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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
王族記念式典

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80話 王都への帰還

 ――王都・ウィンストリアに戻る。


 ギルドに寄るより借りている一軒家に戻るより、俺とシーラがまず訪れる場所。それは街から離れた高台にある森の麓。俺とシーラの、『三食おやつ付き』の拠点だ。


「だいぶ大きくなってきた」

 木を見上げてシーラが嬉しそうに呟く。

「二十年分……くらいかね。専門家じゃないんでよくわからんけど」

 とはいえ、大きさは王都の舗道を飾る街路樹位。まだまだ上に人が住むなど言う夢想が叶う段階では無い。

「まだまだ大きくなる?」

 木の根元にしゃがみこんで、治癒魔法を改良した植物促進用の魔法をかけていると、幹をぺちぺちと叩きながらシーラが問いかけてくるので、頷いて答える。

「なるだろうな。昔見たガルガンテは見上げると首が痛いくらいには高かったから」

 そう答えるとシーラは目を輝かせる。

「へぇ。早く見たい」

「まぁこの調子だと時間かかるぞ。俺の魔力には限界があるし」


 と、答えるとシーラは樹に手を当てたまま首を傾げる。

「んん?おかしくない?」

「なんだよ。俺にも魔石食えって?あのな、普通の人間は石嚙み砕けないの」

 眉を寄せて苦言を呈すると、シーラもお返しとばかりに苦々しい顔をしながら歯をカチカチと鳴らす。

「私は普通の人間。だけど岩もかみ砕ける。あのね、リューズ。私魔法の事はよくわかんないけど、たぶん普通の人間は”くろのなんとか”できない」


 ――【超速即時治癒魔法(クロノリジェネレイト)】。


 治癒魔法以外見識の無かった俺が、マリステラに協力してもらって古代魔法と組み合わせて作った固有魔法。自己の魔力のみならず、大気や大地を循環する魔力を用いて、範囲内の超速即時治癒を実現する。

 と、考えて既にそこに答えがあった。

 俺は顔を上げ、首を傾げるシーラを見る。シーラの向こうにはまだ若い枝に茂る緑の葉。その奥には青い空。

「本当、お前ってさぁ」

 半ばあきれ顔で笑いかけると、胡坐を組んで地面に右手をつく。左手は木の根に触れる。

 閉鎖環境であるダンジョンと違い、自然下で行うとどんな影響が出るのかはわからない。だからできるだけ範囲を絞って、神樹へとピンポイントに――。

 無意識にブツブツと口で構築式を呟く。【治癒(ヒール)】も、【治癒結界】も応用が利いた。それならば、【超速即時治癒魔法(クロノリジェネレイト)】でできない道理はない。そもそもが、本来的には【治癒】より【再生】を軸に構築したほうがよかったんじゃないのか?


「やっぱり12年でだいぶ錆び付いてるよなぁ」

 自嘲気味の苦笑い。シーラはなんのこっちゃと言った顔で俺を見るが、独り言なので返事は要らない。そして、発想をさらに逆に考えると、これって人間に使うと結構まずい術なんじゃないかと思ってしまう。子供が一瞬で大人になったりとか、ちょっとしたホラーだよ。しかも不可逆。これも禁術の類かもしれないな。


 魔方陣が浮かび、光の針がクルクルと魔方陣を回り、廻る。目を瞑り、魔力の流れを読み、神樹の魔導を読む。感覚は冴えわたり、錆びついた感覚が磨かれる様な錯覚。


「リューズ」


 と、シーラの声で集中から引き戻される。


 目を開くと、シーラは豆菓子をほおばりながら神樹から離れた木々を指さす。

 

「なんか急に木枯れたけど。平気?」

 

 ついさっきまで目に優しく緑生い茂る森の入り口は、一瞬で茶色と灰色の死出の世界のように変わっていた。その光景にゾッと背筋が凍る。

「平気な訳あるか!明らかに俺が原因だろうが!」

 慌てて両手を木と地面から離す。当然、そんなもので枯れた木が治る訳がない。

「うわわわわ、すまんすまんすまんっ!本当に!絶対治してやるから!」

 慌てて木々に駆け寄り、治癒魔法をかける。死んでいなければたちまちに治す。自分で傷つけた彼らを治せなければ『神癒』と呼ばれた治癒士の名折れだ。


 結果から言うと、葉の落ちた森の入り口の木々の枝には、小さい緑の芽吹きが生まれ、ようやく俺も一安心。


「……このやり方はダメだな」

「ダメかぁ」

 シーラは残念そうに眉を寄せる。


 検証の数が少ないから確かなことは分からないけれど、【超速即時治癒魔法(クロノリジェネレイト)】は魔力の満ち溢れるダンジョンの中でしか扱えない魔法ということなのだろう。外で使えばどうなるか……、シーラが気づいてくれてよかったよ。


