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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
王族記念式典

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82話 C級冒険者にできること

 ――紺色の髪を揺らすF級冒険者・セイラン。いつも通りの涼しげな笑顔で俺たちと同じテーブルに着く。

「えーっと、それじゃあ僕ミカーゲントサーモンのリゾットで」

 太陽のような笑顔で当然のように注文を口にするセイラン。絶対こいつ末っ子だよな。


 整った顔立ちと人懐っこい笑顔に加えて甘え上手な末っ子オーラ。だが、そんなものはシーラには通じない様子で、テーブルに頬杖をついたシーラは苦々しい顔でため息をつく。

「は?自分で頼め」


 イズイはあわあわと口と両手を動かしながら、シーラとセイランと受付右の長髪お姉さんを交互に見る。

「ちょっ……、ちょっとこれはぁ!私には荷が勝ちすぎますよぉ?姐さぁ~ん!休憩交代でぇす!」

 両手を頭上で交差させてイズイは席を離れ、受付右側のカウンターへと足早に去っていく。

 俺とシーラが視線で追う中で、セイランは我関せずといった風に厨房のおじさんに手を挙げてミカーゲントサーモンのリゾットとレモネードを注文している。


 やがて、長髪の受付お姉さんがイズイに背中を押されつつ、困惑した様子で俺たちのテーブルへと運ばれてくる。

「ね、ねぇイズイ!?前も言ったけど、そういうのじゃないから。いいから仕事して?ねぇ!?」

「しますよぉ!姐さんの分までしますからぁ!推しは推せるうちに推せ、ですよぉ!」


 無理やり姐さんを席に押し込むと、イズイは一仕事やり遂げたとばかりに袖で汗を拭い、いい感じの笑顔でグッと親指を向けて自分の持ち場へと戻っていく。


 姐さんと呼ばれた受付のお姉さんは、真っ赤な顔で引きつり笑いを浮かべ、申し訳なさそうに頭を下げる。

「お、お邪魔します~。いつもイズイがご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

「や、全然っす。こちらこそいつもマジでお世話になりっぱなしで」

「そういえば、自己紹介がまだでしたよね?私はネイ・シンクレア。一応ここウィンストリアのギルドで一番の古株です。だからかほかの子からは『(ねえ)さん』って呼ばれています」


