【口の中】Fire【大パニック】
「とりま最初はストレートで飲んでみるかな。オーロラはどうする?」
「ワタシもストレート!」
『俺の記憶が正しければスピリタスで作ってたと思うんやが』
『火鍋で火を噴くのかスピリタスで火を噴くのかもう分かんねぇな』
オーロラからのオーダーも聞き、アカオオダイショウ酒をそれぞれのガラス製の御猪口に注ぐ。梅酒瓶から直接酒を注ごうとすると、大惨事になるのは明らかだったので、柄杓を用意していた。これなら問題なく注げるし楽でいい。透明の御猪口に注がれたアカオオダイショウ酒は、映像だけ見るならオシャレに見えるのだろうが……
「スゴイ香りだな……」
「嗅いだコトないカモ」
『そらそうよ』
『血抜き処理とかしてるならまだマシなんじゃね?』
「それはあるかもしれんな。鼻摘まむほどではないが、独特と言えばいいのか?」
『俺ハブ酒飲んだことあるけど、鼻摘まみながら飲んだぞ?もしかしたらアカオオダイショウ酒は匂い抑えられているのかもしれん』
なるほど、蛇というくくりでは、ハブもアカオオダイショウも似ている物だとはいえるが、そもそもアカオオダイショウはモンスター故また違ってくるのかもしれない。改めてアカオオダイショウ酒の匂いを嗅ぐが、どこか薬っぽさを感じさせられる。少なくとも飲むことを拒否するほどではないな。
おっと、酒も良いが、火鍋も忘れてはいけない。
「鍋も盛っていくか。オーロラ、何が欲しい?」
「豚肉!あとハクサイとキクラゲとネギチョーダイ!」
「ハイハイっと」
『ジョージ、ちなみにその豚肉って?』
「オークの奴。あ、鶏肉はコカトリス」
『何となくは分かってたけども』
『具材全部ダンジョン産なんやろなぁ』
「豆腐さんは違うぞ?」
『豆腐さん以外はダンジョン産って言ってるようなもんやろがい!』
正確に言えば鍋つゆは市販のキューブを入れれば出来るやつをベースに味を調えているからそちらもダンジョン産ではない。だって、ダンジョン産だと基本金がかからないからね。食費を稼げるうえに食費も減らせるのだから潜れる人にとってはありがたい職場だ。
さて、オーロラの分の具材を盛ったら今度は俺の番だ。――そうだな、鶏肉と大根……はまだ少し硬いな。なら水菜とぶなしめじと蓮根と豆腐だ。豆腐は取り皿に分けたものを箸でサイコロ状に切り分ける。これは勢いで熱々の豆腐を丸ごと一気に食べて胃の中で灼熱を纏いながら暴れまわることを防ぐためだ。ちなみに6敗くらいしている。
よし、準備は完了だ。今までの配信では基本最初に酒のお供から手を出すことが多かったのだが、今回はアカオオダイショウ酒を先に口にすることにしていた。フッ、柄にもなく緊張しているのが分かる。しかし、理解してほしい。目の前にあるのは飲んだことの無い未知数の酒だ。それも売れば高額買取必至のアカオオダイショウを材料とした酒。恐らく家にある酒の全てに勝る価値をしている。ただ、その味は誰も知らないのだ。いや、知っている人はいるかもしれないが、少なくとも調べた限り俺と同じ様なことをしている人はいなかった。ちなみに酒に漬ける前に毒は無いことは検査済みなので、そちらに関しては問題なし。
「じゃあオーロラ、行くか」
「ウン」
『凄い神妙な雰囲気』
『※酒を飲もうとするだけです』
互いに頷きあい、御猪口を軽くぶつけ合い、一気にアカオオダイショウ酒を呷る。
瞬間、俺の脳内に電流走る。いや、比喩でも何でもなく痛みこそないがビビッと来た。それに合わせて体もビクッと震えた。チラッと見えたコメント欄に『何一気飲みしてんの!?』と至極真っ当なご意見が届いていた。……ってあれ?いつの間にか口に含んでいたはずの酒が無い?いや、この喉を通る確かな熱。俺は気づかないうちに飲み込んでしまったみたいだ。だが、その味は舌に残っていたので、集中してみると……とにかく癖が強い。少なくとも嫌いな味ではないのは確か。ただ、今まで飲んできた酒の中ではあまりに異質な味のため、感動で声が出るというよりはポカンとしてしまう。
「お、おう?」
「オイ、シイ?」
『美味しかったの?』
『その前に体に異常ない?大丈夫?』
「体調面は大丈夫。体がポカポカする感じはあるが、意識はハッキリしてる。オーロラも大丈夫か?」
「ウン!」
こっちを見てニッコリと笑いかけるオーロラ。確かにその顔は軽く朱に染まっているが、特に異常があるようには。あ、少し汗をかいてるくらいか。俺も少し汗ばんでいるか?
おっと、アカオオダイショウ酒の感想を言っておかねばな。
「この酒ね、俺は美味しいとは思えたけど癖が強いから人は選ぶかもしれんな。後、酒が弱い人は絶対飲んだらダメなやつ」
『スピリタスの時点で人選びまくりだろ』
『篩の網目が大きすぎるッピ!!』
『※このエルフと妖精は特別な訓練を受けています』
『特別なのは訓練以上に体質な件』
『ガチの酒カスでも軽率に真似しちゃダメだよ!』
「それはそう。俺達だから大丈夫って可能性もあるから本当にマネしないで」
ってか暑くなってきたな。もう1度くらいエアコンの温度下げておくか。――涼しい風が体を通り抜けて、あ゛ぁ、快感ッ!
よし、体が再度涼しくなってきたところで、今度は激辛火鍋の方を食べるか。いや、その前にアカオオダイショウ酒を追加しておこう。今度はロックで。では、改めて鍋の方を食べていくとしようか。俺もオーロラも、最初に手を出したのは肉。鍋のせいで赤く染まっているが、ちゃんと火は通っているので問題は無い。パクりと。
「ふむ。あーハイハイ、言うほど辛くはないな。でも噛めば噛むほど薬膳系の味が染み出て……美味いな。あれ、舌がヒリヒリしてきた?」
「オイシイ!ジョージこれピリッとする!オイシ――」
『止まった』
『回線落ち?』
『いや、鍋はグラついてるし2人が固まってるだけだろ。口は咀嚼してるみたいだし』
『暑いのにフリーズしてるってかHAHAHA!』
「「辛ッ!!!!」」
どうやら激辛火鍋は油断した獲物を背後から刺す性質を持っているようだ。そしてこの配信を見た視聴者たちは後にこう語った。俺達は2人が叫ぶと同時に口から炎を吐いている様を幻視した。いや、エルフも妖精も火吐かないから。