「まぁ、ゆっくりやろうぜ」

「ん」


 そして、俺たちは高台を降りて、冒険者ギルドへと向かう。

 久し振りのウィンストリアの街は、街の至る所でなにやら飾り付けが行われていて、普段よりも活気のある、賑やかな空気を醸し出している。

「祭りかなにかあるんですかね?」

 脚立に登って飾り付けをしている職人さんに問いかける。

「あんちゃん、知らねぇのかい!?来週国王陛下のご即位50周年式典だろうが!」

 その口振りからすると、王都の住民にとって常識らしい。

「へぇ。夜店(よみせ)とかも出る感じです?」

「そりゃ勿論。ウィンストリアを挙げての盛大なお祭りになるだろうさ」

 職人さんは脚立の上で誇らしげに胸を張る。

 礼を言い、俺たちは再びギルドを目指す。

「だってさ。夜店もあるって」

 それを聞くと、シーラもワクワクした様子で口を緩ませる。

「ふふ、それは楽しみ」


 ――そしてギルドに到着。

 ギルドに入るやいなや、俺の姿を見つけたイズイが一番奥の受付でバンと机を叩いて声を上げる。

「あっ、やっと来たぁ!リューズさぁん!」

「いやぁ、街はずれから歩くと腰に来るなぁ。よっこらしょっと。シーラなんか飲むか?」

「ん?ビール」

「却下」

 イズイの元気な声を聞きながら、併設されているバーの椅子に腰を掛ける。

「わざとらしい小芝居はいいから!は!や!く!」

 他の冒険者の相手を止めて、イズイはリズミカルに机を叩いて俺たちを急かす。あまりからかっても悪いので、席を立ち受付へと向かう。

「あれ?ビールは?」

「ねぇよ、そんなの」


「嘘つき。何飲む?って聞いた」

「あと三年待て。お酒は二十歳になってから!」

 俺の後ろを歩くシーラは、ポケットに両手を入れながら不満げに俺の踵を蹴る。

「危ねぇからそれ止めろよな」


 一番左のカウンターに着く。イズイはジッと不満げに俺にジト目を向けて、小さくため息をつく。

「二人ともおかえりなさぁい。呼んだらすぐ来てくださいねぇ」

「わはは、悪い。イズイの元気な声を聞くと帰った来たって感じがするよ。あっちのギルドは誰かさんのせいで無駄に緊迫感があるからなぁ」

「……で、その誰かさんから書簡とお届け物でぇす」

 呆れ顔でイズイは一通の封書と収納魔石を受付台へと置く。

「書簡?俺ら竜馬で帰ってきたんだけど」

 街外れの高台に寄り道はしたが、それでもその程度の時間で手紙が先に着くはずがない。

「あぁ、運び屋さん知りません?【翼人】アクティカさん」

「あー、つい最近会った」


 確かにあいつが運んだなら納得だ。

「書簡は差出人無しでギルド宛て。『馬鹿が戻ったら渡せ』との事です。あのですね。職務上中身の確認はさせてもらいましたけどね。な……なんなんですかぁ!?本当あなた方は!」

 呆れ顔なのか困惑なのかよくわからない表情と口調でイズイは声を上げる。

「そんなこと言われてもなぁ。そもそもそれ本当に俺宛て?」

 馬鹿が戻ったら、って。

「……そうでしょうねぇ」

「私は馬鹿じゃない」

 イズイはため息をつき、シーラは首を横に振る。

「そもそも、何が入ってるのか知らないんだけど」

 無言で収納魔石を開く様に促され、魔石を開く。

 中には百万ジェンの札束の山。

「マジか」

「……それはこっちのセリフですよぉ。合計一億二千四十七万四千ジェン。なんなんですか、このお金!?黒いお金!?薄暗いお金!?」


「ん?リューズが闘技場で私に全財産賭けた。そしたら勝って増えた」

 シーラの解説を聞いてイズイの顔がひきつる。

「え?つまり、シーラさんだけに戦わせて、リューズさんは五百万もの大金を賭けて眺めてたって事ですか?土地代全部シーラさんが出してるのに?五百万も?」

「そう」

 シーラはこくりと頷く。

「ちょっと待て。全体としては間違ってないけど、それには色々細かい事情があるんだ!」

「こっ……」

 イズイの唇は怒りにわなわなと震え、やがて声を生み出す。


「この……っ、ギャン中(ギャンブル中毒)クズヒモ野郎っ!」

 罵声がギルドに響き渡り、ようやくウィンストリアのギルドに帰ってきた実感が湧いた。


 

 

 

 


 

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