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【元S級】スライムを、生で食べてはいけません。~死ねないおっさん治癒術士と味覚ゼロの最強少女、呪いと祝福の食卓記~  作者: 竜山三郎丸
始まりの街・ダンガロ

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24話 黒姫様のお留守番

 ――ダンガロ(いち)の名店と名高い『ル・リオン・エール』。リューズはそこで二週間の料理修行を行う。無論、それはシーラには秘密の特訓だ。


 時刻は昼、12時18分。

 シーラはリューズの部屋のベッドにうつ伏せに寝そべり、何時間もの間手渡された分厚い料理本を眺めていた。リューズと出会う前であれば、わずかな興味すらも示さなかっただろう精細な料理の絵が描かれたレシピ本だが、今は違う。『これはどんな味がするのだろう?』『これは食べた事がある』と様々な事を想像しながら、気づけば足がパタパタと動いていた。


 収納魔石を開くと、そこには宝物庫のように大小様々な魔石が入っていて、シーラはそれを無造作にいくつか掴み取ると、まるで飴玉でも食べるかのようにぽいっと口に放る。そして、間を置かずにそれを噛む。ガリ、ゴリ、と硬いものをかみ砕く音。もちろん味なんてしない。食べるごとに、魔力が身体を流れていくのが分かる。


 魔石とは、ダンジョンの中でしか生まれない『魔物』の身体からとれる魔力の結晶だ。それは様々な性質を持ち、『炎魔石』や『氷結魔石』は料理にも使え、『収納魔石』は生活に欠かせない。それらは純度と濃度により価値もピンからキリまで様々である。当たり前の事ではあるが、一般的に魔石は食べ物ではない。そもそもが固すぎて本来は加工すら難しい。


 シーラはいくつか魔石を食べ終わると、ふぅと短く息をつく。初めて会った時、倒したミノタウロスの魔石を食べようとしてリューズに止められた。亡き母に言われていたので知っている。『二人だけの秘密ね』、と幼い頃にシーラは母に言われていた。彼女は、優しい母が大好きだった。

 リューズは『石は食うな』と言った。だから、彼女はリューズの前では魔石は食べない。それは、シーラと大好きな母との二人だけの秘密の思い出。

 やがてお昼ご飯の時間に気が付き、足早に部屋の端に置かれた保冷庫へと向かう。保冷庫にはお昼ご飯とおやつが入っていると言っていた。


 まるで弁当箱を開く様に、ワクワクした面持ちで保冷庫を開く。

 そこにはこじゃれた器に盛りつけられたカルボナーラスパゲッティ、透明感のある器は野菜のたくさん入ったポテトサラダ。そして、ホイップクリームが添えられえた濃厚カスタードプリンが入っていた。


「これ、載ってたやつだ」


 シーラは器用なバランスですべてをテーブルに運ぶと、いそいそとレシピ本を捲る。11歳から冒険者として活動している彼女は学校に通った経験が少ない。元々興味の幅が狭く、冒険に関する知識以外は乏しいが、決して頭が悪い訳ではない。分厚いレシピ本をパラパラと捲り、すぐにお目当てのページにたどり着くと、むふーっと満足気に鼻から息をはく。そのページに載っているのはカルボナーラスパゲッティ。


 耐熱硝子製の器を炎魔石で温める間にページを眺める。卵黄とチーズとベーコン。実際の料理とページを見比べて、期待に胸を膨らませる。


「胡椒。これの味は知らない」


 やがて、温められたカルボナーラは部屋中にチーズの濃厚な香りを漂わせ、胡椒もそこにアクセントを添える。目で楽しんだ後は香りを楽しむ。ポテトサラダは温めるべきなのかどうか。少し考えてレシピ本を捲るが、答えは出ない。

「茹でるのは柔らかくする為?……でも、リューズは冷める前に食えって言ってる。なら、温めるのが正解か」


 納得した様子でポテトサラダも炎魔石で温める。程度がわからないが、熱くてもシーラはやけどをする事は無い。


 そして、テーブルにお昼ご飯が並ぶ。


「いただきます」


 手を合わせて、まずはポテトサラダに手を付ける。緑鮮やかなレタスに乗せられた芋の形がしっかりと残った田舎風具沢山ゴロゴロポテトサラダ。シャキシャキした玉ねぎもいいアクセントだ。

