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逃げる魔法使い 〜寿命を削って魔法を使っていただけなのに、なんだか周囲の様子が変です〜  作者: うちうち


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番外編① プロローグ

「世界のどこかにある、誰かの『夢』のようなお話」

(プロローグ)


 どうも、おかしい。

 この前、10年ぶりに仲間と会った。これはいい。

 なんだかみんな思ったより喜んでいたが、これもいい。いつだって喜びは大きい方がいいから。


 だが、問題。その仲間の様子がなんだかおかしいのだ。勇者、剣士、王女の3人ともが、なぜか異常に私に構ってくる。段差や水たまりには誰かが先回りし、王女は私が眠るたびに顔を覗き込んでくるし、ちょっとでも独りになると3人とも慌てて探しにくる。


 そして、あと1つ。なにやら私を王都にやたらに招いてくるのだ。聞いてみると、3人とも口を濁したが……私の体を専門家に診察させたい、のだそうだ。なるほどなるほど。


 この時点で、王都には200年ほど行けない状況であることが確定した。仲間を信頼していないわけではない、ないが……騙されている可能性はある。前々回も、最初は確かそんな感じだった気がする。そう、私は学習できる女。





 そこで私は、王都なんて絶対に行かないと泣いた。5千年も生きていながら、本気で泣いた。半分以上は、解剖が怖い本気の涙だった。すると仲間は慌てて、連れてなんて行かないと約束してくれた。なぜか部屋の出入口を剣士と勇者が塞ぐようにさっと動き、王女が優しく私を抱きしめてくれた。


 そう、この時点で話は終わったはずなのだ。連れていきたい→行かない→わかった。非常にシンプルである。




 しかしなんと、彼らは次に、近所の町医者に私の体を診せようとしてきたではないか。もちろん拒否した。そういうことではない、王都だから嫌だとかそういうことではないのだ。体はほぼ人間と同じ(だと思う。中身は知らないが、外見が同じならたぶん一緒だろう)とはいえ、専門の人に診てもらったら長命種だということがバレてしまうかもしれない。





 だが、事ここに至り、私も察していた。仲間たちは、どうやら私の寿命が減っているのではないかと思い、それを気にしているようなのだ。しかし、おそらく万年単位の私の寿命からたった80年程度が削られたところで、そんなものは誤差。彼らが気にする必要などこれっぽっちもないのだが、それを言うと、私は長命種でございと白状するようなもの。八方塞がりであった。


 重ねて言う、仲間を信頼していないわけではない。しかし、秘密を伝えるということは、それを守るという重圧を背負わせるということ。そんなことは、できればしたくない。


 しかしここで、私の脳裏に突如天啓がひらめく。私はこの瞬間、自分のことを天才ではないかとすら思った。伊達に私も長く生きていなかったらしい。




 ……つまりだ。どうやら彼らは、私が魔法を使った結果、普通の人よりも寿命が少なくなってしまったと思っている。問題はここだ。ならば、多少は短くなったけれど、普通の人と同じ寿命が残っている、ということにすればどうだ? 彼らもニコニコ笑ってくれるのではないか?








 そこで、私は、王女様にとてとてと近寄った。なぜ王女様だったのかというと、ただ単にここが女子部屋であり、彼女が一番近くにいたからだ。王女様は私を見下ろし、不思議そうに首を傾げた。


「王女様……隠していたんですけど……私、実は普通の人の2倍の寿命があるんです。なんでも、寿命が長い種族の血を引いているらしくて。だから、今残ってる寿命は、ちょうど普通の人くらいなんです! だから私のことなんて気にしないでいいんですよ」


 血を引いているというか、私には純度100%の血が流れているわけだが、まあ嘘ではないだろう。私は期待を込めてそっと彼女を見上げ、ぎょっと身を震わせた。なぜなら、王女様が、黙ったまま、滝のような涙を流していたからだ。そのまま口をつぐんでいた王女様だったが、やがてそっと、哀しそうに微笑んでくれた。


「……そうなのね」


 微笑んではいたけれど、なぜか涙は溢れたままだった。そしてなぜか王女様は、がっしりと私を抱きしめてきた。私の首に食い込む王女様の両腕は的確に私の頸動脈を圧迫しており、薄れていく視界の中、「そういえば再会した時も王女様が一番泣いて取り乱してたなあ」と、私は現実逃避のように思い返していた。




 それから、他の2人にも同じことを伝えたが、どちらからも似たような反応が返ってきた。何度も圧迫された私の頸動脈はもはや限界寸前であった。なぜこんなことになってしまうのか。


