更なる厄介ごと
どこか古めかしそうな衣装に身を纏った女は、それはそれは人懐っこそうな笑みを浮かべて挨拶をしてきた。その挨拶もどこか聞いたことのあるようなものだったが、俺達は厄介な存在に出会ったかもしれない。
女は華奢な体つきで、モンスターが蔓延るダンジョンで不釣り合いな印象を受けるが……恐らく奴はこのダンジョンのモンスターに囲まれたとしても歯牙にもかけず殲滅することが出来るだろう。森人だの妖精女王だの色々と聞きたい単語を出してきたが、そんなことよりも命だ。どうにかして逃げられないかな。
「ふむ、挨拶は返してくれんのか。寂しいものじゃのぉ、わえは交友を求めとると言うのに。近頃の若いもんは」
女は挨拶を返さない俺達にぶすっと顔をしかめはしたものの……害意は無い、のか?しかし、そう言われたら流石に挨拶を返した方がいいのだろう。さらに気を悪くさせたら嫌なことが起こりそうだ。主に俺に降りかかる的な意味で。
「こ、こんにちは?」
「ドーモ」
とりあえず頭を下げて挨拶――ってオ、オーロラさん?あなたにしては珍しくぶっきらぼうですね?あなた、割とどんな人相手でも愛嬌振り撒いてましたよね?そんなオーロラがすごい嫌そうな顔を浮かべている。嫌悪……というよりは面倒くさい人に会った時みたいだ。
しかし、女の方はそれでも挨拶したことに満足したのか、口角を上げカラカラと笑う。
「よしよし、挨拶は大事じゃからの。返してくれんかったらカプッといってたかも知れぬ」
「カプっと?」
「そうじゃ、こう頭蓋から一呑みとな」
女は右手で握り拳を作り、左手をまるで口のようにパクパクと開閉させると、そのまま握り拳に噛みつくかのように掴み上げた。握り拳は俺の頭の例えなのだろう。まるで俺にこうなる未来もあったと示す様に。出来るんだろうな、この女なら。
「そうしないでくれると助かるんですけど?」
「呵々、それは主ら次第じゃの。なぁに、わえとて問答無用で喰ろうたりはせぬ。ただのぉ、永き時より目覚めたもので、腹がくぅくぅと鳴って仕方ないのよ」
「喰えばいいんでは?モンスターならそこら辺にいるでしょうに」
「魑魅共はわえを恐れてか逃げて近くに居らんのよ。それに、やっぱり寝起きは人が作った温かい飯が喰いたいのぉ」
魑魅ってモンスターの事か?それ等が逃げ出しているってことは今回のダンジョン内の異変の原因はこいつか?
そして温かい飯ってそれ言外に俺に飯作れって言ってません?すっごい流し目でチラチラ見てくるんですけれど……?でもこれ断ったら断ったらで突撃お前が晩御飯になる未来がありありと目に浮かぶようだ。念のため確認しておこうか。
「俺、料理人とかじゃないんですけど」
「構わぬ。わえは人が作った物を食べたいのじゃ。不味くなければ何でもよい。鳥が好物じゃから鶏料理じゃとよい。酒に合うものだとなおよい。現代の酒があればさらによい。目の前で作るとさらにさらによい。わえの巫女がおればさらにさらにさらによいんじゃが……彼方におるようじゃからそれは諦めよう」
すげぇ、どんどんと条件が足されていく!しかも、増えていく要求に微塵も悪いと思っていないなあの顔!まぁ断る事なんて出来ないんだけれど。でも今調理器具Aカードにも入っていないんだよね。知らないダンジョンで調理出来るわけなんて無いから、そもそも家から持ってきてすらいない。そのことを女に伝えてみると
「なんじゃしょうがない。では明日じゃ。明日またここに料理の道具やら材料やら持って参れ。1日くらい時間が空いても問題は無い」
「俺達が約束をすっぽかして逃げるとは思わないんで?」
「ふむ。わざわざ言わなくても良い事を聞くんじゃ。反故にするつもりはないんじゃろうが……そうじゃな、お主、名は?」
名前?あー、そういやまだ名乗っていなかったか。
「俺はk「ジョージダヨ!」
「"ジョージ"だな。ほいっと」
言われた通りに名乗ろうとしたらオーロラがいきなり間に入って代わりに俺の名前言っちゃった。女の方もオーロラが告げた名前を繰り返すと、柏手を打った。え?何か起こったの?何も起きてないような気がするんだけど、オーロラが口の前で人差し指を立てて黙っているようジェスチャーをしているからその通りにしよう。
「これで、わえとジョージ、お主の契約が相成った。もし、約束を反故にすれば――命は無いと思え?」
「……分かりました」
「うむうむ、聞き分けのいいものは好ましいの。それじゃあ、必ず明日来るんじゃぞ?近くまで来たら"目"に案内をさせる故な。おっと、わえも名乗らねばならんの。ふむ……良い名が思いつかぬ。ヤマダとでも呼ぶがよい」
こうして俺達は自称ヤマダに見送られ、祠を後にした。ひょんなことから変な約束事を引き受けてしまったが、加藤さんに報告しておかなくちゃいけないよな。悩みの種はみんなで共有しておかなくちゃね!!!




