16話.動画を撮りました
「スティックには大別すると2種類の握り方がある。まず、これがレギュラーグリップだ。左手が特徴でジャズやフュージョン系に多く見られる握り方だな」
「そしてこれがマッチド・グリップよ。左手と右手を同じ形で握るわ。この握り方は手の角度で更に2種類のグリップに区別されるわよ」
「そう。親指の爪を上に向けたらティンバニー・グリップと言って、細かいフレーズや軽いタッチの表現に使うんだ」
「手の甲を上に向ければスナップ・グリップと言って、腕全体を使ったハードなショットにはこちらを使うわ」
今、私とユナはドラムの基礎的な事を動画として撮っている所だ。
「フル・ストロークはこうして高い位置から叩いて高い位置へ戻る事を言う。ダウン・ストロークは高い位置から叩いて低い位置で止まる。反対にアップストロークは低い位置から叩いて高い位置へ戻る。最後にタップ、これは低い位置から叩いて低い位置に止まる」
「これらが基本的なストロークね」
「ああ。そしてこれらを使って、更に3つのストロークモーションで使い分ける。一つ目、アーム・ショット。肩関節と肘を使って、腕全体を一つのユニットとして機能させるショットだ。こう、なめらかな鞭のようにな」
「もう一つはこれよ。手首を中心に、リストのスピードで叩くのよ。リストショットと呼ばれているわね」
「最後に、指を使って連打するフィンガー・ショットだ。こんな風に中指かスティックを動かす」
「後はもう一つ重要な打ち方があるわ。レオナ」
「ああ。ダブル・ストロークと言って、こうしてスティックの跳ね返りを利用して1度のストロークで2回叩く事だ」
「基本的なところはこれで終わりよ。それじゃ、これで終わるわよレオナ」
「分かった。これは文化祭での踊りを考えてくれた事での姫咲拓都への礼として撮った動画だ。彼からドラムの基本的な事を教えて欲しいと言われたんでな。これで礼になったか? 以上で終わりだ」
「はいカーット! お疲れ様レオナちゃん、ユナちゃん!」
ふぅ……とりあえず上手く撮れただろうか。
文化祭で踊る見本動画は、案の定一度で撮り終えた。
踊ったのはレオナでもユリアでもユナでもなく僕だけど(勿論ダボダボのジャージを着て)、ユリアが動画に編集を加えてくれて、隣にマネキンのようなCGを追加して、分かりやすく手順を教えてくれるようになっている。
これで準備は整ったので、明日学校で公開予定だ。
それとは別で、僕が気になっていたのは博人のドラムだった。
確かにレオナとしての指導で博人の腕は上がったけれど、どうにも基本的な知識が欠落している感じを受けたのだ。
なので、なんとか基礎を覚えて貰って、もっと腕を上げてもらいたいと思った。
でもそれを僕から言うわけにもいかないし、レオナとして個人的に教えるなんてもっと出来ないわけで。
それで思いついたのがこの方法だ。
レオナから僕への礼として何が良いか聞かれて、それなら友人がドラムに興味があるから、基本的な事を教えてくれる動画が欲しいとお願いした。
という体にする事にした。
ユリアとユナにそれを伝えたら、快く協力してくれたというわけだ。
ユリアには動画の編集を手伝ってもらい、ユナはドラムが出来るので、一緒に撮ってもらう事にした。
最初は私だけでやろうと思っていただけに、ユナが手伝ってくれるのは意外だったけれど。
「にしても、その男は果報者ね。レオナにそこまで想ってもらうだなんて」
「いや、私の方がずっと世話になっているからな。……その、レオナとしてではなく、拓都としてだが」
「良いなぁ。私もレオナちゃんと幼い時から知り合いだったら、レオナちゃんの特別になれたかなぁ」
「十分に二人共特別なつもりなんだが……」
「「……」」
そう言ったらユリアだけじゃなく、珍しくユナまで顔が赤くなっていた。
しまった。いつもユリアが素で言ってくるので、私まで言ってしまった。
「も、もももうっ! レオナちゃんにそう言われたら嬉しくなっちゃうよ!」
「クス。寡黙なレオナも悪くないけれど、そうやって自分の気持ちを正直に話してくれるのも、良いものね」
私まで顔が真っ赤になっている自覚がある。
この変な空気を変える為に、一つ提案をする事にした。
「そうだ。文化祭の日に私達が歌うライブは、どうせなら新曲にしないか?」
「「!!」」
「サプライズ的にも良いと思うんだ。正式な公開はドームでするとして」
「それは面白いけれど、事務所的には良いのかしら?」
「その点は日曜日に姉さんと話してある」
「事務所が良いなら、私はOKだよレオナちゃん!」
「ええ、私も良いわ。なら、新曲の方の練習をするとしましょうか」
「ああ!」
こうして、余った時間はまだ世間には未公開の歌と踊りの練習をする事にした。
文化祭までまだ時間はあるし、皆もこれから踊りを覚える時間になる。
『スターナイツ』として失敗は許されないし、皆を感動させる歌と踊りにしてみせる。
そう思い、練習に取り込むのだった。




