14話.二人を初めて家に招待しました
二人にメールを送ったら、すぐに返事が届いた。
『連絡ありがとう拓都。事務所の皆にも共有して、覚悟は決めておくから。どうなろうとも、お姉ちゃんは拓都の事を考えてるって忘れないで。落ち着いたらもう一度連絡を頂戴。今日は仕事を切り上げて帰るから。父さんと母さんにも結果次第では帰ってもらうつもりよ。こちらの事は大人に任せて良いから、ユリアちゃんとユナちゃんの事、しっかりね』
姉さん……。
『わ、分かったよお兄ちゃん! とりあえずそっこーで家に帰るから、少しでもゆっくり帰ってね!』
美香にも迷惑を掛けてるよな。
「どうしたの姫咲君?」
「あ、いや。それじゃ帰ろ……行こうか?」
「あはは! 帰ろうで良いよー」
「少しだけ待ちなさい。……よし、オーケーよ」
「?」
「良いから、行くわよ」
そう言って先頭を歩き出すユナの後を、ユリアと一緒に追う。
ユナとユリアが一緒に居るので、周りの生徒達の視線が凄い。
必ず二人を見た後で、近くに居る僕を見て怪訝な顔をするまでがセットだ。
うう、レオナでいる時には感じない視線なので、凄く居心地が悪い。
下駄箱で靴に履き替え、運動場を経由して校門へと出ると、黒塗りのリムジンが止まっていた。
「あれ、これ後藤さんかな?」
「ええ。流石に私達が歩いて……姫咲だったかしら?」
「あ、うん」
良かった、一応名字は覚えて貰えたようだ。
「姫咲の家に向かうのは目立ちすぎるでしょう。マスコミに騒がれても面倒だわ。レオナの件でそれは分かるでしょうユリア」
「あっ……そうだね。私、考えなしで……ごめんねユナちゃん」
「良いのよ、欠点は言い方を変えれば長所となる。ユリアの無鉄砲さは美徳でもあるわ。完璧な私やレオナにはない物。大切になさい」
「それって褒められてるのかなぁ!?」
相変わらずの二人を見て、つい微笑んでしまった。
「ん……?」
「な、なにか?」
「いえ。……そんなわけない、わよね。さ、愚民が乗るには過ぎた車だけれど、乗りなさい」
「あ、はい」
そうして助手席に座ろうと扉を開けると、後藤さんが頭を下げた。
「えっと……お世話になります」
「初めまして。本日は急な事に対応してくださり、ありがとうございます。どうぞお座りください」
後藤さんには姉さんから話が行っているのだろう。
僕とも初めて会うという対応を自然にしてくれた。
「ありがとうございます」
「……庶民にしては、自然に座るのね?」
ぎっくん。まぁ、ほとんどの移動をこの車でしているわけで、家で寛いでるような感覚なのだ。
「そ、そうかな? うちの車がちょっと似ているからかも……」
「へぇ……」
感心しているようだけど、ちょっとの事でレオナに近づかないかとこちらはひやひやものだ。
「では、道順を教えて頂けますか?」
「あ、はい」
そうして後藤さんに道を教えながら(と言っても後藤さんはすでに知ってるんだが)うちへと進み、門の前で車が止まる。
「それでは、近くで待機しております。終わりましたらお知らせください」
「ええ、分かったわ。ご苦労様」
そう言ってユナとユリアは先に車から降りる。
それを見てから、僕も車から降りようとして……
「姫咲さん。どうなろうとも、私は対応を変えません。それを片隅にでも覚えておいて頂ければ幸いです」
「後藤さん……」
「では」
そう言って、車を走らせて行った。
「ここが姫咲の家なのね。庶民にしては大きい家に住んでいるのね」
ええ。姉さんがお金を稼ぎだしてから、リフォームしたので。
専用のダンスルームやミュージックホールまで完備してある。
僕にダンスを教えてくれた先生も直接来てくれていたし。
今ではもう、先生に教える事はないと言われて、海外へと旅立ってしまったんだけど。
先生、元気だろうか。
「うわー、すっごく広いね! 入っても良いの?」
「勿論。先に……」
「はぁっ! ハァッ! ま、間に合った!?」
妹の美香が居るかもって言おうとしたら息をきらしながら美香が帰ってきた。
「お帰り美香」
「はぁっはぁっ……た、ただいま。私猛ダッシュで学校から帰ってきたのに、なんでこんなに速いの!?」
あー、車だったからなぁ。
「初めまして、かな? 私は御剣……じゃなくて、明野響です。姫咲君のクラスメイトだったりします。よろしくね!」
「私の事は知っているわね? 水鏡ユナよ」
「あ、あははー。私は姫咲美香です。お兄ちゃんから一応聞いているので、大丈夫です。ちょっと準備するので……お兄ちゃん、ダイニングに案内しておいて!」
「了解。それじゃ二人共、どうぞ」
「お、お邪魔しまーす!」
「失礼するわね」
家に入ってすぐのダイニングへと二人を案内する。
大きなテーブルと椅子が6つある、基本的な間取りの部屋だ。
キッチンもすぐ傍なので使いやすいんだよね。
「うわー、奇麗だね」
「もっと汚くしているのかと思っていたわ」
僕と美香しか基本的に家に居ないからね。
個人の部屋もある為、私物は全部そっちに置いているから、基本汚す事が無いだけだ。
僕は冷蔵庫から、二人の好きなジュースを取り出してグラスへと注ぐ。
「はい。喉乾いただろうし、良ければどうぞ」
「わ、ありがとう姫咲君♪」
そう言って嬉しそうに受け取るユリアと。
「……どうして、これを私に?」
「え? 好きじゃなかった?」
「いえ、好きだけれど……何故貴方が、私の好みを知っているのかしら?」
サーッと冷汗が流れる。
しまった、三人で居る時間が当たり前に多いので、すっかりいつも通りの私として振舞ってしまった。
「あ、いや、それは、その……」
「も、もー! やだなぁユナちゃん! 『スターナイツ』のファンなら、メンバーの好みくらい知っててもおかしくないよー!」
「ふむ……それもそうね。下僕として及第点を上げるわ」
「ど、どうも……」
ユリアのナイスフォローで、なんとか事なきを得た。
うぅ、僕って隙だらけすぎないだろうか。
それから制服から着替えた美香が戻って来た。
「お待たせしましたー。えっと、ダンスルームで良いんだよねお兄ちゃん」
「うん」
「あの、私も一緒でも大丈夫ですか?」
「大丈夫だよー!」
「ええ、私も問題ないわ」
「ありがとうございます。それじゃ、案内しますね。お兄ちゃんは着替えてきたら?」
「え? 別に制服のままでも……」
<<それでユリアさんにバレたんでしょうが! せめてダボダボの運動服に着替えて来て!>>
<<あ、ああ! 成程!>>
「うん、それじゃ二人の事よろしくな美香」
「はーい。こっちですー」
美香に連れられて行く二人を見送り、僕は自分の部屋へと着替えに戻るのだった。




