【イカスミに】ダークサイドに堕ちたパスタ【染まれ】
「はぁい、皆様いかがお過ごしでしょうか。ジョージの酒飲みチャンネルのお時間で御座います」
「ハァイ!」
『ハァイ』
『はじまた』
『あの、皿に上にあるものってダークマター?』
『うわ、あらゆる光を吸い込みそうな黒いのがある』
いつもの調子でスタートした配信だが、目敏い視聴者はすぐに盛られている料理に気付いてくれたみたいだ。そしてあらゆる光を吸い込みそうな黒いのというのは正しい表現だ。配信ということで、料理を見えやすくするように部屋はいつもより明るくしている。ここまで明るくすれば黒とは言え、料理の中に隙間もあるし、少しは反射するものだが、その料理は関係ないとばかりにただ黒くあっていた。ダークマターと言われてもおかしくはない。
「今日の料理――まず第一弾はイカスミパスタだ!」
『パスタ。パスタ?』
『いや、イカスミとはいえ黒すぎない?』
『お前これ絶対ダンジョン産のイカ使ってるだろ』
「正解、これ剣王イカのイカスミ使ってます」
『剣王かよ。納得の黒さ』
剣王イカは生涯、元来イカが逃走用に用いるはずのイカスミをどのような窮地であろうとも決して使用しない。そのため、その墨袋の中には生まれてから命を落とすまでの剣王イカの旨味が熟成された極上で濃厚なイカスミが詰まっているのだ。その旨味は子分である真剣先イカは元より普通のイカやイカ型モンスターのイカスミの何よりも誇る――らしい。俺もイカスミについては狩った後に知った。
さて、剣王イカのイカスミの濃厚さは味だけではなく、色にもあった。まぁ黒い、黒すぎると言わんばかりに黒い。その黒は黒らしく、あらゆる色を黒く染める。……悪役っぽいキャッチフレーズだな。だが、その言葉に偽りなし。普通のイカスミパスタであればどこかしらにイカスミが薄くなりスパゲティ本来の色が見えたりするのだが、それをペイントの塗りつぶしツールを使ったかのように真っ黒に染めるのだ。
『なるほど、だから今日は紙エプロン付けてダボダボの服着てんのか。男の時の?』
『剣王イカのスミって食べ物と服にはしつこいくらいこびり付くってマ?』
『マだぞ。墨汁の何倍も落ちにくい。だから紙エプロンを付けているとしても着る服は捨てても問題ないもんを着るといいぞ』
「そうなんだよね、今着ている奴は男の時のそれも箪笥の奥深くに眠ってた奴だよ」
実はイカスミが落ちにくいことを知らずに調理に取り掛かり1敗済みなのである。着てたのが暑さに負けてインナーだったから大したダメージでは無かったけど。勿論オーロラにも紙エプロンを装着させ、こういう時のために買っておいた妖精サイズの黒い無地のシャツを着せている。毎回オーロラの華やかな服を楽しみにしている視聴者には申し訳ないが、イカスミパスタを食べきったら着替えさせるので許してほしい。
「そして合わせるお酒は白ワイン。日本酒とかでもいいみたいなんだけど、どうしてもワインのイメージがあるんだよね。あのお手頃ファミレスのおかげで」
『分かる。あそこ美味いよな』
『1000円であんなに満足できるのヤバすぎる』
「それじゃ両手を合わせて、いただきます」
「イタダキマス!」
念のため、紙エプロンが食事中に解けないように緩んでいないか再確認をして準備はOK。フォークを使い、まずは目を凝らしてようやく見つけた剣王イカの切り身を焼いたものを見つけて刺す。そして切り身を刺したまま、くるくるとパスタを巻き込む。
こうしてみると食べ物にはあまり見えないが、フォークの先からは間違いなくいい匂いがする。しかし、巻きすぎたかな?はしたないと言われるかもしれないが知ったことか。俺は出来るだけ口の周りが汚れないように大口を開けて――あ、少し口の端に当たった。ま、しゃーない。――パクリ。咄嗟に片手で口を隠して咀嚼する。
「うンま!?」
「イソの香りがする!オイシイ!」
あまりの美味さに、口を抑えながらも声が出てしまった。すげぇな。イカスミを採るイカでこうまで変わってくるとは思わなかった。言いたいことはオーロラにとられてしまったが、確かにこれを口に含んでいたら磯の優しい香りがこうふんわりとしてきたし、なんなら目を閉じていたら海にいるのではないかと錯覚を覚えたほどだ。
これはと思い、すぐにワイングラスに手を伸ばし、白ワインを流す。っかぁ!これにもどこか磯の香りがするし、ぶどうの香りが鼻を突き抜けてくる。これはたまらん。パスタ⇔白ワインと黄金ループが完成してしまった。こうなってしまった俺とオーロラは止まらない。互いに「美味い!」「オイシイ!」を繰り返しパスタとワインを口に運ぶマシンと化してしまった。
『2人とも止まって!』
『あー黒い黒い』
『羽根突きでもやってんのか?』
最後のパスタ一本を口に運んだ時、既に俺達の口周りは漆黒に染まっていた。……ウェットティッシュどこ置いたっけ。