 ネイさん、が転じて姐さんになったような気がするし、きっと言い出しっぺはイズイな気がするなぁ。後で聞いてみよう。

「まぁ、折角なんで遠慮せず好きなの食べて下さいよ。なんにします?」

「いえ、そんな……」

「まぁまぁ」

 メニューを差し出すと、少し考えてリンゴジュースと旬野菜のサラダをネイさんは注文した。


 それを物珍しそうにシーラは目を丸くする。

「葉っぱだけ?ごはんは?」

「あのな、シーラ。サラダも立派なごはんなんだよ」

 眉を寄せて苦言を呈するが、どうにもシーラには響かない様子。

「変なの」

 その言葉で次のメニューは決まった。絶対にサラダで『おいしい』と言わせてやる。


 一人内心やる気の炎を燃やしていると、先にテーブルに届いたリンゴジュースを飲みながら、ネイさんはイズイが置いていった依頼書とノートをチラリと見る。

「式典の護衛ですか。D級依頼、報酬は一日あたり4万ジェン」

「みたいだね。リューズさんたちがやるなら僕もご一緒したいなぁ。でもD級の依頼か」

 セイランの手首には木製の腕輪。それは最低ランクであるF級冒険者の証。依頼は上下一つ差のものが受けられるので、F級のセイランはD級の依頼は受けられない。

「僕F級だしなぁ、どうしようか」

 少し考えていると、セイランの注文したリゾットがテーブルに届く。

「昇級しちゃうか。ネイさん、昇級の査定点溜まってるよね?」

 ニコリと微笑むとネイさんは照れたように目を反らす。

「そっ……、それはもちろんです!」

「じゃあE級にあがろうかな、手続きお願いね」

「はいっ!」


 二人のやり取りを眺めながら、シーラはネイさんから指をセイランに動かして俺を見る。

「その人はそいつが推しだってイズイが言ってた」

「シルヴァリアさん!?」

「それは光栄だね」


 ネイはセイランから少し椅子を離し、慌ててそれを否定する。

「ちっ、違うんですセイランさ……さん!それはイズイが勝手に言っているだけで!」

 頬を赤らめて盛大に否定するネイを見て、セイランは悲しそうに眉を寄せる。

「違うんですか?」

「えっ、そんな……」

 眉を寄せた物憂げな瞳で、濡れた子犬のように庇護欲を全力で誘うセイランに、ネイさんは見事に転がされてしまう。


「シーラ。女たらしは教育に悪いからそろそろ行こうぜ」

「ん」


 席を立とうとすると、セイランは俺の手を引き席に留める。

「あはは、待ってリューズさん!冗談ですって!」

「冗……談?」

 その言葉はネイさんにグサリと刺さる。

「シーラ、よく見ておけよ。こういう男に引っかかっちゃだめだぞ」

「大丈夫。私こいつ嫌いだから」

「僕はシーラさん好きですけどね」


「え」

 涼しげな顔でとんでもない言葉をセイランは言い放ち、俺たちのテーブルの時が止まる。

 

「それは『愛してる』ってこと?」

 意外や意外、一番最初に口を開いたのはシーラだった。身を乗り出して、興味深げにセイランに問いかける。

「こらこら、シーラ。女たらしの言葉に耳を貸すな」

 セイランは楽しそうに首を傾げる。

「ん~、それはまだわからないかなぁ」

「私の為に死ねる?」

「死ねないですね」

 ニッコリとセイランは即答。シーラは一瞬で興味を失い、大きなため息をついてレモンティーを飲む。

「あっそ。じゃあ用は無い」

「……なんだそりゃ」


 と、答えてふと思考が繋がる。

「国王何とか記念式典ってさ、もしかして偉い人たくさん来る感じ?」

「即位50周年記念式典ですからね。そりゃ国内外のお偉方がいっぱい来ますよ。その為の警備と護衛じゃないですか」

 

 俺はチラリとシーラを見る。

「じゃあ、……ドラッケンフェルド卿や奥さんが来たりも……するよな?」

 セイランは無責任に笑う。

「来るんじゃないですか?国家の柱石とも称される現王陛下の右腕でしょ?」

「なるほど、ね」

 俺はどんな表情をして相槌を打ったのだろう。C級冒険者風情が『国家の柱石』と称される公爵閣下に対してどうこうできるはずもないし、そもそも本来顔を見ることすら不可能だろう。


「結構久しぶり。お父さんとも、ベラドンナとも。アルヴィスも来るかな?」

 皮肉でもなんでもなく楽しそうにシーラは笑う。

「また初見情報が出てきた。アルヴィスってのは?」

「ん?弟に決まってる。ベラドンナの子」

「決まってはいないんだよなぁ」


 シーラは普通の家族の話をする様に何気なく語る。


 11歳でダンジョンに捨てられ、冒険者として活躍しないと大好きな母のお墓も整備されない。平民の俺が知らないだけで、もしかしたら貴族の間ではそれが普通なのかもしれない。重ねて言うが、C級風情にとやかく言える問題ではない。


 今の俺にできることなんて――、宣戦布告くらいのもんだろう。


「シーラ、もし来たら是非紹介してくれよ」

「ん。いいよ」


 怒りを心の奥に沈め、俺はコーヒーを口に運ぶ。

「楽しみだな」

「ふふ、ね」


 淹れたての熱いコーヒーが喉を通り、胃に落ちる。腹の奥の方が熱く感じるのは、きっとコーヒーのせいじゃない。

 

 


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