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誰にも言わないで!  作者: 山吹カオル
15/22

イライラする

 

 「なあ」

 嫌だ嫌だと思いながら、それでも昨日のあやふやに出来あがった宿題の数Ⅰのプリントを提出する前に、アイちゃんの答えと見比べてさせてもらおうと思って、カバンから取り出そうとゴソゴソやっている所へキタガワがやって来て私に言った。

「なあって。さっきオレが呼んだの聞こえてたろ」

「…」

え?って感じでそばにいた子たちがこちらを見る。

「目が合ったじゃん」とキタガワ。「なんで返事もしねえわけ?さっさと先行くし」


 他の子たちに聞こえないように小さい声で答える私。

「だって…なんか渡されてるとこだったじゃん女子に…」

ちっ、と舌打ちするキタガワ。

 ええ~~…私が舌打ちしたいくらいですけど!?

「もらってねえわ」吐き捨てるように言うキタガワ。

もらってないの!?ほんと?ほんとに?思いながらキタガワを見つめるとキタガワも真っ直ぐ見返してくれた。

 良かった!!

 思わずぱぁっと笑顔になりかけて慌てて我慢する。そんな私をキタガワがじっと見て、そして下を向いた。

 

 

 そこへ「おはよ!」とキタガワに声をかけるフルカワさん。

「あ~…はよ」と気のない感じで答えるキタガワ。

 フルカワさんがキタガワに声をかけるのはいつもの事だが、今キタガワは自分の廊下側の席から離れた窓側の私の席まで来ているのに、わざわざそこへやって来たフルカワさんだ。

「どうしたの?中田さんとなんかもめてんの?」

「いや」とそれだけしか答えないキタガワ。それでそのまま自分の席に戻って行く。

 ちょっと待て、と思う。私の所にフルカワさんを残して行くな!



 フルカワさんが私を見る。

 ぅわもう、自分でも驚くほど目を反らすのが速いわ私。

「ねえ中田さん」とフルカワさん。「私やっぱカナエの小学の時の写真みたいな~~」

「…」

「写真送って欲しいな~~」

嫌だよ。キタガワの小学の時の写真、フルカワさんには見せたくない。しかもそれを私に頼んで来るのが嫌だ。

「本人に頼めばいいんじゃないの?」

と、冷たい感じで言ってしまった。本当は本人に頼んで欲しくはない。

「カナエに?くれないよ。普通にラインしてもほぼ返してくれないし」

そうなんだ…なんか…ちょっと嬉しい。

「あ~~」と笑うフルカワさん。「中田さん今ちょっと笑ったよね」

ギクッ!

「笑ってないよ!」笑ったけど。


 「なんかやっぱり」とフルカワさんはまだ自分の席に帰らない。「昨日仲良さげだったらしいじゃ~~~ん」

「…」

「昨日の朝の話!バスの中でカナエと」

「…」

「私も小、中一緒だったらな~~。いいなぁ~~中田さん。どんな感じだった?」

「?」

「もう!小学校の時のカナエの事だよ~~!なんか中田さんて天然ぽいね」

そんな事はない。

 

 「…で?」と催促するフルカワさん。「どんな感じ?」

「…え~と…普通?」

「何で疑問形?普通?」眉間にしわを寄せるフルカワさん。

「あの、フルカワさん、私数学のプリントちょっとアレだから見直したいんだよね。だから…」

「私の見る?」

フルカワさんが?私にプリントを見せてくれるの?どうしよう…

フルカワさんは苦手だから出来るだけ絡みたくないけど…早いとこプリントのチェックはしたいし…

ニコッと笑ってフルカワさんが低い声で言う。「私のは見たくないの?」

「ううん!ありがとう」



 フルカワさんが自分の席に戻ってプリントを持って来て見せてくれる。そうなのだ。フルカワさんは意外に、意外にとか私が言うのも失礼だけど、理数系が得意なのだ。それにフルカワさんて、ちょっとキツくて煩いけど何気に良い人じゃん…と思っていたら言われた。

「ねえ、カナエの写真見せてくれる?」

 フルカワさんのプリントを見る手を止める。見せてもらわなきゃ良かったやっぱ!

 そう思ったらフルカワさんが笑って言った。

「うそうそ~~うそだって~~もう~~。さっさと見なよプリント~~」

 なんかやっぱり苦手だフルカワさん。思ってたよりも良い人だけど。

 キタガワめ、フルカワさん置いて行きやがって。




 昼休み。また今日もいつもと変わらないポジションの私たち。

 私の席にアイちゃんとユウミちゃんがやって来て、私の前にユウミちゃん、隣にアイちゃんが椅子を寄せて座り、ユウミちゃんのその向こう、私の前の、その前の席にキタガワ。キタガワと一緒に食べるその友達のハシモトとヨコヤマ。

 

 アイちゃんが私の耳に顔を近付けてささやいた。「一緒には食べないの?」

そしてキタガワをチラッと見るので「止めて~」と思う。ぶんぶんと首を振る私。

「「へ~~~」」とアイちゃんとユウミちゃん。

「そんなに急には変わらないよ」と私は小声で二人に言う。

それに今朝はあんな場面も見ちゃったし。夕べもどんよりとした夢見たし。

「「ふうん」」と二人。

いや、二人がそんなつまらなそうな顔をしても…キタガワだってほら、いつもと変わらない感じでご飯食べてる。

 

 食べてるし、もう少ししたら今日もキタガワのところには、フルカワさんや他のクラスの女子も来るかもしれないし。…昨日はキタガワに言われてお弁当食べた後一緒に教室の外に出たからそんなの見なくてすんだけど、…嫌だな目の前でやたら女の子たちがキタガワに甘えるような感じになったり、それをキタガワがまんま受け入れるわけでもなくそれでも絶対拒否るわけでもない、そんないつもの感じで対応するのを見るのはちょっと…ていうかだいぶ嫌かも。


 …なんかすごいな私。ちょっと相手と気持ちが通じたからって、こんなに独占欲出すなんて…

 自分でも気持ち悪い。たぶん今朝のあのリストバンドで打撃を受けているっていうのもあるけれど、今までもキタガワを見ながら嫌だと思ったのは、自分の好きだった頃のキタガワと違うのが嫌だったからであって、それが今の私は、私の事を好きって言ったキタガワが他の女の子に優しくするのが嫌なのだ。

 

 ダメだ。他の女の子の事は気にしないようにしなきゃ。一応キタガワは私を好きって言ってくれたんだし。今朝のリストバンドももらってないって言ってたし。夕べも嬉しい電話くれたし。ちょっとの事でモヤモヤするのは止めなきゃ。

 そう思いかけたところへ廊下から、「カナちゃ~~ん」とキタガワを呼ぶ女子の声。



 ほら来たもう来た。

 長い髪を恐ろしくサラッサラにキープしている大人っぽい隣のクラスの子だ。

「カナちゃんちょっとごめ~~ん。ちょっとだけ来て~~」と、ちょいちょいと手でキタガワを呼ぶ。

 うわ、呼んでるよ。ご飯食べてる中のキタガワを呼んでるよ。そんな事自分に自信がないと出来ないよね。

「今メシ食ってるから」とキタガワが即答。

…はあ…良かった断った。

「もう~~」とその女子。「ほんのちょっとだけだから~~~」

おお~~また呼んだ…

 行くの?行かないの?行くの?行かないの?

 呼ばれていないヨコヤマとハシモトが、チラッと女子を見てまた弁当を食べ続ける。キタガワは見もしない。見もしないけど。どうするんだろ…




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