12話.水鏡ユナはライバルです
タンっと軽快な踊りの最後を決め、私は立ち上がる。
「「「ワァァァァッッ!!」」」
沢山の人達の歓声。
駅前の夕方、仕事帰りの人達も増え、人が多くなる時間帯だ。
その時間を狙って、こうして歌と踊りを披露する。
スマホを使って動画を撮ってSNSで拡散してくれる人の手助けもあって、話題になって他県から来るような人も増えた。
「お、おいあれ!」
「ユナ様だっ……!」
遠くからのざわめきが聞こえ、そちらに目を向ける。
一目で美女だと思った。青髪の奇麗な女性。黒いブーツがコッコッと音を鳴らし、近づいてきた。
「貴女が星美レオナね? 私は水鏡ユナ。この辺りを縄張りにしてる、女王よ」
「……」
まさか自分で女王なんて言う人と今まで会った事がなかったのもあって、固まってしまった。
「この私の島で、人気をかっさらうなんて良い度胸だわ。貴女、私と勝負なさい」
「……」
「勝敗はこの私が決めてあげる。勝負の方法は踊り、ダンスで今ここに居る観客達を沸かせる事。喜びなさい愚民共! この私の芸術を、リアルで見れる事をね!」
「「「ウォォォォッ! ユナ様ァァァァッ!」」」
彼女のホームタウンというのは間違いないようで、すでに多くの人達が盛り上がる。
私がここで踊るようになって一週間も経ってはいないが、その間毎日同じ時間で歌と踊りを披露していた。
今まで出会わなかったのは、彼女は私と違い、毎日のようにはしていなかったのだろう。
この時の私は、踊りはアクロバティックな踊りを披露するようにしていた。
動きのON・OFFにより、ダンスの鋭さを増し、カッコ良い動きを表現していくように。
特に踊りは音楽によって変えなくてはならない為、静かな曲だと私の踊りは合わなくなってしまう。
「クス。安心なさい。貴女の踊りは情熱溢れるブレイクダンスである事は動画で見て知っているわ。だから、この曲でいきましょう」
そう言って再生される曲。
成程、これなら私の踊りにも合っている。
ユナが開始の声を上げる。
「ブレイクダンスバトル、ready!」
「!! Go!」
音楽に合わせて、私達はダンスを踊る。
私はユナを意識しながら、ユナは私を意識しながら。
互いにダンスを見て、戦うように動きに激しさが増していく。
「うぉぉぉっ! すっげぇカッコイイ!」
「あのユナ様に張り合うのかよ!?」
「レオナちゃんマジで凄くない!?」
私がダンスの様々な技を披露していくと、ユナも全く同じ技を仕返し、新たな技を仕掛けてくる。
ストマック(フットワークの最中に、お腹を擦らして動く技)からフロアトラックス(頭を軸に、寝転んだ状態からチェアーに持っていく)に繋げる初心者的な技は言うに及ばず、アップロック(ダンス中に相手を威嚇する技)を交えながら、更に難しい技をドンドンとやり返してくるのだ。
控えめに言って、超楽しかった。
こちらが技を出せば、それ以上の難易度の技で返してくる。
湧き立つ観客達の事が頭からすっぽりと抜け、私は笑っていたと思う。
この笑いとは一般的な笑いではなくて、嬉しさからくる微笑というか。
そんな私を見て、ユナもまた同じ表情をしていたと思う。
楽しい時間というのはあっという間に終わるもので、音楽が終わりダンスは終了。
お互いに額に汗をかきながら、微笑を零し見つめ合う。
「やるわね、星美レオナ。来週、もう一度勝負しましょう。次は、勝つわ」
そう言って、ユナは颯爽とこの場を去って行った。
私もこれ以上踊る気にはなれず、帰る事にした。
その後、私とユナのダンスバトルがSNSでトレンド入りし、爆発的に有名になった。
次の勝負予告があった事もあり、翌週にはテレビ局まで取材にきて更に多くの人に知られる事となった。
そうして何度か勝負をするうちに、ユナから言われたのだ。
「貴女との勝負は楽しいわレオナ。貴女と勝負をしていると、私は自分の成長を感じられる」
「……」
「どうかしら。貴女の『スターナイツ』に、この私を加えてみる気は無い?」
「!?」
「ふふ、初めて貴女の驚いた表情を見れたわね。貴女の腕は素晴らしいわ。私は、自分より上だと思った相手は居ない。それが例え業界トップの者達であろうとよ。けれど貴女は、貴女からはそれ以上の力を感じたわ。私は、貴女と踊りたいと心の底から思った。貴女は、どうかしら?」
「……私も、ユナは凄いと思った」
「!! そう、他でもないレオナにそう言われるなんて、嬉しいわ。……では正式に。『スターナイツ』、星のように輝く騎士。トップを目指して世界の星になる為に、私もそのメンバーに加えて頂けるかしら?」
差し出された手を、私は無言で握る。
「ありがとう。共に、最高を目指しましょうレオナ」
その日、一人だった『スターナイツ』に新たなメンバーが加わった。
・
・
・
・
・
「ユナは、私自身に惚れ込んでる。そしてそれは、女性である星美レオナなはずなんだよね」
「……そうね。自身と対等の存在。そこに安心を抱いているし、憧れと、貴女がいるから上を目指せると思ってる」
ユナは他の人を見下している。
幼い頃からなんでも出来たらしい。
そうしてつまらない毎日を送っている時に、音楽と出会ったんだと語ってくれた。
「ユナは私が男だと話したら、離れて行くんじゃないかな……」
「「レオナちゃん……」」
姉さんと美香は悲しそうな顔をして、何か言いたそうにしていたけれど……
「それじゃ、着替えてくるよ」
私はその場を立って、僕に戻る事にした。
星美レオナとして出会った事で、僕と私との関係で悩みが出来るなんて、最初は思っていなかった。
どちらも僕なのに、私との関係が僕を蝕んでいく。
それでも、やると決めたのは僕なのだから……この問題にはきっちりと片をつけなくちゃいけない。
そう思った。
お読み頂きありがとうございます!
少し重い雰囲気になってしまいました。
ブックマークや評価を頂けると、続きを書こうってモチベーションが出るので、よければお願い致します。
感想なども貰えると、これからの展開に影響が出ると思いますので(なんせストックなしで書いています)気軽に書いてみてくださいね。全部読ませて頂いて、お返事させて頂きますので。
ではでは、続きも楽しんで頂けたら嬉しいです。




