武道さんにお願い
ある日の早朝、軽く朝食を済ませた俺達はダンジョンへ行くための準備をしていた。俺の方は準備完了で玄関にいるのだが、オーロラはまだリビングにいる様なので、少し声を張り上げて彼女を呼ぶ。
「オーロラ、出掛けるぞー」
「マッテー!カルーアにご飯あげる!」
リビングの奥からそんな声が返ってきた。カルーアとは夏祭りで俺がオーロラのために獲ってあげた金魚の名前だ。命名者はオーロラ。カルーアといえば、カルーアミルクを思い起こされるな。もしかして、オーロラの名前の由来もカクテルだからそこから取ったのだろうか。だとしたら可愛らしいな。
しかし、そんなカルーアだが、うちで飼い始めて1週間は経とうとしているのだが少しばかり気になる点がある。水槽が綺麗すぎるんだよな。勿論綺麗に保つためにろ過装置だったり水草を入れたりと、しているのだが、だからといって全く汚れていないというのも変な話だ。そもそも生物ならフンはするわけで、そこから汚れるのは当たり前なのだが……俺、カルーアがフンしたとこみたことないんだよな。
……あれ、もしかして、カルーアってただの金魚じゃ無かったりする?ははっマッサカー。大方オーロラが魔法かなんかで綺麗にしてるんだよ。そうだよそうだよ。そうに違いない……
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「おはようさん。ようやっと涼しくなってきたなぁ」
「おはよう。日中はまだ暑いけどね」
暦の上では秋の筈だが、未だ夏を思わせるほどの気温になることが多い9月。それでも朝は少しだけ過ごしやすくなっている。それを感じながら戸中山ダンジョンに訪れて、受付に立っていた武道さんに挨拶をする。ん?武道さんに何か違和感が……?あぁ、そうか。
「武道さん、痩せた?」
「あー、分かるか?暑ぅて食欲沸かんくてなぁ……逆に譲二さんは全く変わらんな。あんな配信でバカスカ食っとる癖に。オーロラちゃんも体型変わっとらんやろ?」
「そうだね。たまに体重量ったら食後は少し増えるけどダンジョン行ってりゃすぐ元の体重に戻るな」
「世の女性を敵に回しそうな体質しとんな」
正直その自覚はある。だからこそ、あまり配信ではそういった話題は出さないようにしている。世の女性の美に関する思いは恐ろしいからな。
こんな感じで男時代からやっていたような他愛のない話をしていると、記憶の奥底から武道さんに頼まなければいけないことを思いだして「あっ!」と声を上げてしまった。その声に武道さんだけではなく少人数ではあるが受付ロビーにいた他の冒険者たちも何事かとこちらに視線を向けてきた。ごめんて。冒険者たちには両手を合わせて無言ではあるが謝罪しておいた。
「なんやねん突然。ビックリしたわぁ」
「ごめんごめん。武道さんにお願いしたいことがあって――」
お願いしたいことと言うのはズバリ、オーロラを見えないようにしたり、俺のこの特徴的な耳を隠せるようにするアイテムの捜索だ。まぁ俺のことは二の次でいいから一番はオーロラだな。祭りの時も思ったが、いい加減自由に外を飛ばせてあげたい。
俺の頼みを聞いた武道さんは顎に手を当て視線を彷徨わせる。少なくともあまり喜ばしくない返事が来そうではある。
「実はな、装備モールの後、それなりに調べたんや。まず、そういう認識阻害のアイテムは程度にもよるが希少で普通のアイテムに比べたらバカ高い。ジョージさんの持っとるもので言うと、赤大蛇の帯皮よりも高いな」
「へぇ。他のアイテムは?」
「幸福の蛇革財布と比べたら――同等かも知れんな。財布も財布で冒険者ではない金持ちからしたら垂涎ものの一品やからな。ヤドリギの矢は……使とるところみたことないけど、あの時聞いた説明からして値段付けるものやないやろ」
なるほど。赤大蛇の帯皮以上幸福の蛇革財布以下か……いや、そんなアイテムを一編の戦闘で全部入手したのはかなり運がよかったのでは?
「金額は……まぁ今の譲二さんなら本気出せば稼げんことはない金額とは思う。問題は出品されるかやな。どう考えても認識阻害アイテムっちゅうのは有用性が高い。その有用性故、所持者は国に申請が必要になっとるけど、それをかいくぐって悪用する奴っちゅうのも勿論おる」
「出品されないってことは無いんだろ?」
「そらなぁ。運良く手に入って、すぐにでも現金が欲しいっちゅう奴がおるんやったら出品はするかもわからん。まぁ俺も色々探してみるわ。ただ、俺が1人で探すより、尼崎さんにも声を掛けといたほうがええかもな」
「尼崎さんに?」
何で急に尼崎さんの名前を出したのかと疑問に思ったが、それはすぐに払拭される。あまり関わり合うことは無いが、尼崎さんは今訪れている戸中山ダンジョンの所長様なのである。当然、目の前の武道さんよりもそう言ったアイテムには詳しいだろうし、人脈も持っているだろう。
「でも、たかが一冒険者のために尼崎さん動いてくれる?」
「いや、動くやろ。今を時めくエルフ冒険者やぞ?それを差し引いても譲二さんはウチの依頼を昔っからこなしてくれとる訳やから、たかがなんて扱いはせんやろ」
「そう?それじゃあお願いしようかな」
「ま、それでもあんまり期待せんといてなー?」
「いや、助かるよ。今度御礼の品持ってくるよ。それじゃ、ダンジョン行ってくるわ」
聞けば尼崎さんもかなりの酒豪とのことだから、酒そのものは――俺よりいいもの飲んでそうだし、おつまみ系をあげればいいかな。あとは健康面からマンドラゴラ茶もいいかも知れないな。定期的にマンドラゴラ卸してるんだし、問題は無いでしょ。
今日は何を狩ろうかな。うーん、何か食べたい物……あっビビッと来た。馬肉食べよう。少し面倒な場所だが、戸中山ダンジョンにはアイツがいたはずだ。ユニコーン。




