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18.三つだけの魔法(1)

 赤侍女の見習いを始めてから1週間が経った。


 それは、森乙女の祭りを翌日に控えた朝のことだった。




「今日は、見習い同士でペアを組んで動いてもらうわ」


 赤侍女長はそう言った。ブルーナはあからさまに顔を歪める。


 けれども、初日のように癇癪を起こすことはせず、言われたことを淡々とノートに書き留めている。


 侍女長はその様子を一瞥し、おや、という顔をした。




「仕事そのものの進行はララリアラが、他の侍女とのやりとりはブルーナが。

 それぞれ主導で行って頂戴」


「かしこまりました」


 わたしたちは一礼する。


「ペアを組むのは学びのためよ。

 一人でできる仕事も一緒にやることで、自分とは違うやり方を学びなさい。ーーそれから、互いに敬意を持って接するように」


 いつもは彫像のように美しく固まっている侍女長の表情が少し崩れた。ぷっくりとしたくちびるが弧を描いたのを見て、わたしは驚いた。








「ブルーナ、よろしくね」


 わたしが言うと、彼女は眉をぐっと寄せながらも「ーーよろしく」とぼそぼそした声で言った。


 わたしは、そんなブルーナの様子を可愛らしく思った。


「今日の主な作業は、王族の方々の居室に赴くものばかりね。リネン類の確認と発注だとか、ジュエル王女の画材関連に、グレゴール殿下の研究関連……。

 それから孤児院の子どもたちに借りた本の返却と貸し出し。これは街に行く必要があるわ。

 それから発注表の整理に備品室の整頓……」


 わたしはブルーナの顔が青ざめているのに気がついた。


「どうかしたの?」


 ブルーナははっと表情を引き締めて、答えようかどうか逡巡している様子だった。


 けれども、ややあってから、執務机に向かって黙々と仕事をこなす侍女長に目をやり、小さな声で言った。


「……こんなに終わるかしら」


 それはか細く、とても不安げな声だった。ーーブルーナはまだ十四歳なのだ。


 社会に出た経験があるわけでもない。不安になるのも当たり前だった。




「ブルーナ、大丈夫よ。きょうは二人で回るんだから、絶対に終わるわ。とりあえず順番を組み立てていくから待っていてね」


 わたしはそう言うと机に向かって、いつものように四つ折りメモを作った。


 ブルーナはその様子をまじまじと見つめている。



 やるべきことをすべて書き出すまでにかかったのは、ほんの数分だった。


 けれども、そのひと手間で、わたしの頭の中には、今日の仕事の地図ができあがっていた。


「それじゃあ、始めよう。

 一つ目、午前中に王族関連の確認と発注。

 二つ目、それが終わったらすぐに街に出ます。お昼休憩は外で取ってもいいはずだから、時間帯によっては先にカフェなんかに寄ると良さそうね。三時ごろまでには戻ります。

 三つ目、手を動かす仕事。終業までの間にまとめてやります」


 わたしが提案すると、ブルーナは目を丸くしていた。


「そうと決まれば、まずは行動行動!」


 わたしはそう言って時刻盤に目をやった。


 時刻盤は、前世でいうところの腕時計。水晶のついたブレスレットのようなものを腕に巻き、魔力をほんの少し注ぐ。すると、ホログラムのように時計が浮き上がって見えるのだ。




「ーーそれじゃあ、十時までに三つ終わらせようか。

 一つ目、発注表の整理。片づけながらグレゴール殿下とジュエル王女殿下の発注表を探しておく。

 二つ目、補充作業。ジュエル王女殿下の絵画室へ行って、部屋付きの人と一緒に補充が必要なものをチェックする。

 三つ目、図書館関連。王女の居室と孤児院が近いから、ついでに返却する本と新しく借りる本の希望も聞いてこよう」


 私がひと息でそこまで言うと、ブルーナは悪態をつくことなく、うなずいた。


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