推しの為なら何でもやる
「なるほど、ブイチューバー……知識だけは起きた時に仕入れておったが、中々にこう、心躍るのう。お主の飯を食ろうた位の感動じゃ」
「それはいいんだが、スマホ返してくれませんかねぇ?」
「カエセ!」
Vtuberという結構な底なし沼にハマってしまったヤマダは噛り付くように曙りゅーたんの動画を視聴している。会話している今だって、目線はスマホに釘付けだ。悪感情を持たれたり困惑されるよかいいとは思うが、沼り過ぎてスマホを返してもらえるか少々不安になる。
スマホを返さないことに業を煮やしたオーロラがポカポカとヤマダの頭を殴りつけると、ヤマダは口を尖らせながらも渋々と返してくれた。なお、頭は微塵も痛そうにしてなかった。まぁオーロラの腕力だし……魔法だったら不味いことになっていたかもしれんが。
「むぅ、もう少し見たいのじゃがなぁ。これはあれじゃろ?通信機器やらネットが必要なんじゃろ?」
「そうだな」
「ふむ……」
それだけ呟くとヤマダは口元に手を当て、考え始めた。この流れはスマホないしはパソコンを持ってくるように頼まれる奴では?そうなってしまうと面倒だな。料理を振舞うという契約は既に達したのだから帰してほしいんだが、どうやって断るべきか。そろそろ帰らないと家に待たせているマンドラゴラがとりあえず危ないとか?急にホームシックになったとか?待て、もし出会った時に結ばれた契約を再度交わされたら、逃げようがないのでは。ともすれば、考え事をする前にさっさと退散を――
「よし、やるか!」
できませんでした。何かを思いついたのか、ガバッと顔を上げたヤマダに捕捉されてしまった。幸い逃げようとしたことはバレてはいないようだが、オーロラと共に首根っこを掴まれると無理やり引っ張られる。抵抗は……無駄だわ、どんなに力を込めたとしても抜け出せる気がしない。
グイグイと引っ張られ行き着いた先は、出会った当初にヤマダが腰かけていた祠だった。当初は気づかなかったが、祠には小さな鏡が置かれていた。何でこんなところに鏡が?そんな疑問が頭をよぎるが、そんな考えは鏡から放たれた光によって遮られた。うおっ眩しっ
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視界が開けると、そこには……1つの布団が敷かれていた。それだけ。本当にそれだけ。布団とその空間に出た俺達以外何もない。周りは壁すら無いただただ真っ白な空間だ。人によっては狂ってしまいそうなほどだな。俺も長時間居たくは無いが、ダンジョン内にある全く異質な空間。もしかしてここは
「隠しエリア、か?」
「正解じゃ。ここはわえが住まう空間での。見ての通り寝る時に使っておった布団しかない有様での、こんなところではりゅーたんの動画を見ることなど到底出来ん」
そうだろうな。オーロラがいた戸中山ダンジョンの隠しエリアのように電波は何故か届いているようだが、スマホやタブレット、ノートパソコンには充電という限界がある。再度充電すればいいがそのために、ダンジョンを出なければいけない。
V沼にハマってしまったヤマダには不憫だが問題を解決するのは難しいだろう。……待てよ、なんでヤマダは俺達をここに連れてきたんだ?え、首根っこ掴んでいたヤマダの手が俺の頭を掴みだしたんだが。
「それはこうするためじゃ」
「ヴぇっ!?な、にをおぉおおぉ!?」
瞬間、俺の頭に電流が走る。痛みは感じないが、視界が再度白く染まると、頭の中を記憶が巡る。走馬灯、か?いやそれにしては思い浮かぶ光景が家にいる時の光景しかないんだが。こういうのって生まれてから今までの思い出が流れるのでは?何でYouTube見てる記憶が倍速で流れるんだよ場違いだろうが。
「もうよかろう。協力感謝するぞ?」
「ん、んん?」
「ジョージ!」
ヤマダの声が聞こえると、倍速で流れていた記憶がテレビの電源を落としたように消えて視界がクリアになった。頭をシェイクされた感覚で吐き気を覚えたが何とかそれを飲み込む。オーロラが心配してか、俺の頬に手を当てて撫でてくれるが、ヤマダめ、一体いきなり何を……ん?どことなく見覚えのある空間?いや見覚えのあるのも当然だ。だってここは……
「俺の家!?」
「そうじゃ!おっと、お主の家まで転移した訳ではないぞ?お主の記憶を読み取ってわえの空間にそっくりそのまま再現して作り上げたのじゃ!」
「いや、そんな馬鹿な話」
ある訳がない、と言いたいところだが、今俺が立っているのは言わずと知れた我が家の玄関。いつの間に東荒ダンジョンから帰ってきたのかと錯覚を覚えるほどだ。まさかと思い玄関の扉を開けて外を見ると、道路と田園風景……はなく、真っ白な空間が広がるだけだった。これはヤマダの言っている通りなのだろうが、そこで俺はもう1つ信じがたい事実に気付いた。
「玄関の電気ついてる!?電気も通ってんのかここ!」
「無論じゃ!わえにかかればこの空間に電気・水道・ガスを通すなど造作もない事じゃ!」
「あ、じゃあ料理も出来んのか」
「わえ自身は出来んがな!」
そこで威張るのか。それでいいのかヤマダ。ちなみにオーロラさん、あなた戸中山ダンジョンの隠しエリアの住人ということは、実はオーロラもあの空間を……あ、無理?後から住み着いただけ?そうなのね。
「ま、少々疲れはしたが、これでわえもパソコンでりゅーたんを見放題じゃー!」
やべぇ、このヤマダは力を持っているがゆえにやることなすことぶっ飛んでやがる。俺は軽々とすごいことをやってのけるヤマダに少なからず恐怖を覚えた。
そして気付いた。お前今そっくりそのまま再現って言ったな?……パソコン等の情報機器もろもろの初期化ぁ!!!!
みんな、配信回が見たいか?ワシもじゃ、ワシもじゃ……
もうちょっと待ってください……




