それはイカがなものだろう
夏祭りに行くことになっても、俺達のやる事は変わらない。――即ち、ダンジョンだ。え?オーロラの浴衣を買いに行く?まぁ、無ければ買わなければならないよな。でも買いに行く必要はない。それは何故か。答えは視聴者からのプレゼントの中にオーロラサイズの浴衣があったからだ。しかもこれ、触ってみたんだけど、人間が使うようなちゃんとした生地だった。オーロラを着せ替えたい執念がすごい。
そんな訳でオーロラの浴衣は問題なし。俺は適当な服にいつもの帽子被って狐面でも付けておくことにした。夏祭りならお面で顔を隠しても違和感は無いだろう。都合よく狐面は無かったのでそこはAmazonでポチッたけど。それでも正直不安はあったけれど、ここで救世主が現れた。巣守さんちの翠ちゃんだ。花子さんから聞いたのか、「女友達役として一緒に行くよ!」とその日メッセージが来た。
翠ちゃんは祭りの日には毎年帰ってきているそうなんだが、今年は都合の合う友達がいなかったのだとか。確かに狐面付けた俺一人(オーロラは隠れているものとする)が祭りをぶらぶら歩いていたら「なんやアイツ」と注目を浴びる可能性はある。が、そこに花の女子大学生を付け加えたら?それだけで友達と歩く祭りにちょっとはしゃいで狐面つけちゃった女の子に早変わりという訳だ。大丈夫か俺。
さて、今日潜るのは海ダンジョンである相模浜ダンジョンだ。狙いはイカだ。イカと言えば刺身・イカ焼き・いかめし・煮物と色んな種類の料理があるが、俺が今ビビッと来たのはイカスミパスタだ。久しく食べていないから一度意識すると食べるまで頭の隅を離れなくなってしまった。
で、イカを狙うべく勇んでダンジョンに潜ったのは良いのだが
「ジョージ、タコ!」
「タコかぁ!なんでこうもタコばかり!」
絶賛物欲センサーが仕事をしていた。とりあえずはイカ型のモンスターであれば問題ないのだが、何故かそういう時に限ってタコ型モンスターがよく現れる。聞けばタコの吐くいわゆるタコスミもイカスミ同様に食べることは出来るそうだが……イカに比べて取り辛いらしい。
まぁタコはタコでアヒージョやたこ焼きにも使えるから取っておいても損は無いんだけど。にしても今相対しているタコ――アミダコは普通であればタコは8本の足が分かれているのだが、その名の通り足が繋がって網目状になっている。
普段は小さい魚型モンスターを足の網で捕らえては生かしたまま自分の好きなタイミングで食べるため、網の中に餌がある状態のアミダコは冒険者を襲ったりしないのだが、網の中が空っぽの時は体を保護色にしてこっそり近づいて捕えにかかってくる。
俺達の場合は普通に気配で気付いた。アミダコは捕まってしまえば脱出困難で厄介なモンスターだが、一度見つけてしまえば対処は容易だ。だってこいつ、網で捕まえる以外の攻撃方法ないんだもの。強いて言うならタコらしく墨を吐いて視界を阻むこと。これも毒がある訳でもなく逃げる用の最終手段らしい。
「よいしょ」
「ヨイショー」
奇襲に失敗したアミダコは墨を吐いてきたが、視界を塞がれたからとどうこうなる俺達ではない。逃さないよう墨の中を突っ切って接近し、俺は吽形で、オーロラは氷魔法でアミダコの両目の間を切りつける。そう、タコ型モンスターは一部を除いて急所は普通のタコとそう変わらない。故に切りつけちゃえば締められて動けなくなる。
「汚れチャッタネ」
「そうでもしなきゃ逃げられちゃうからな。ほら、シミになっちゃう前に拭いてしまおう」
「ハーイ」
動かなくなったアミダコをAカードに収納して体に付着したタコ墨をさっと拭き取る。
今度こそイカ型モンスターが見つかるといいんだが……あっ、デンキウツボじゃん。こいつは唐揚げにすると美味いんだよな。獲っておこう。
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「ようやく見つけた……ッ!」
「ウワァ、すごぉい……」
何時間とイカを求めて探索しただろうか、その代わり他の海産物モンスターは満遍なく獲ることは出来た。海鮮丼を作ってもいいかも知れないな。
さて、ようやく出会えたイカ型モンスターは、まさかの"戦艦"の追跡ガツオに匹敵するボスモンスターだった。その名も剣王イカ。イカ特有の10本の足に、それぞれ頭……じゃなくて胴と耳の部分が色んな種類の剣となっている子分である真剣先イカを武器にして戦うモンスターだ。ボスの武器として文字通り振り回される真剣先イカの心境や如何に。
「ギュギューッ!」
「ゲッ、嫌な鳴き声だなぁ。とっとと倒してしまおうか。」
「オーッ!」
奴の発する声は、発泡スチロールが擦れるあの音を連想させ、思わず鳥肌が立ってしまう。出来ることなら耳を塞ぎたいところだが、それをしてしまえばまともには戦えないだろう。まさか特に剣王イカも意識していないであろう鳴き声に悩まされることとなるとは。さぁお前のイカスミいただくよ!




