【卯】月まで届け【何見て跳ねる】
「はい、ごきげんようジョージの酒飲みチャンネルのお時間だ」
「ゴキゲンヨー!!」
『キター!』
『待ってた』
昨日は依頼を終えてから今日のための仕込みをしながらも十分休むことが出来た。配信前に鏡で自分の顔をチェックしたが、疲れを感じさせるような表情はしていないはずだ。それにしても2,3日くらいしか配信休止していないはずなのにかなり久しぶりに感じるな。
さて、今回は深い意味はないがキッチンから料理を持ってくるような演出をせずに、テーブルに用意を済ませている。
『お、シチューだ』
『唐揚げっぽいのもある。でもポテチっぽいのと同じ皿……?』
『スモークレッグか?何かクリスマスっぽいな』
「……本当だ。確かに今日のメニューはクリスマスっぽいな。全く意図してなかった」
そういえばそろそろクリスマスか。ちなみに田舎で独身だからと言ってクリスマスと全く縁が無いわけではない。クリスマスが近づいていくにつれて、戸中山ダンジョンに生息する鳥モンスターだったり、果物の需要が一気に上がるから稼ぎ時だったりするのだ。今は十分な稼ぎがあるから無理に行かなくてもいいから……今年はゆっくりしていてもいいかもしれない。
『ジョージクリスマス予定あるん?』
「今のところないけど、無くてもクリぼっちではないぞ」
「ワタシがいるからね!」
『それはそうだな!!!』
『うらやま』
カメラの真正面に陣取り仁王立ちすることで己の存在をアピールするオーロラの頭を撫でながら、優しく位置をずらして今日のメニューの解説を始める。料理のほとんどに先日の依頼で狩ってきた兎モンスターの素材を活用しているのだ。
まずは羽根ウサギの唐揚げ。羽根ウサギは耳部分も美味いがそれ以外の身も上等な食材として扱われている。……それでも1匹に2本しか取れない羽根の方が価値が高いのは仕方のないところではあるが。耳の部分はポテトチップスの様な薄さと見た目ではあるが、サイズは全然違う。フランスパンくらいはあるな。まぁ基本的に耳は切り分けてから揚げるらしいが、面白そうだからそのままのサイズで揚げちゃったのだ。後悔はしていない。身の唐揚げは、今回醤油で味付けしたが……揚げている最中何度つまみ食いの衝動が俺を襲ったか分からない。
次に砲弾兎のスモークレッグ。砲弾兎の胴体部分の肉質は、砲弾のように激突して攻撃する性質上、硬くて食べられたものではないのだが、レッグ――足部分は別だ。あんな胴体を支えているのにこちらは固くなく、むしろ柔らかいまであるらしい。そのまま焼いても良かったのだが、折角燻製器があるのだからということでスモークレッグにした。燻製されたことで真っ茶色になった皮が照明の光を反射し、燻製独特の香りが鼻孔をくすぐる。
3つ目――今日のメイン、ブラウンシチューだ。何を隠そう、オーロラリクエストの思い出の料理。これが昨日から長い時間を掛けてしっかりと仕込んだ自慢の料理だ。今までの流れから分かるようにこれにも兎モンスターの肉を使用している。それも、月の貴族の肉だ。月の貴族の肉は、他の肉と遜色ない肉色をしているのだが、生肉の状態だと周りにラメみたいなものが浮かんでおり、キラキラと輝いているのだ。
野菜や香辛料と一緒に煮込んだのだが、匂いだけで分かった。これは前回作った物に比べて数段美味いものだと。……それではオーロラの思い出の味とはまた別になるのではないかと思い、事前にオーロラに確認したところ「問題ナイよ!」とのことだった。器がでけぇ……勿論シチューということで俺の大好物であるじゃが芋もたっぷり入っている。カレーの時ほど盛り盛りにはしないが。最後に別茹でしておいたブロッコリーを載せて完成だ。あとはシチューということでバゲットも用意。
最後にもう1品。箸休め用のサラダだ。これは兎肉を使っているわけではないが、兎にちなんで人参サラダだ。しかしこれは、ただの人参サラダではない。人参を千切りしたものに、カラムージョというホットチリ味の細切りポテトチップスとマヨネーズをふんだんに混ぜたものだ。スナック菓子だからと侮るなかれ。これがうめぇんだ。
「以上、4品でお送りいたします」
「オサケは赤ワイン!」
今回の赤ワインは結構いいものを用意させてもらった。あんだけ頑張ったんだから自分にご褒美くらいはいいだろう。
『いやいやいやステイステイ』
『ウサギ三昧は分かる。月の貴族って言った?』
『買ったの?狩ったの?』
「狩ったの。ハンティング。あ、戸中山ダンジョンじゃないから安心してね」
『狩れるのかぁ……そうかぁ……』
『オーロラちゃん以外と組んでた?』
「いや?オーロラとだけだけど」
正直分かっていたことだけれど、月の貴族の名前を出しただけでコメントが流れる流れる。まぁ、あの依頼のことは話せないから詳しく喋るつもりは無いからこれ以上は打ち切り、グラスにワインを注ぐ。
それぞれのグラスに注ぎ終わり、俺達は無言でアイコンタクトし両手を合わせて、ピッタリに揃え告げる。
「「イタダキマス!!」」
『kp』
『乾杯』
『え、乾杯じゃないのぉ!?』
『カンパイ!』
『騙されたぁ!』
「引っ掛かったなぁおまぬけさんがぁ!」




