】
『こう言っちゃなんだが、そのおつまみのレパートリーだと本当に酒カス感あるよな……』
『いやいや、ガチで酒を楽しむんだったらこれぐらいでいいんだって!』
『そういや各おつまみパッケージとかに入ってるわけじゃ無くて最初から小皿に盛ってんだな』
『ほんまや』
『もしかしてダンジョンで採ってきたものか?大葉はどうせ自家製として』
「正解ー。まぁ赤味噌はスーパーのちょっといいやつなんだけど」
自宅で燻製なりアカオオダイショウ酒を仕込むなりスライム乾麺を作ったりする俺だが、流石に赤味噌を作ってはいない。いや、一度やってみようかなと思って調べてみたことはあるんだよ。まぁ……諦めたよね。色々面倒そうだったし、なんなら買った奴の方が早くて美味いだろうし。
それに対して大葉は、面倒だからダンジョンで採らずに自家製を選んだわけではない。うちで栽培している大葉な、ダンジョンの物と相違ない程に美味いんだよ。これが子分のついでに親分が世話してくれているからか知らんが、売りに出しても絶対に売れると確信できるほどなのだ。いや、うちで採れた大葉は漏れなく我が家のものだから上げたいと思ったお客以外にやらん!
『えっ!エルフの御手手で作られた味噌舐められないんですか!?』
「うわぁ……」
「ウワ」
『過去トップレベルのキショさで草』
『これにはジョージもしかめ面』
『味噌甕にぶち込んで封印しようぜ』
「オーロラそういうの出来る?」
「ムリ」
軽い気持ちでオーロラにそんな話を振ってみたら、ガチトーンで返されてしまった。もしかしたらヤマダとかそれこそ麻鬼要ならやれそうだよね。いや、頼まないけどね?多分。
「さて、気を取り直して。この赤味噌以外はダンジョンで取れたものを使用しているんだよ。えーっと、このお塩が海ダンジョンで製造されたものでこのカブと山葵は戸中山ダンジョンで採れたものな」
『マンドラゴラとか言わねぇよな』
「言わない言わない」
「マンドラゴラなんてソウソウ採れるわけないジャナイ」
『種持ってた妖精が何か言ってら』
そう、言いはしないさ。これがマンドラゴラなんてな。もしかしたらこの配信を麻鬼要は見ているのかな?その場合、恐らくテーブルの上のカブの漬物の正体に気付くとすれば……大分複雑な心境になるだろうな。その辺は諦めてくれ、俺はマンドラゴラを食材7薬3くらいの認識でしか見てないんだ。
「で、にんにくチップはこの前のハラペーリックプラントの奴を事前に加工して保存しておいたんだよ」
『懐かしいな』
『チップにしたら長持ちするもんなぁ』
「とまぁ、以上が今日のおつまみ達だ。こんなので酒が飲めるのかとお疑いの君は試してみよう!試せ!」
『うわぁ、このエルフ酒カス沼に引きずり込もうとしてくる!』
『せめていつもの美味そうな料理で引きずり込めや!』
ですよね。そりゃ俺だって普段からこんな飲み方をするわけじゃ無い。今回があまりに特別ってだけだ。でも、これだけで飲めるって言うのは嘘偽りない本当の事だから試してくれてもいいと思う。なお、堕ちに墜ちても当社は一切責任を取りません。
「次は器なんだが……透明ガラスの器にしてみた。オーロラもこれでいいんだよな?」
「ウン!」
枡の器や陶器のものでも良かったのだが、折角のいい酒だ。目でも鼻でも楽しみたい。魔女の一撃は香りも良いと言われているから、今回は下手に匂いが混じったりせず、また透明な器故に注いだ酒が見れるようにと透明なものを選んだのだ。
――準備は整った。いよいよ主役の出番がやってきた。ふふっ、俺としたことが憧れの酒を目の前に緊張しているのか手が震えているようだ。いや、格好良くいって武者震い、か?
『大丈夫?禁断症状出てない?』
『アル中の症状出てんぞ』
「アル中じゃないやい!ちゃんと休肝日も設けてるし数値的にも全く問題ないんだぞ!」
『休肝日は偉いけどアレだけ飲んで全く問題ないは何でだよ』
知らない知らない。この前検査いったら粒源先生は胡乱気な目をしながら「エルフになったら肝臓強くなるのかねぇ?」ってボヤいてたけど俺は知らない。でも俺以上にアレだけ飲んで問題ないのがおかしいのがそこを飛んでますけどね。
おっといけねぇいけねぇ。視聴者の茶々によって手が止まっていたことに気付き、改めて力を込めて開栓する。すると、露わになった日本酒の口から一気に香りが溢れたではないか。しかも開栓してからノータイムで鼻に届くという速さよ。そしてその香りに――
「うっわぁ……」
「スゴ……」
『すんごい恍惚としてらっしゃる』
『ちょっとこれはセンシティブ』
図らずも俺とオーロラ、どちらも魅了されてしまった。これまで日本酒は色々と飲んできた。香りも嗅いで来た。そんな中でこの魔女の一撃は、香りだけでジョージ日本酒ランキングのTOP10までに躍り出た。
「……注ぐぞ」
「……ウン」
『声ちっちゃ!!』
『腹から声出せ』
「注ぐぞ!!!!!!」
「ウン!!!!!」
『耳ないなった!』
『うるせぇ!』
「腹から声出せってそっちが言ったんじゃん……?ほらほら静観せよ」
トトト……と音を立ててガラスの酒器に注がれる魔女の一撃。日本酒は水のような見た目をすることが多いのだが、魔女の一撃は違った。まるで炭酸が弾けるように光を放っているのだ。しかもその光は眩しいとか不快になるものではなく朝日のような、あたたかな光だった。あぁ、ジョージ日本酒ランキングTOP5に来ちゃった。
「では」
「デハ」
後は飲むだけ。こういう時、俺達の視線は自然と交差し、頷き合い、そして同時に口にする。
その日、ジョージ日本酒ランキングの頂点が塗り替えられた。




