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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
王族記念式典

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87話 本日は晴天なり

 ――ウィンストリア国王即位50周年記念式典、当日。

 今日は雲一つない青空。街頭警備に配置される任務者は約500名。C級からE級で構成されるその500名には揃いの制服が貸与される。仮にも国の式典の最前列に小汚い恰好の冒険者など絵的に並べられる訳がない。

 

「わはは、意外に黒以外も似合うなぁ」

「当たり前」

 白と青を基調とした警護の制服に身を通したシーラは制服を見せびらかすように得意げに胸を張って短く答える。


 街頭警備隊は八つの班に分かれており、それぞれA級パーティのメンバーが指揮を執るらしい。


 俺とシーラの班は集合場所の広場に集まり、正面に若いA級冒険者が立つ。


「C級以下の雑魚ども!てめぇらの指揮を執る『黒顎』のレイドだ。今日はオレの顔に泥塗るんじゃねぇぞ!」


 短い金髪をオールバックにした青年は腕を組み不遜に言い放つ。俺たちの制服と違い白地に赤が混じった制服の彼を見て俺は首を傾げる。

「なぁ、シーラ。あの人どっかで見たことないか?」

 ダメ元で聞いたところ、シーラは興味なさげに「さぁ?」と答える。


『黒顎』のレイド率いる俺たちの班は64人。手で口元を隠さず大あくびをするシーラはすぐに彼に見つかる。


「あぁ!?このオレ様がしゃべってんのに欠伸をするとはいい度胸――」

 と、言いかけて彼は驚き目を見張る。

「お前っ、シャヤルの――黒姫!?」

 彼の視線は隣の俺に映り、俺を見て苦々しく眉を寄せる。

「よう、『神戟』のおっさん。久しぶりだな」

 シャヤル、の言葉で思い出した。雷獣騒動の時に因縁を付けてきた冒険者だ。

「あぁ、その節はどうも。あの時と違ってずいぶんパリっとした恰好してるからわからなかったよ」

「大きなお世話だ。なんでてめぇらこんなとこにいんだよ」


 副官が班員に指示を出して配置につかせる横で、レイドは面倒くさそうに俺に問う。

「なんでって、俺らC級だからだよ」

「知ってるよ。だからなんでD級の受けてるのかって言ってんだ。受けるなら一個上だろ」

「まあ、それには色々作戦があってな」


「作戦ねぇ。ま、オレに迷惑掛けないようにキビキビ働けよ?おっさん。精々こき使ってやるからよ」

「まぁお手柔らかに」

「S級も来てんだからな。無様な真似さらすんじゃねぇぞ」

 王城の方をチラリと見てそう言い残すと、レイドは何人かのお付きと共に広場を後にした。


「知ってる人?」

「……君が手を斬った人だよ」

「へぇ。誰だろ?」

 

 何気なく軽く答えるシーラさん。選択肢が複数ありそうなのが困る。


 広場の正面には大時計台。時刻は朝の八時。式典の開始は正午。楽隊の演奏と共に、国王を乗せた幌無し馬車が王城から大通りを通り、貴族街から市民街をゆっくりと走る。こんな機会でもなければ一般国民が国王を見る機会などない。だから、きっと沿道は多くの人で溢れかえるだろう。


「やぁやぁ、お二人さんは配置まだですか?」

 いつも通り、どこからともなくセイランが現れる。彼の服装も俺たちと同じ白と青の制服だ。その左手には鉄製の腕輪が朝日をきらりと反射させる。鉄製の腕輪はE級冒険者の証。

 

「うわ、マジで昇格してやがる」

「いやだなぁ、何も不正はしてませんよ?長いことF級やってればそりゃ査定点も溜まりますって」

 俺の向ける白い目を笑顔で受け流すセイラン。手にはいつもの木棍。

 

「なぁ、うちの班長が言ってたんだが今日の式典ってS級も来てるんだって?」

 俺がセイランに問いかけるとシーラは『へぇ』と短く答えて反応する。さっき同じ内容をレイドも言っていたのだけど、本当に耳にすら入ってないんだな。

「仮にも国王陛下の式典ですからねぇ、S級の一組もいないと格好がつかないですよ。で、シーラさんは今実質C級、『魔断』は神殺しの魔窟に挑戦中――」

 指折り数えながらセイランは言葉を続ける。S級パーティは世界にたったの五つ。そのうちシーラを除くとわずかに四つしかない。


「残るは三つ、そのうち式典映えするのなんて一つしか無いです。ブラドライト教会の秘蔵っ子、【勇者】ノア・アークライト率いるS級パーティ『アークライト』」


 12年間、世界と断絶して生きていた俺はその間に起こったギルドや教会の情勢に疎い。そんな俺を察するように、ゆっくりと、はっきりと告げる。

「彼の祝福は【死者蘇生】。死者をこの世に呼び戻すまさに神の奇跡」

「……そ、それはさすがに盛り過ぎだろ」


 そんな都合のいい、神話に出てくるような能力があって良いわけがない。あるはずがない。気が付けば足が震えていたので、必死に押し殺してみるが、きっとセイランには気づかれていただろう。そして、気づく。【不老不死】だってそんな神話の絵物語の能力だ、と。


「アルバンテ、サンテリア、ミルシンキ。すでに幾つか実例があります。年に一度程度なので、なんらかの制限や条件はありそうですが……」

 奇跡を起こした地名を挙げたセイランは、俺の表情を見て挑発的な笑みで顔を覗き込む。


「生き返らせたい人、いるんですか?」


 俺は、空を見上げて大きく一度息を吐く。空は青い。雲一つない晴天だ。


「なぁ、シーラ。ちょっと俺の頬叩いてくれる?パーで」

「ん」

「ぶっ!?」

 一切のためらいもなく、シーラの左手のひらはバチンと俺の頬を打つ。きっと軽く叩いたのだろうが、うっかりすると首の骨が折れていても不思議ではない強さ。口の中が切れて、目は涙目だ。


 俺はその涙目でセイランを見る。そして、にっと笑う。できる限りの余裕の笑みを。

「いねぇよ、そんなの」


「それは失礼しました」

 

 俺の笑顔にセイランも笑顔で答える。


 本当にレオンが、バルドが、マリステラが生き返るのなら、それはどんなに嬉しいことだろう。素晴らしいことだろう。あの頃のまま蘇った彼らは、おっさんになった俺を見て笑うだろうか?ミアリアの成長を見て驚くだろうか?


 けれど、うまく言葉にはできないけれど、それはきっと正解ではない気がする。頬を涙が伝うのは、きっとシーラの馬鹿力のせいだ。


 ぐい、と俺の頬にシーラの手が伸び、制服の袖が涙を拭う。

 

「っと、違う。違うぞ、これは。わはは、きもいよな。おっさんなのに泣いてばっかで」

 苦笑いで弁明をすると、シーラはふるふると首を横に振る。


 困り顔で、シーラは呟く。

「強すぎた?」


 明後日の方向の心配に思わずぷっと噴き出してしまう。

「ちょっとな」

「ん、ごめん」


 シーラは手を伸ばしてよしよしと俺の頭を撫でた。



 ――時刻は8時を少し過ぎ、空は雲一つない青空の広がる式典日和。


 祝砲の音が響き、身体を震わせ、立ち上る色とりどりの煙が雲のように青空に浮かび、消える。


 

 俺とシーラは沿道沿いの配置に付く。

 ――『式典が楽しみね』。

 と、ベラドンナの捨て台詞を思い出したが、シーラがのんきな声で『ね』と返した事もセットで思い出して、ついクスリと笑ってしまった――。


 

 

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