少し不穏かもしれないキャンプ?
早朝、山ダンジョン受付――今日の受付担当は友風さんか。お、こっち見た。にこやかな笑顔になるのだけれど……すぐにその笑顔が固まった。原因は分かっているさ、俺……というより俺が背負ったり手に持ったり肩に掛けたりしている荷物のことだろう。これ全部キャンプ用の道具と配信用の道具なんだけど、正直小学生の頃にやったじゃんけんに負けたら友達の荷物を持つやつ――あれを思い出したよ。
ちなみにオーロラも自分の荷物を持っている。その際に何をリュック代わりにすればと考えた所、良い物があった。小さな巾着袋。これがいい具合にフィットしてめでたくオーロラ専用のリュックになった。
「キャンプするってのは聞いてましたけどそれキャンプ道具なんですか?」
「そうだけども?」
「その細腕にどんだけマッスル詰め込んでるんですか……?」
そう言ってしまう気持ちも分かる。だけどキャンプするということに嘘偽りはない。勿論、こんな大荷物を背負ったままダンジョンに入るなんて自殺紛いのことはしない。受付まで行ってしまえば、Aカードの収納機能が使えるからね!ちゃちゃっと入れてしまおう。
「オーロラの荷物も入れておこうか?」
「――!」
どうやら自分の荷物は自分で持ちたいご様子。重そうにしていないから問題は無さそうだ。
じゃあ、とっとと隠しエリアまで行こうかね。そうして足を踏み出そうとしたとき、友風さんに呼び止められた。
「ジョージさん!念のためお聞きしますが、そのキャンプに使用するつもりの隠しエリアがあるのって麓の方ですか?」
「うん?そうだけど?」
念のためオーロラにも確認を取ったが、確かにあの隠しエリアは山ダンジョンの麓辺りに存在している。ここから歩いてもそんなに時間のかからない場所にあるんだけど、場所そのものじゃなくて麓かどうかを聞くなんて変だな?麓って聞いて明らかにホッとしてるし。
俺の視線に気付いたのか、友風さんは咳ばらいをしその表情を引き締まらせ俺に向き直り口を開いた。
「実は山頂傍まで登った冒険者からの情報でして……アカオオダイショウが見つかったそうです」
「あれ?ここのボスってアオオオダイショウじゃなかったか?」
アオオオダイショウ――その名の通り普通の山に生息しているアオダイショウが牛を難なく丸呑み出来る程大きくなったような蛇型のモンスターだ。俺ももう少し若い頃山頂に上ってアオオオダイショウに挑んだことがある。結果は尻尾による薙ぎ払いをモロに喰らって撃沈。ふふ、若い頃の苦い思い出さ。割と討伐しやすいモンスターらしいんだけどね?
で、そんなアオオオダイショウがアカオオダイショウに変わっていると。知識としてはそういう種類のモンスターもいる――くらいにしか覚えていないが、アオオオダイショウがそいつに成り代わっているのか?
「私も働いてて初めて聞きましたよ。幸い、その冒険者さんもアカオオダイショウに見つからず無事帰ってこられましたが……その隠しエリアが麓なら遭遇することは無いですね」
「だな。俺も無理して挑むつもりは無いよ」
「それが賢明です」
ボスモンスターは基本的に自分のエリアから飛び出すことは無い。極稀にダンジョンを徘徊する個体もいるらしいが、そういうモンスターって大抵都会の方に出てくるんだよね。こんな田舎じゃお目にかかる事なんて無いだろう。
「それじゃあ行ってくるよ。なんだったら配信見てくれな!」
「勿論!楽しみにしてますねー!」
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やって来ました隠しエリア。場所はなんとなく憶えていたものの、正確な場所はオーロラが憶えていてくれて助かった。見覚えのある風景に手を差し込むと透明なカーテンが手に触れるので、捲り上げる。それを潜り抜けると――オーロラと会った時と変わらない景色が俺達を待っていた。
相変わらず、気持ちのいい風が吹く場所だ。……山だったのに草原で、今浴びてるこの風はどこから来たものだとかは考えない方がいいのかもしれない。
「――♪」
オーロラも故郷?実家?に戻ってきてハイテンション気味。さっさと巨木の所まで飛んでいってしまった。じゃあ俺はその内にキャンプの準備を進めますかね。