「うまぁ」

 ついシーラの口から感嘆の声が漏れる。

「ふふ、やっぱり温かいのが正解。いくらでも食べられる」

 シーラの食事傾向は、それぞれ食べていく三角食べではなく、一皿毎に完食していくスタイルだ。ポテトサラダをきれいに食べ終え、次はいよいよカルボナーラ。


「もうこれ絶対おいしいやつ」

 鮮やかな黄色のソースに、ビッグボアの刻みベーコンが入っていて、黒コショウが味を引き締める。さらに半熟卵が乗っている。卵を割ると、トロリと黄身が溶け出してソースと絡み合う。

 「やっぱり卵は最強だ」

 フォークでソースをパスタに絡ませて、クルクルと巻くと口へと運ぶ。本来テーブルマナーは完璧なシーラ。大きく口を開けてパスタを迎え入れる。

 パクリと口に入れると、目の前で星が煌めいたかのように瞳が輝く。

「んんんっ……!?」

 そのまま無言で二口、三口と食べると、口の端にソースをつけたまま困り顔で笑う。

「のうこう。まろやか。こしょうがよくきいてる」


 そのままカルボナーラも完食。シーラは椅子の背もたれに寄りかかり天井を仰いで満足げに一度息を吐く。


「おいしかった」


 まだ口の中に残るのは確かな満足。それでも、シーラは何か物足りなさを感じてしまう。それが何なのかはよくわからず、お腹の辺りをさすって首を傾げてみる。

「おいしかった、けど……」


 何かが足りない。テーブルの上にはカスタードプリン。白いホイップクリームが乗り、ミントの葉が彩りを添える。それを見てシーラの頭の中でピースがカチリと嵌る。

「デザートが足りなかったのか」


 背もたれから身体を上げると安宿の椅子はギッと音を立て、シーラは召喚術さながらの速度で左手にスプーンを持つ。そして、まずは何もついていないプリンをひとすくい。弛む口元へとスプーンを運ぶ。

「……やっばぁ、これ」

 なめらかな舌触り、優しい甘みが口の中にじんわりと広がっていく。そして、次はホイップと一緒に。目を閉じて、ゆっくりと味わう。

「ふふふ、最強の最強」

 一人楽しそうに笑いながら感想を口にする。次いで標的はミントの葉。シーラは一瞬眉を寄せる。

「この葉っぱは」

 そう呟きながらも、次の瞬間にはミントはプリンとともにスプーンに乗りシーラの口へ。

 食べた瞬間シーラは笑う。

「あはは、スースーする」

 一つのお椀で何度も楽しめる。プリンはアッという間にシーラのおなかの中へと消えていった。


「おいしすぎ」

 今度こそ、確かな満足。な、はずだった。食べ終えた食器をまとめながらも、やはりシーラは物足りなさを感じる。言い換えれば、窓から入り込む風が、身体の真ん中を通り抜けるかのような。その感情の正体を、シーラはまだ知らない。


 困惑した様子でおなかを撫でると、ベッドにゴロリと横になり、タオルケットに包まる。

「おじさんくさ」

 そう言って、シーラはタオルケットの中で一人笑う。


 ――時刻は夕方7時を少し回る。

 

 バタバタと慌ただしくリューズが宿に戻ってくる。

「悪い、シーラ。遅くなった。腹減っただろ、これ――」


 リューズがレストランで作ってきた夕食を差し出そうとすると、シーラは身体全身から不満を表してリューズを恨みがましく睨んでいる。

「解散。契約違反。約束が違う」

「はぁ?いきなりなんだよ」


 シーラは腕を組んでプイっとそっぽを向く。

「三食おやつ付き。うそつき。おやつなんてない」

 リューズはテーブルの端に重ねられた食器を見て苦笑いを浮かべる。

「あの~、シーラさん?しっかり食ってんじゃん。プリン。それがおやつだろ」

 シーラは一度テーブルを見た後でリューズに向けて首をひねる。

「あれはデザートでしょ」

「いや、おやつ。分けて食えっていったはずだが?」


 シーラは少し考えて記憶を検索するがすぐにあきらめる。

「まぁ、どうでもいいか。リューズ。今日も全部おいしかった。カルボナーラ。あっ、そうだ。これ!ここに載ってるやつ」

 ベッドに置かれたレシピ本はカルボナーラのページが開かれていて、それを見てリューズもクスリと笑う。

「よく見つけたなぁ」

「まぁね」


 シーラは得意げに笑う。いつの間にか、物足りなさが埋まっていたことに、彼女はまだ気が付いていなかった。


 黒姫シーラの初めてのお留守番はようやく終わりを迎えた――。


 

 


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