明日に備えて
「どうしてそうなった」
「俺が聞きたいんですけどね」
ヤマダから解放された俺達は早速東荒ダンジョンの受付ロビーまで戻って加藤さんに今回の探索の成果について報告した。こういったケースだと大抵は誰にも話さないよう口止めをされるのが定番だが、意外にもヤマダはそういった行為を制限してこなかった。なので細部までペラペラと話させてもらったが、案の定加藤さんは頭を抱えることに。いやぁ、俺だって心苦しいんだよ。でも報告をちゃんとしなかったって怒られたばかりだからね、仕方ないんだ!
「君から見てその……ヤマダはどうだったんだ?その、人ではないだろう?」
「確実に人じゃないですよ。モンスターではあるんだろうけど、オーロラ以上に異質な存在だと思います」
「ワタシ異質じゃないよ!」
「すまんすまん」
異質と言われて頭上でぷりぷりと怒るオーロラの頭を撫でてこれでもかと宥める。そういえばオーロラはヤマダと遭遇してからずっと不機嫌なんだよな。この場では加藤さんもいるから聞かれたくないだろうし、ホテルに戻ってから聞くか。
「勝てるか?いや、戦わない方がいいか?」
「そうですね、あれは戦うもんじゃないです。今までのどのモンスターよりも強い……言うて積極的に強いモンスターの出るダンジョンに潜っていないですけど」
ヤマダと対峙した時から生物としての本能なのか、戦ってはいけないと俺の中で警鐘が鳴りやまなかった。飄々とした態度をしていたが、あれは己の強さからくるものなんだろう。ヤマダが対話のできる存在で尚且つ「ニンゲン、コロス」なやつじゃなくて助かった。でなければ命はなかったかも知れない。
仮に東荒ダンジョンに集まった冒険者たちでパーティを組んだところで勝てるかどうか……斃せたとしても絶大な被害は免れないだろう。それは俺もだ。加藤さんには一旦ヤマダの情報は他の冒険者には伏せてもらうように頼み、彼もそれを引き受けてくれた。
「それで、明日はそのヤマダに料理を振舞うことに、か。美味い飯で満足するなら料理人を連れていければいいが」
「ダンジョンに一般人を連れて行くのは現実的じゃないですし、多分作るのは俺じゃないとダメっぽいですよ。下手に藪をつついて蛇を出したくは無いですし」
いや、もはや蛇は出ているか。
「ってな訳で、明日はダンジョン用の調理器具を借りたいんですけど大丈夫ですか?あと食材もいくらか。あと酒。」
「それは構わないが、何を作るつもりなんだ?」
「あいつ、鶏料理を所望してるんですよね。でも、鶏皮にんにくは美味いけど配信で食べるつもりなんでそれ以外ですね。食べたい物を別の奴が目の前で先に食べるのは我慢ならんので」
「配信優先なのか……?」
そりゃそっちの方が優先に決まっているでしょうに。それに鶏皮にんにくは、その名の通りにんにくを大量に使うから……その、匂いがね?ヤマダは見た感じ高貴そうな存在だからそんな奴の口からにんにく臭がするのは少し、ね。風味付け程度ならいいのだろうが。
「それでは焼き鳥とかどうだ?」
「お、アリですね。スーパーで買ったやつなら楽ですし」
「自分で作るとかはしないのか?」
「いや、焼き鳥は串打ち面倒なんでパスです」
勿論オーロラと家で食べる焼き鳥であれば狩ったコカトリスで作るのもいいのだが、串打ち3年と言うからな。下手なものを人様ヤマダ様に提供するわけにはいかないし、自分で作った物を一番おいしく食べられるのは自分だけだからな。
という訳で1品目はスーパーで買った焼き鳥。他には何を作ろうか。うんうんと唸っていると、加藤さんが自分のスマホの画面を見せてきた。そこに映っていたのは――
「ヤマダは酒が好きなんだろう?これならインパクトもあるし、食い応えもあるんじゃないか?」
「へぇ!いいじゃないですか。確かに面白そう……配信……」
「そこは妥協しないか?」
「冗談ですよ。ただ、この時期ですし丸鶏売ってますかね?」
「そこはこちらから出させてもらおう。小さいコカトリスの丸鶏があったはずだからな」
こうして明日ヤマダに振舞う料理が決まった。……あぁ、あと料理が出来上がるのを待つためのおつまみも用意しておいた方がいいか。これで今回の事態が解決してくれればいいんだけれど。
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ホテルにて。
「なぁオーロラ、なんで今日はずっと不機嫌だったんだ?」
「バラされた」
「はい?」
「ワタシの秘密。勝手にあの寝坊助にバラされた」
オーロラの秘密、寝坊助――状況的にヤマダのことだろう――がバラしたと言えば妖精女王のなりかけってところか?……いや、流石に勘付いていたが。進化してからこれまで妖精とは思えぬほどぺちゃくちゃ話して、強力な魔法を行使していれば口には出さずとも分かると言うものだ。
「いつかワタシの口から言うつもりだったのにー!!」
「お、おう。言うつもりはあったんだな」
結構はぐらかされてたから言わないものかと思っていたが。
「アイツの食べる料理にわさび仕込んでヤロウかー!!」
そう言いながらベッドの上でごろごろ転がるオーロラのその様はなんだかおもしろかった。でも、わさびを仕込むのはやめてくれ、マジで。




