お出かけ前のオーロラの悩み
今日はオーロラが待ちに待った夏祭り当日。お昼頃である今の天気は雲一つない快晴でひりつくような暑さをしているが、祭りが始まるのは太陽が沈み始める夕方からだ。それでも暑くはあるだろうが、幾分かはマシだろう。
夏祭りの予定が控えている俺だが、特別にやることは無い。今は麦わら帽子を被って昼食前に庭に水を撒いている。赤大蛇の帯皮を装着しているから暑さは問題ないし、日焼けを気にしているわけでも無い。単に気分で被っているのだ。
「ピギ~」
「親分、こんなもんか?」
「ピギッ!」
「はいはい、もう少しだな」
植物は何でもかんでも水をあげればいいわけではない。あげ過ぎてもあげなさ過ぎても枯れてしまう恐れがあるのだが、意思疎通が出来て、水加減が分かる親分がいればその植物に合った量を教えてくれるのだ。今もその指示に従って水をやっているのだが……親分は他のマンドラゴラに比べて量が多くない?いや本人もとい本マンドラゴラが大丈夫と言うなら問題ないのかもしれんが。
「ジョージぃ!!決まらなぁい!」
「痛いっ!」
悲鳴に近い声と共にうなじに走る衝撃。その時脳裏に過ぎったのは、マンガやアニメでよく見るうなじに手刀をトンと叩き込む所謂当て身。思わず痛いと言ってしまったが、あくまで反射で言っただけで特に痛くないし気絶しそうにもならなかった。
さて、うなじを擦りながら後ろを向くと、犯人がぐるぐると飛び回っていた。まぁ、声で分かっていたことだが、オーロラだ。その腕の中にはいくつもの色鮮やかな布が抱えられていた。
「まだ決まってなかったのか?」
「だってドレもステキなんだもん!」
オーロラが抱えている布の正体は、視聴者たちから送られてきた妖精サイズの浴衣だ。何を隠そうオーロラは朝から――いや、昨日の夜からこんな調子で今日夏祭りに着ていく浴衣を決めれずにいた。前にもこんなことがあったような気もするが……?
まぁ、初めての夏祭りに来ていく浴衣だもんな。悩む気持ちは分からなくもないが、時間は刻一刻と近づいているのだ。オーロラの着付けは巣守さんちでやってもらえることになったが、祭りに行くためにも遅れるわけにはいかない。さっさと決めて欲しいところではあるが――だからこそ、決めかねてしまうのかもしれないな。
「ジョージ、ドレがいいと思う!?」
「赤と白のストライプの奴」
うん、正直この展開は読めていたので、質問されて即答した。言っておくが、何も考えずに反射で答えたわけではない。オーロラがどの浴衣で悩んでいるか知っていたうえで、オーロラの着た姿を見たいと思った浴衣がそれだった訳だ。俺のあまりの即答にポカンとしたオーロラだが、指定した浴衣を見て、自分の体に当ててみると、パッと表情を明るくさせ
「ウン、いいかも!」
と言ってさっさと家の中に戻っていった。どうやら俺が選んだヤツに決めて浴衣を片付けに行ったのだろう。下手に出しっぱなしにしているとシワになっちゃうからね。俺はそんなオーロラの背中に「そろそろお昼だからすぐ戻って来いよ」と声を掛けておいた。返事があったから大丈夫だろう。
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今日のお昼ご飯は納豆と大葉のパスタだ。これ、簡単に作れる割に美味しいんだよな。フォークでくるくるとパスタを巻いて持ち上げる、納豆の粘々で糸が伸びるがそれを気にせず口に運ぶ。納豆特有の風味に加え、加えておいためんつゆがベストマッチ。暑い日でもあっさりとイケてしまう。向かい側で食べているオーロラも顔を納豆でべたべたにしながらも笑顔だ。その笑顔には浴衣が決まってスッキリしたという意味も含まれているのだろう。
「ナットウってご飯だけじゃないんだね!」
「ご飯のイメージ強いもんなぁ。納豆トーストってのもあるぞ?」
「エッ!?パンと合うの!?」
言いたいことは分かる。俺だって納豆パスタを初めに聞いたときは衝撃的だったし、納豆トーストを知ったときはパスタの何倍もの衝撃があった。だが、興味本位で作って食べてみたらこれが案外悪くなかったりするんだから驚きだ。
ふむ。こうして話していると俺も段々と食べたくなってきたな。
「よし、近いうちに配信で納豆パーティーでもするか」
「ワァ!イイかも!でも臭そう!」
「ま、まぁ臭い配信には載らないし?」
そうか、そうだよな。納豆臭いもんな。もしやるとするなら換気はちゃんとしておかなきゃな。配信部屋が臭くなってはかなわん。
ちなみに普段昼食でパスタを食べる時は俺もオーロラも大盛りにして食べるのだが、祭りに備えて普通盛に留めている。別に大盛りを食べたところで問題は無い可能性もあるが、こういうのも祭りを楽しむためには必要だろう。いやぁ、祭りが楽しみだなぁ。
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「なんでっ!俺がっ!浴衣をっ!着る羽目にっ!なるんじゃいっ!」
「キャーッ!ジョージさん似合ってる!」
「ジョージコッチ向いてー!」




