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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
王族記念式典

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91話 終わりと始まり

「えぇ……、お姉ちゃん……。やだよぅ」


 闇ギルドの四人との戦闘を終え、少女は壁にもたれて座るシーラの傍で眉を寄せて困惑の表情を浮かべる。

「問題ない。いいから早く。んあ」

 短くそう告げてシーラは口を大きく開ける。

「石なんか食べちゃダメだよぉ……、お腹空いてるならクッキーあげるから」

「いーから。は・や・く」

 力を使い果たして動けないシーラは救った少女に魔石を食わせる様に強要している。だが、そう言われて恩人の口に石を食わせられる人間は稀だろう。


「こらこら、何してんだよ君。その子困ってるじゃないか」

 視線をやらずともその声を聞いただけでシーラは眉を寄せて不快そうに顔をしかめる。

「うわっ。出た」

 声の主はセイラン。お馴染みの木棍を肩に置き、呆れ顔でシーラを見下ろす。

「出た、じゃないよ」

「じゃあお前でいい。早く食べさせろ。拾って」

「……落ちてる物食べるなんて、育ちが悪いなぁ」

「うっさ。早くしろ。変な服」


 口を開くたびにセイランへの憎まれ口を叩くシーラ。そして、その言葉通りセイランの服はシーラ達と同じ警護の制服ではなく、白に金で彩られた華やかな礼服だった。

「あはは、まぁ服の事はいいじゃん。僕も急いでたんだよね」

 そう言って収納魔石を開いて魔石を取り出す。

「老婆心ながら、……人間の食べるものじゃないと思うけどね」


 含みのある言い方をして、セイランはシーラの口へと魔石を運ぶ。

「いーから。決めてるから。『神殺しの魔窟』をクリアしたら止めるって」

 固い決意を秘めた視線にセイランはあきれ顔で小さくため息をつく。

「わかったよ。はい、あーんっ」

「うざっ」


 苦々しい顔で魔石を口に受け、ガリ、ガリ、ガリとかみ砕く。ゴクリ、と喉を通すとふーっと一度深く息を吐く。質のいい魔石であったようで、数個食べただけで身体を魔力が巡るのがわかる。

「ん。よし。他は?」

 勢いよく飛び起きて、シーラはセイランに問う。

「こっち側の制圧は終わってる。西のほうはまだわかんないね」

「じゃあそっち行けば。なんでいる?」

「なんでって。女の子がピンチだって聞こえたからわざわざ跳んできてあげたのに」

「うっさ。全然ピンチじゃないし」


 さぁ、次――。と移動しかけて、シーラは思い出したように振り返ると、少女の傍にしゃがんで口を開く。

「そうだ。クッキー。まだもらってない」

 そういわれて目を丸くした少女は、コクコクと頷き、肩に下げたポシェットから小さな缶を取り出す。それを開けると、中には何枚かのクッキーが姿を現す。

「はい、お姉ちゃん」

「ん」


 ザクザクと小気味のいい音を立てて、シーラは少女のくれたクッキーを食べる。

「お、おいしい?」

 恐る恐る少女は問いかけ、シーラは表情を変えずに即答する。

「おいしくない」

「ええっ!?」


 そして、間を置かずに言葉を続ける。その口元にはかすかなほほ笑み。

「でも元気出た。頑張る」

「……うんっ!頑張って、お姉ちゃん!」


 その声に背中を押され、二人は音もなくその場から姿を消して、建物の上へと飛ぶ。


 高速で移動しながら、セイランは方々を見て状況を確認。

「上から俯瞰で見て分かったんだけど――」

 そう前置きをして、シーラの返事を待たずにセイランは考えを整理するように自説を述べる。

「城からまっすぐ伸びる大通り、その周囲から急に現れた魔物。ばら撒かれた魔石。こう見ると綺麗な円に見える。……となると、術者は円の中心に?さすがにもういない、か?」

「中心ってどこ」


 セイランはひと際豪奢な幌無し馬車を指さす。

「あの辺かな」

「へぇ」


 シーラは短く答えると、通りの中心を目指す。辺りにはアンデッドの骨が無数に散らばっており、制服を着た冒険者や憲兵が周囲の警戒に当たっている。


 事態は、一応の収束へと近づいているように見えた――。


◇◇◇


「怪我している人!こちらにお集まりください!治癒が使える人!いらっしゃいましたらお声かけください!」

「こっち空いてますよぉ!ゆっくり!落ち着いてぇ!」


 通りから離れたテラスで飲食を楽しんでいたイズイ達受付嬢三人組も、率先して避難誘導と救護活動にあたっている。心地よいほろ酔い気分など一瞬で冷め切り、ギルド関係者として、声を張り上げ、大きな身振り手振りで民間人を落ち着かせて、安全に避難を進める。


 少し開けた場所でけが人を集めて、治癒士が治療を行う。この辺りは配置が手薄だったのか、けが人の数が多い。魔物に噛まれ、裂かれ、パニックで転倒して負傷した人々が、警護の冒険者に囲まれて治癒を待つ。


