【烏賊】パスタのお次は【んとも】
「まさかウェットティッシュ10枚使っても微妙に黒いとは……恐るべし剣王イカ。あとは風呂で洗い流すしかないか」
「ソウダネー」
『お風呂配信と聞いて』
『全裸待機なら任せろ』
「配信しねぇよ服着ろ」
机の上に乱雑に置かれた真っ黒のウェットティッシュをゴミ箱に捨てる。奮闘の結果、イカスミの下からようやく肌色が見え始めてきたが、これ以上時間を掛けられないから一旦ここで止めておいた。まぁ、配信に載せられない程酷いわけじゃないし。
という訳で、イカスミパスタの皿を片付けて、俺は一度キッチンに引っ込み次の料理の準備をする。配信部屋に用意していなかったのは偏に冷やしておきたかった料理があるのと熱いうちに食べたい料理もあり、それを調理してすぐに食べたかったからだ。ちなみにその調理をしている間は、別の衣装に瞬時に着替えたオーロラに頑張って場を繋いでもらった。と言ってもオーロラも最近は場繋ぎにトークをしているだけではなく、パソコンで出来るミニゲームを配信に載せて実況プレイをしてみせた。……ゲーム配信のやり方教えたっけ?
それは後にイカ配信第2部を飾る料理は、剣王イカの刺身・真剣先イカと大葉と砂肝の炒め物と両方のイカを用いたイカの唐揚げだ。いやはや、夏に揚げ物調理をするのは酷ではあったが、それに見合ったいい香りを放つイカの唐揚げ。イカスミパスタを平らげてすぐの筈なのに、お腹は次を求めていた。フッ欲張りさんめ。まぁ、料理持って配信部屋に入った俺の肩にも欲張りさんが降り立って涎垂らしてるんだけど。
「オイシソー……」
「すぐに食べれるから待ちなさい。ステイ、オーロラステイ」
『よう作るなぁ』
『なんでイカスミパスタと一緒に出さんかったん?』
「なんというか……イタリアンと居酒屋メニューを一緒に出すのに違和感があったからかな」
『確かに両方いっぺんに出す店はほぼないだろうな』
『剣王イカもいれば真剣先イカも当然いるか』
『あれ?真剣先イカの軟甲って武器の素材になるよね?』
「うん?あぁ、そうだな。一部の軟甲は使うつもり」
そう、これは俺も狩った後に解体所で解体を依頼した時に知ったのだが、剣のように斬ることのできる真剣先イカの軟甲は優秀な素材として用いられることが多い。それを大量に狩ったのだから作ろうと思えば色んな武器が作れるんだが、刀剣はすでに吽形があるし、特に二刀流する予定も無いし、変に武器を増やすとメンテナンスの手間もかかりそうなので、今回は真剣先イカの中でも小さい個体の軟甲で解体用ナイフと矢を作ってもらうことにした。矢はアレだ。矢尻に使う。
「よし、酒酒。オーロラ、ビールでいいか?」
「うん、オネガイ!」
ビールをグラスに注ぐときは液体と泡の黄金比率7:3を目指して……めざ……
『これ8:2じゃねぇか!』
「飲めりゃいいんだよ!それに注いだの俺の分だし!」
『0:10じゃないだけマシ』
『0:10ニキ泡しか口にできなくて草』
その後のオーロラの分のビールは7:3を見事にクリアできたから良しとしよう。
さて、何を先に口にするかだが、俺は迷わず唐揚げに箸を伸ばした。一部視聴者からは「大葉を先に食べないなんて」と正気を疑われたが、別に好物=先に食べる訳じゃ無かろうて。――ちなみに刺身にも唐揚げにも大葉が添えられているのはご愛敬だ。あと料理を綺麗に見せるためにも優秀だから……
オーロラは炒め物を選び、それぞれ口に運ぶ。ジャクッとした軽快な音と共に歯が唐揚げに通る。イカスミパスタの時も思ったが、身が柔らかい!だからといってふにゃふにゃという訳でもなく、しっかりとした歯ごたえもまた感じる。極限なスパイスをまぶして揚げた唐揚げだが、イカ本来の旨味も出てこりゃビールが止まらん。思わず一気飲みしてゲップが出てしまうのは許してほしい。聞こえないように隠れてするから。
「オーロラ、そっちはどうだ?」
「オイシイよ!イカも砂肝もズット嚙んでられそう!」
「そうかそうか。丁度いいところで飲み込めよ」
『ぐおお、パスタもいいが、こういう居酒屋メニューもまた良き……』
『イカの唐揚げならスーパーのお惣菜にまだギリギリあるんじゃねぇか?』
次は剣王イカの刺身だ。真珠のように白く輝く細切りされた刺身にちょちょいと醤油とわさびをつけて口にする。これは――!あの11匹の剣を勇ましく振るう剣王イカの姿からは想像も出来ないほどの繊細なお味……!大味ではないし、かと言って控えめという訳でもない。確固たる味わいがそこにはあった。
「美味ぇ……イカの刺身って子供の頃はハッキリ言ってあまり魅力的に思えなかったんだよな。でも今は滅茶苦茶好き」
『大人になったってことなんだよ(適当)』
『子供の頃ってどうしてもマグロとかサーモンに目が行っちゃうからな』
「ネェ、ジョージ……これご飯欲しくならない?」
「それは思った。という訳でご飯をよそって来るが……オーロラどれくらい欲しい?」
「オオモリで!」
「奇遇だな、俺もだ」
『イカスミパスタも相当な量だったはずなんだけどまだ炭水化物採るんかこいつ等』
結局俺達は3種のおかずをお供に大盛りご飯を3杯、ビールを5杯ほど平らげてしまった。「美味しい」のがいけない。ご飯も酒もあるのがいけない。




