潜る前の挨拶と確認
「よく来てくれた、木原譲二さん。俺はここの所長である加藤だ。この場には他に冒険者はいないから妖精君も出して問題ないよ」
「あぁ、どう……も?」
「ヨロシク!」
屈強な2人の間を通り抜け、東荒ダンジョンの受付ロビーに入場した俺達を出迎えてくれたのは加藤と名乗る男だった。いや、正確に言うなら青年か。ただ、その顔はどこか幼さを感じさせる。笑顔で求められた握手に応じるが、正直驚いている。戸中山ダンジョンの所長である尼崎さんを見てるからか、ここまで若い所長に違和感を感じている。
それに気づいたのか、加藤さんは苦笑して後頭部を軽く掻いて教えてくれた。
「俺は17歳の頃から"不老"スキルを持っていてな。スキルを得てから老いていないだけで歳自体は尼崎と同じくらいだ」
「それはまた、レアなスキルですね」
「良い事ばかりでもないんだよな。元々童顔だから舐められやすいし、酒飲もうとするたびに年齢確認されるし。少しでも年老いた雰囲気出そうと爺言葉を使おうとも変なキャラ付けと言われちゃうし」
事前情報なしだったら未成年にしか見えないからなぁ。だが、華奢な印象を受ける体つきだが、握手したその手は鍛えている人の手だ。老いることがないということは、鍛えることを辞めない限り肉体が衰えることも無いのだろう。デメリットもあるだろうが、それ以上に恩恵もあるだろう。
「まぁ俺のことはこれくらいにして、調査依頼についてだ。調査には君達を含めて4組のパーティに依頼をしている。彼らは君達の1時間くらい後に来るように指示している。あまり顔は合わせない方がいいだろう?」
「助かります」
「ただ、彼らにはもう一組冒険者がいるくらいは伝えさせてもらうよ。それで、粗方聞いていると思うが、この東荒ダンジョンではモンスターが凶暴化している。その原因の調査をしてもらいたい」
「原因の解決とかは?」
「現段階では無理に解決しなくても構わない。それで何かあっては元も子もないからね。まずは1つでも情報を持ち帰って欲しい。あとは……侵入を禁止していることで東荒ダンジョンの素材が流通しなくなってね。買取を強化させてもらうよ」
続けて聞いた情報は東荒ダンジョンの注意点だ。東荒ダンジョンは事前に聞いたようにジャングルが形成されたダンジョンだ。戸中山ダンジョンでは動物型のモンスターが出現していたが、東荒ダンジョンでは動物型だけではなく、植物型のモンスターも存在する。
基本的に地面に根を張り移動することは無いのだが、その分擬態だったり罠を張るのが得意な個体が多いらしい。そして純粋に動物型よりパワーがあるモンスターもいる。
「毒を持つものもいるから十分に気を付けて欲しい。そのためのポーションはこちらで用意している」
「おいくらです?」
「費用はこちらで持つから気にするな」
それは助かる。ポーション類は効果があるだけその分価格も上がってくる。買えないわけではないが、タダで使ってもいいのなら、有難く使わせてもらおう。
さて、あと聞きたいことは……おぉ!最重要なことがあったじゃないか。
「加藤さん、お伺いしたいことが」
「お、おう。そんな端正な顔で迫って来ないで貰えるか?不老は性欲も衰えないんだからビックリする」
おっとこりゃ失礼、気持ちが先行してその分前に出てしまったようだ。気を取り直して――
「美味しいモンスターいます?」
「美味しい……モンスター?」
「はい、特に酒に合いそうなものがあれば」
「オシエテ!」
凄い拍子抜けしたように顔をされたが、俺からしたら重要なことだ。調査を疎かにするつもりはないが、やっぱりモチベーションがあればあるだけ頑張れるからね。それに配信のネタにもなるだろうし。
ポカンとしていた加藤さんだが、やがて呆れたように笑った。
「なるほど、聞いてはいたがかなりの食道楽みたいだな。俺も酒飲みだ、君の好みと合致するかは分からんが、このダンジョンのおすすめを教えよう。それはだな――」
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「なるほど、これは確かに異常事態かも知れない」
「5タイメー」
足元に転がる弾ゴロムシを軽く蹴り、額に僅かに浮かぶ汗を拭いながら独り言ちる。オーロラの方も凍らせ終わったようだ。
加藤さんと萩原さんに見送られ、東荒ダンジョンに突入した俺達が目の当たりにしたのは、まず木。それ自体は戸中山ダンジョンでうんざりするほど見たのだが、やはりあちらとは生えている木も当然違う。普段であればもう少し周りの観察が出来たのだろうが、すぐにモンスターとエンカウントしてしまった。
しかし、そこまで強いモンスターではなかったので難なく退治することは出来たのだが、驚いたのは襲ってきたモンスターだ。普通一斉に襲ってくるモンスターと言えば、イャナサウルスのような同種のモンスターだ。稀に共生という形で別種と行動するモンスターは存在するが、今しがたエンカウントしたの奴等はそういった特性は調べた限りないらしい。じゃあ冒険者の知らない所でモンスターの中で同盟が組まれたのかと思いきやそれも違う。俺達だけじゃなくモンスター同士も争っていたわけだし。今仕留め終わったモンスターも虫型という点では共通していたが、種類は別のものだ。
あとはそうだな、俺の気のせいかもしれないが、ここのモンスター……どこか焦っていたような?いや、特に虫型モンスターの表情は感情が読めないがそんな気がした。
「ネェ、ジョージあれじゃない?」
そんなことを考えながらも歩いていると、オーロラにほっぺを突かれた。何かを見つけたのだろう、その指差す先に目を向けると、加藤さんに聞いていた情報と一致するモンスターがいた。というか、生えていた。
それは一見、ただの植物――ではない。普通の植物は茎の先にぶら下がる赤い果肉にまるで生物の様な口に牙なんか生え揃ったりしない。俺達に気付き威嚇行動なのか、歯を鳴らしているし見るからに狂暴そうだ。
「あれかぁ……ハラペーリックプラントってのは」




