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29 ルーキー

「片方のマフィアチームはわかりやすい。片腕に青い布を巻いているのがチームの証だ」


 そう言ってレンダーは足元の男を拘束しつつ、説明を始めた。


「もう一方は少々分かりづらいが、体のどこかにドクロモチーフの印を入れてやがる。服にそんな証が付いてるヤツがいたら、同じく殴り飛ばして捕まえてくれりゃいい」


 簡潔にそう言うと、彼は立ち上がる。


「捕まえたらギルドに連れて来てくれ。あとの事はこっちでやる」


 捕まえた相手を片腕で担いで立ち去ろうとする彼を、俺は引き留めた。


「ま、待ってくれよ! そんな適当な判断基準でいいのか? もし捕まえた相手が関係ないヤツだったらどうするんだ?」


 俺の言葉に、彼は肩をすくめて答える。

 

「その時は謝るさ。そして慰める。『そんな紛らわしい恰好をして、殺されなくて良かったな』ってな」


 レンダーの言葉に俺は息を呑んだ。

 ……これ、冒険者ギルドもマフィアの別名なのでは?

 唖然とする俺に対して、彼は笑った。


「何を考えてるかわかるぜ。だけどここはそういう街だ。そして俺たちは、そんな街で自分の命と平和を守る為に働いてるわけだ。嫌なら帰ればいい。帰りの船ぐらいは手配してやる」


 レンダーに煽られる。

 ……だがもちろん、俺に帰るなんて選択肢は存在しない。


「……報酬は」

「ん?」

「報酬はいくらだ。一人捕まえたらいくらになる? 俺たちは慈善事業でここにいるんじゃない」


 レンダーの目を真っ直ぐ見てそう言った。

 彼は笑う。


「良い目だ。そうこなくっちゃな。一人捕まえる度に金貨30出す。殺しちまってもいい(デッドオアアライブ)

「……わかった。いいだろう」


 報酬は本土で考えなら有名賞金首ぐらいの金額で、街のチンピラ相手なら破格と言っていい。

 ひとまずの軍資金を稼ぐ為には必要だ。


「みんな、問題はあるか」


 俺の問いかけに、話を聞いていた三人が答える。


「ないです」

「ない」

「大丈夫ッス!」


 意外にも三人ともすんなりと了承してくれた。


「それじゃあ、いくか。大陸での初仕事」


 俺の言葉に、レンダーが笑う。


「頼んだぜ新人(ルーキー)。……まだきちんとした挨拶もしてないのに、死体で再開なんてやめてくれよ」


 ゾッとするような言葉を俺たちにかけつつ、彼はギルドへと戻っていくのだった。



 * * *



 裏路地から始まった抗争は、表の通りまで広がり始めているらしい。

 俺は周りの騒がしさに耳を澄ませた。


 この街は基本的に冒険者の街だが、中には俺のように特別就労許可をもらって、本国から出稼ぎに来ている者も多い。

 落ちこぼれの冒険者や、そういった普通の労働者には身を守る力のない一般人も多いのだ。


 そんな人々の悲鳴のする方へと向かうと、早くも暴れ回っている男たちの姿があった。


 ……巻かれた青い布と、ドクロのマークが縫い付けられた服。

 全部で五人。二対三で戦っているようだ。


「上手いこと相打ちになってくれないかなぁ」

「それを待ってたら街の方が先に壊されそうだな」


 俺の言葉にエルンが相槌を打つ。

 さっさと止めないとダメか。

 とはいえ、言葉で止まるような奴らでないのは見ているだけでもわかる。


「……相手は敵対している組織の奴らだ。当然、協力だとかチームワークという概念はない。だが俺たちは力を合わせることができる」


 そう言って俺は三人の方に顔を向ける。


「四人で青チームを狙って、各個撃破をしよう。三人の方のドクロチームが残るかもしれないが、そいつらが逃げるならそれはそれで――ってあれ?」


 俺が作戦を説明していると、そこにリュッカの姿はなかった。


「……リュッカは?」

「もういったぞ」


 俺の疑問にエルンが答えた。


 は?


 俺が前に視線を戻す。

 すると戦いのさなか、一瞬の睨み合いによる沈黙の間に、リュッカが割り込んでいた。


「どーも、ちょっと周りの迷惑になってるんでやめてもらっていいッスかね~」


「――何やってんのあの子!?」


 思わず俺は叫んでしまう。

 マフィアたちも困惑しているようで、仲間同士顔を見合わせては首を傾げていた。


 マフィアの中の一人が半笑いで返事をする。


「何だお前? 殺されてぇのか?」

「いやぁ~……。一応声をかけておかないと、あとで倒した後に文句言われても困るじゃないスか」


 マフィアの言葉にリュッカが薄く笑った。


「――『不意打ちなんて卑怯だ』って」

「……ああ?」


 マフィアたちの間に不穏な空気が流れる。

 えーとリュッカさん! それ明らかに挑発ですよね!?


「ちゃんと言わないとわかんないッスか? ――『かかってこい』って言ってんスよ」


 そう言ってリュッカは剣を抜き、構える。

 彼女と会話していた細長い体躯の男が、両手に持ったショートソードの切っ先をリュッカへと向けた。


「このアマ、頭おかしいんじゃねぇか? いいぜ、そんなに死にてぇならその首と胴体――」


 男が右手を振り下ろす。


「切り離してやるよ!」


 そう言って彼が剣を振るうと同時に、血しぶきが舞った。


「――あ、ああ……!?」


 男が声をあげ、尻餅をつく。

 カラン、と男の持っていたショートソードが地面に転がる音がした。


「――申し訳ないんスけど」


 リュッカは刃を振って、血を払う。

 その血が、地面に転がる男の手首に付着した。


「本気でこないと、死んじゃいますよ?」


 リュッカの眼光に、四人のマフィアたちは慌ててそれぞれ持った武器を構えた。


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