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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
聖都・ブラドライト

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75話 祝福・【不壊】

 ――『黒姫』対『魔王』の頂上決戦は終えた。


 だが今、闘技場の控室では新たな戦いが幕を開けていた。


「なぁ、セレスティア。君がここまでする必要あったのかい?そもそも問いたいんだけど、戦う必要自体あったのかな?僕には甚だ疑問なんだけど」

 ギルドから駆けつけてきたネアルコスさんは、あきれ顔だか怒り顔だかわからない顔でセレスティアを詰問する。

「や、だってさ。そこの馬鹿がどっちが強いって聞いたからさ。ねぇ、ネアルコス。私は悪くないんだって。絶対」


 いい歳してまるで子供のような弁明を繰り返すセレスティア・アズライールさん44歳。

「殺すって言ったってね。闘技場の子が泣きながら血相を変えて駆け込んできたよ」

「いや……、それは、挨拶みたいなもん……って言うか」

「死ねって言った」

 すかさずシーラが口を挟む。

「それはひどいね」

「シルヴァリア、てめぇ!」


 困り顔のネアルコスさん。

「しばらく寝室は分けさせてもらうよ。少しは頭を冷やしなさい」

「え……えぇ。そんなぁ……」


 見た目からはちょっと想像もつかない力関係につい笑ってしまうが、それは目ざとく魔王に見つかる。

「何がおかしい?」

「や、別に」


「あはは、四番だった」

 シーラは楽しそうに笑いながらセレスティアを指さす。一番はシーラ、二番は『神戟』、三番がネアルコスさんと言う訳か。何という強烈な煽り。しかもセレスティアは今反撃する事が出来ない。

「ぐぬぬ……」


 くやしさに歯噛みするセレスティアに構わず、シーラの興味はすぐに別の事に移る。

「あっ、そうだ。リューズ。あれ、どうなった?」

「あれって?」

 思い出すように左手の人差し指をピッと立てる。

「あれ。おっず?私が勝ったらお金増えるんでしょ?」

「そうだった!」

 今の今まですっかり忘れていた。全財産を賭けたシーラ勝利20.7倍の投票券!

 

「あれ?……どこ行ったっけ?ずっと持ってた気がしたんだけど」

 ごそごそと服とポケットを探すが、汚い紙切れしか出てこない。

「それじゃない?」

「いや、違うだろ」

 くしゃくしゃに折れ曲がり、血で真っ赤に染まったそれは、よく見るとうっすら文字が見える。

「マジか」

 俺は涙目で腕を組むセレスティアに血染めの投票券を見せてニコリとほほ笑む。

「これ、当然換金できますよね?」

「あ?馬鹿か。そんな何が書いてあるか分かんねぇ紙切れ換金できるわけないだろ」

「嘘だろ!?嘘ですよね!?ねぇ!セレスティア様!」

 服をつかみ懇願するが、その手はにべもなく振り払われる。

「触んな。浅ましい」


「え、やば。その人負けたのにお金払わないの?」

 真面目に引いた顔でシーラが呟く。その煽りは覿面にセレスティアに効く。

 

「あぁ!?払うよ!普通に払うに決まってんだろ!いくら買ったんだ!?一万か!?二万か!?」

 何やら魔法で投票券のしわを伸ばして血を洗い流してくれるセレスティア。そして、出てきた金額に驚き目を見張る。

 

「582万!?馬鹿じゃねぇの、お前!」

「いやいや、なんだかすいませんね」

 頭をかきながらへらへらとへりくだる。

「別に私らが損する訳じゃねぇし構わねぇよ。胴元は予めテラ銭抜いてるから、どっちが勝っても儲けは一緒なんだ」

「へぇ」

 シーラが興味深げに聞いて頷く。


「シルヴァリア。悪かった。正直、熱くなってやりすぎたとは思ってる」

 ソファに座り、尊大に組んだ足を戻しながらセレスティアは頭を下げる。

「ん、別に。普通でしょ」

「どんな普通だよ」

「一応、言い訳させてくれるか?」


 服の上からお腹を触りながら、セレスティアは申し訳なさそうに眉を寄せる。その動きと表情で何となく答えが分かった気がする。お腹を狙われて、セレスティアがあそこまで激高した理由――。


「子供が、……いるんすか?」

 俺の問いかけにシーラは『へぇ』と目を丸くし、セレスティアは困り顔で笑う。

「あぁ」

「そりゃめでたいな。いつ産まれるんだ?」


 ――まったく悪気のないその言葉を俺が後悔するのは、それからすぐの事だった。


 セレスティアは寂しそうに、愛おしそうにお腹を触りながら微笑んだ。

「産まれないよ。この子はもう20年、ずっとここにいるんだ」

「……それって」

 理屈はわからない。だけど、彼女の持っている【不壊】の祝福の事が頭をよぎった。


「この傷」

 セレスティアは左ほおに残る爪痕を指差す。

「治せるか?」

 昔からある傷跡だからあまり考えた事がなかった。顔に傷のある冒険者なんて腐るほどいるし、あえて治さない傷なんてのもたくさんある。

「……治していいなら」

 手を伸ばして治癒魔法をかける。シーラの切れた手首すらすぐに治す俺の治癒魔法を以てしても、その傷は治らない。

 

「これな、ダンジョンクリアした時の、守護者と戦った時の傷なんだ」

 そして、セレスティアは言葉を続ける。彼女がダンジョンをクリアした『報酬』に授かった、【祝福】と言う名の呪いの正体を。

 

「【不壊】。どんな傷も負わず、痛みも感じず、ダメージも受けない。けどね、その代わり一切の治癒魔法や自然治癒も受け付けないんだ。……言ってみれば【不変】なんだろうね。だから私はダンジョンクリアした時から見た目は歳を取らないし、……私も知らなかったけど、クリアした時にはお腹の中にはもうこの子がいた」


 だから、20年の間成長する事無くお腹の中にいる。

「……だからタバコやめたんすね」

 俺がそう言うと、セレスティアは照れ臭そうに笑う。

「あはは、そう。単純だろ?」


 俺とセレスティアの話を黙って聞いていたシーラ。チラリとみるとその瞳はきらきらと希望と期待に輝いていた。

「ねぇ。産まれたら見せて」

「え」

 あまりに空気の読めない発言にピシッと室内の空気が固まった気さえする。

「いや、産まれねぇんだわ」

 感傷的な気持ちに水を差されたセレスティアが彼女らしい口ぶりで否定する。だが、シーラは納得できない様子で首をひねる。

「んん?祝福消せば産まれるでしょ。いいの?ダメなの?」

 

 俺とセレスティアはシーラの言葉にキョトンとした顔で間抜けに口を開く。シーラは構わず得意げに自説を続ける。

「そうすればリューズも死ねるし、アミナも外に出れるし、その子も産まれる。あはは、良いことばっかじゃん。祝福要らなっ」

 自分で言って自分でシーラは笑う。


「そうだなぁ。……産まれたら、是非会ってやってよ」

 想像してしまった明るい未来に、セレスティアは俯き、髪でその顔は隠れる。

「名前は?」

「女の子だったら、ニーア。男だったら、……セナ。ずっと、考えてたんだ」

 声を震わせて絞り出したそこには、もう魔王はいなかった。ただ、一人の母親がいた。

 

 


 

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