 私は泣いた。5千年も生きていながら、よく分からない現状に本気で泣いた。




* * * * * * * * * * * *




 そして、4人が再会を果たしてから、しばらく経った頃――。彼らが久しぶりに揃って旅へ出た、ある春のことだった。忙しいはずの王女もなんとか都合をつけ、旅装束で姿を現した。彼らの旅の目的は2つ。1つ目は、旧交を温めること。2つ目は、寿命を延ばす方法を調べること。


 掲げられた夢物語のような目的に反対し、近所の温泉地巡りをしようと発案した魔法使いの少女の提案は1:3で却下され、彼らが今回目指すは、遥か遠くの山脈のふもとにあるという、小さな町。そこには、人間より遥かに長い寿命を持つ存在が、昔、確かに存在したという。


 勇者、剣士、王女、そして魔法使いの少女。


 かつて世界を救った仲間たちは、再び肩を並べ、静かな山あいの町へと足を踏み入れていた。空気は澄み、山桜が風に揺れる小道には、すれ違う村人の穏やかな挨拶がよく似合った。




 ……が、1人、様子がおかしい者がいた。魔法使いの少女だ。


「ねえ……ほんとに、ここで泊まるの?」


 そう尋ねる声はいつになく小さく、けれどどこか切実だった。彼女はきょろきょろと周囲を見回し、足取りも落ち着かない。


「日も暮れるし、ここから次の町までは遠いぞ?」


 勇者が首を傾げて言うと、彼女は「ううん、うん……そうだよね……」と苦笑して、それ以上は何も言わなかった。






 その夜、4人は町の古い宿に滞在することになった。


 木造の床がぎしりと鳴るその広間で、夕食のあとに暖炉を囲みながら、4人は町人との談笑に興じていた。中でも一際饒舌だったのが、地元の老婆だった。


「……昔この町にね、不思議な女の子がいたって話、知ってる? 長命種、っていう、寿命がとっても長い種族だって、そういう話」


 その一言で、勇者と王女の姿勢がわずかに前のめりになる。王女が、焦りを抑えたような口調で口を開いた。


「長命種って、おとぎ話の中の存在じゃなかったかしら?」


「それがね、実際にその子は、とっても長い年月を生きていたらしいの」


 剣士は静かに湯呑を手に取ったまま、何も言わずに耳を傾けている。なぜなら、今、寿命に関する話題は、3人の中では非常に重みをもつものだったからだ。


 そして残る1人、魔法使いの少女は――ぴくり、と肩を跳ねさせた。


 老婆は、どこか懐かしそうな声で続けた。


「まだ十代半ばくらいだったかしら。冒険団の人たちに守られてたの。あの子だけどこか違うような、って言われてて。ふふ、変な話よねぇ」


 勇者は、笑う老婆の話を聞いて首を傾げた。


「違う? 顔の感じが違ったとかですか?」


「顔? うーん……もう何十年も昔のことだし……町の人から、可愛いとは言われてたけど」


 勇者が、ちらと隣の魔法使いの少女を見た。


 さっきから彼女は、暖炉の火を見つめたまま、微動だにしない。……木の節に穴が開くんじゃないか、というくらいに、一点を見つめてじっとしている。


「よくパン屋に通ってたわ。耳のところだけもらっては、嬉しそうにしてたのよ」


「なんか誰かさんに似てるな」


 そう言って勇者が彼女を肘でつついたが、魔法使いの少女は口元を引きつらせたまま、反応しない。そして、まるで人類史上初めて梅干しを口にした人みたいな表情で、口をすぼめて宙を見上げた。


「その後、町の騎士様の家の坊ちゃんと、たいそう仲良くなってねぇ……それでなんとその2人は……あら、聞きたい?」


 老婆がふと茶目っ気たっぷりに尋ねた。思わず身を乗り出していた勇者と王女は顔を見合わせ、声を揃えた。剣士も黙って頷いた。


「「聞きたい!」」


 その声に、老婆が「おやまぁ」と笑う一方で、魔法使いの少女は――ぶんぶんと首を横に振っていた。

それでも、過半数のルールは絶対である。





 老婆は微笑みながら語り出す。

 この村でかつて起きたという、“とある長命種の少女”をめぐる、不思議な物語を――。




後日談か過去編か、それともただの夢かもしれない話

おまけの中編です

本編よりも曇らせは薄めです

本当です

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どんな話が聞けるのかな?
にゃ?物語の続き?
プロローグ…だと…?
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