表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の言葉 ~灰かぶり令嬢の恋は、焼き立てスコーンとイチゴジャムから~  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/22

扉を開く鍵

 ウーーッ! ウーーーッ!

 日が落ちたワードロウの街に、またサイレンの音が響いた。


「あぁ、イヤな音だね! その逃げた『オオカミ』は、まだ捕まらないのかい!?」

『薔薇の名前』のキッチンの窓から、そっと外を(のぞ)きながら、メイジーが顔をしかめる。


「アッシュ様達は、ご無事かしら……?」

 すぐに現場に向かったアッシュの代わりに、エルムに送ってもらって、慌ただしく終わった今日のデート。

 いつもの黒いドレスに着替えたロージーが、心配そうに(つぶや)いた。



「大丈夫だ。『魔法いらず』って呼び名も、部下や街の人達の『魔法が無くても十分強い』って尊敬の気持ちが、込められてるそうだよ!」

 スタンリー叔父さんが、『姪』の肩をぽんと叩き。

「きっとこの前みたいに、あっという間に鎮圧してくださるわ!」

 ルイーズ叔母さんが優しく続ける。


「……そうよね!」

 やっと笑顔を見せた元男爵令嬢に、

「それで、ロージー? デートは楽しかった?」

 メイジー姉さんが、にやりと(たず)ねた。



「楽しかったわ……! 町をあちこち案内して頂いて、ステキなレストランでランチ。

 それから中州にある神殿に、連れて行ってくださったの」

「神殿? あぁ、この前土手から見たよ! 中に入ったのかい?」

「不思議な鍵がかかっていて、入れなかったの。中にある『狼の女王像』も、誰も見た事が無いんですって」

 興味津々の顔で聞いて来る、元執事に対して


「神殿ねぇ……も少しロマンチックな場所は、無かったのかい?」

「わたしが亡くなった主人とデートした時は、お花がキレイな公園とか、劇場とかに行ったけど?」

 料理人と、夫を病気で亡くしている元家政婦が、姉妹で首を(ひね)った。



「あら、神殿だってステキだったわよ――神秘的で! 

 狼の王様と女王様の、哀しい言い伝えもあるの! ロマンティックでしょ……!?」

 憮然とした顔で反撃するロージーを、保護者3人が微笑ましく見つめる。


 その時、

「それって、お姉ちゃんがいつも歌ってる歌みたいだね!

『東と西の川の中、国王様がお出迎え♪』」

 ナイトを撫でながら何気なく、ディビーが口ずさんだ。


「あぁ昔、奥様が良く歌ってらした……お嬢様!? どうなさい――いや、どうしたんだい!?」

 急に、凍り付いたような表情で固まったロージーに、慌ててメイジーがたずねる。



「……それだわ。神殿の扉を、開くヒント!」

 ロージーが告げたのと、ほぼ同じ頃。


 街外れに『オオカミ』を、追い詰めていた警備隊長が、

「それだ――扉を開くカギ!」

 瞳を金色に輝かせて、叫んでいた。



 ◇◆◇◆◇

 その少し前、


「隊長! ヤツをうまく、おびき寄せました!」

「よし! 来るぞ……『テイク・ザ・リィード』!」

 細い小道に誘い込んだ『捕獲対象』が、銀色の毛をなびかせ走って来る。


 パチン!

 アッシュが指を鳴らしたと同時に、円柱型の石畳がボスンッと跳ね上がり。

 通り過ぎようとした巨大な狼の腹を、真下から直撃した。

「グオォォーッ……!」

 苦しそうな叫び声を上げ、どさりと倒れ込む獣。


「やったー!」

「すげーっ、隊長!」

 部下達が飛び上がり、喝采を叫ぶ中、

「まだだ……!」

 苦い声を発したアッシュの目の前で、獣はよろりと立ち上がる。

「ヴゥッ……!」

 鼻の上にシワを寄せ、怒りに満ちた金色の目でにらんでから、ダッときびすを返す。


「逃げたぞ!」

「追えーっ!」

 路地を走る部下達に続こうとした隊長を、

「アッシュ……」

 肩を掴んで引き留めたのは、

「エルム? どうした?」

 マルト王国から出向中の、友人だった。



「あいつ、元は『石像』って話だよな?

 ヤツの行先はおそらく――『中州の神殿』だ!」

 確信に満ちた声で告げた後、エルムが歌い出したのは、


「東と西の川の中、国王様がお出迎え♪」

 結婚したいと初めて思った女性……ロージーがいつも、口ずさんでいる歌。


「エルム、お前――なんでその歌を!?」

 まさか俺が特訓している間に、ロージーと親しくなって……!?


 気が付けば嫉妬に震える両手で、親友の襟首をぐっと掴み、締め上げていた。



「げほっ……落ち着け、アッシュ!

 この歌は、昔から我が家に伝わる『伝承歌』だっ……!」

 苦しそうな声に、はっと手を緩め

「我が家って――『コリンズ侯爵家』か!?」

「そうだよ! ったく、何興奮してんだ!」


 エルムの呆れた声に、気まずそうに答えるアッシュ。

「同じ歌を――ロージーが、良く歌っているんだ」

「ロージーが……?」

 口元に指を当てて、何事か考えているエルムの肩を、アッシュが揺さぶる。


「それより、さっきの歌だ! 

『東と西の、川の中』とは、まさにあの神殿。続きは――!?」

「あっ、あぁ……『右に7回、左に3回』いや、6回だったかな?」

 ぶつぶつと首を捻るエルムの前で、


「それだ――扉を開くカギ!」

 警備隊長は叫んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
言い伝えの歌を歌っていたら知らぬ間に親しくなっていたと勘違いして・・・ はやとちりがおちゃめで可愛いですね(^_^*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