 かつて冒険者を志した事もあるイズイは、拙いながらも治癒術の心得があり、額に汗して人々を癒す。だが、魔力はすぐに枯渇して、疲労感が色濃く表れる。それは、この付近に配置された治癒士も同様だ。これだけ多くの人々を、命の危険が及ぶような事態で治癒する経験など、戦争の経験でもなければありはしない。魔力は、精神状態に左右されるものだ。


「イズイっ、頑張って!」

「はぁい~」

 

 冒険者を志した。自分には向いていない事を知り、それでも彼らの応援がしたいとギルド受付の職に就いた。もう魔力も限界だ。それでも、今ここで頑張ることができなかったら、かつて冒険者を志した若い日の自分に顔向けができない。


「頑張りまぁ……っす!【治癒(ヒール)】っ!」


 瞬間、広場全体を淡い光が覆い、その場の全てのけが人がまるで巻き戻したかのようにみるみるうちに癒えていく。

「えぇえっ!?私、目覚めちゃいましたぁ!?」

「わはは、やるじゃん。天才」


 緊張感のある場に似つかわしくない軽薄な笑い声の主はリューズ。広場全体は彼の【治癒結界(ヒールサークル)】により広範囲治癒が施された。


 普段と違い、髪をかき上げたリューズの姿を見て、イズイは安堵とともに身体の力が抜けてその場にへたり込む。

「リューズさぁん、それはこっちのセリフですよぉ……」

 

 お気に入りの様子で、リューズはここの救護所にも花の門を作り、殺伐とした現場を彩る。


 そして、ギルド三人娘の協力もあり、この区画も比較的落ち着きを取り戻す。


 街中には骨と魔石が無造作に転がる。国の中心たる王都の中心とは思えないような異様な光景。

(……仮にこれがベラドンナの仕組みだったとして、国王の式典でここまでのことをしでかしたら、いくら公爵夫人だとしてもタダじゃすまんだろ)


 もちろん確証は無い。


「なぁ、イズイ。公爵夫人ってのは、やっぱり馬車で参列してる感じか?」

「ですねぇ。国王陛下の……」

 思い出しながら指折り数える。

「三つ後ろの馬車だったと思います」

「なるほどね。ちょっと行ってくるわ」

「えぇっ!?行くって、公爵夫人の場所ですかぁ!?今ぁ!?」


 リューズは息を切らせて駆ける。目指すは大通り、公爵家が控える馬車――。


 ◇◇◇

 

 時を同じくして、馬車付近の制圧も完了していた。通り沿いよりも大型の魔物が多く出現したが、S級パーティ『アークライト』が守る貴賓の馬車四両は爪ほどの傷もつかずにこの騒動を終えた。


 ドラッケンフェルド家の乗る馬車では、ヴァンデントがまるで観劇でもするかのように、ほほえみを浮かべたまま一部始終を眺めて、パチパチと拍手を鳴らしていた。

「ははは、さすがノア・アークライトだね。S級とはこうあるべきだよ。なぁ、アルヴィス」

 話を振られたシーラの弟・アルヴィスもコクリと頷き同意を示す。

「おっしゃる通りです、父上。彼らの功を労うためにS級の上の等級があればいいのですが」

「まったく、そうよねぇ」

 外面上は笑顔を取り繕うベラドンナは内心気が気ではない。使用人に命じてシーラの暗殺を命じた。命じはした。もしかすると、このアンデッドによるテロはその依頼を受けた闇ギルドによるものなのかもしれない。国王陛下の式典に泥を塗り、その身を危険に晒した。露見すればどうなるか。


 笑顔の奥で、心臓はドキンドキンと強く高鳴る。今となってはシーラの暗殺が成功したかどうかなどどうでもいい。とにかく無事に、このまま式典が終わる事を祈る。



 ――だが、その祈りは届かない。


 ドラッケンフェルド家の車両から少し離れた貴賓車両。付近の魔物のせん滅は完了し、大通りにも市街と同様に骨と魔石が無数に散らばる。

「そろそろ終わりかな」


 S級パーティ『アークライト』の前衛戦士・ビーツは剣を肩に乗せふぅと短く息を吐く。


「あぁ――」

 【勇者】ノア・アークライトは相棒の言葉に頷いて、純白の剣を鞘にしまう。チン、と鈴のような涼やかな音が響き、ノアは言葉を続ける。

「終わりだ」


 材料は、骨と魔石。それらは今王都に溢れる。


 それらが仄かな光を発し、言いようもない違和感をリューズも、シーラも、セイランも感じる。


 地震のように、地を覆う骨はカタカタと揺れて音を立て、やがてそれらはあるべき場所に帰るように一か所に集まる。


 「なっ……なんだ!?」


 それぞれ貴賓の馬車を目指しながら、声を上げる。


「きもっ」

「……これは?集まってる……のか!?」



 国王の馬車の眼前に現れたのは、夥しい数の骨と魔石で作られた、異形のドラゴン。それを見上げると、さすがの国王の顔からも血の気が引く。

「……おぉ、神よ」


 そのつぶやきを聞いたノアの口角が僅かに上がる。この局面で、それに気が付いたものは誰もいなかった――。

 


 

 

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