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27 冒険者ギルド

「……ふう、すまねえな兄ちゃん」

「あ……いえ……」



 新大陸はオーリンズの港街。

 そこで俺たちが始めに向かったのは、冒険者ギルドだった。


 新大陸を旅する冒険者をまとめる、冒険者ギルド。

 ここでは各国から集まった冒険者たちが集い、そして自治を行っている。


 ……というと普通の共同組合のようではあるのだが。


「てめぇ! 止まれ!」

「死ねコラァア!」


 広い石造りの建物の中では、炎や氷の魔法が飛び交っていた。

 俺の前にいるギルドの受付のお兄さん――ムキムキのならず者にしか見えない男――は、足元で暴れる男を押さえつけながら笑みを浮かべた。


「今朝、大捕物(おおとりもの)があったばかりでな。見ての通り立て込んでんだ。ちょっと待ってくれ。なにいつもの事だからすぐ終わる」

「……はい」


 ギルドは各国から新大陸での自治権を委任されており、実質第二の政府のような物になっていた。

 ……強い者ばかりが集まるこの場所では、それより強い力を持った者でないと犯罪を取り締まれないのである。


「自信なくなってきた……」


 犯罪者たちを拘束するギルド職員たちを見ながら、俺はそう呟いた。

 俺たちがここでする仕事は、ギルドからの依頼を受けること。

 ……つまり、このギルド職員(屈強な戦士たち)が手に余すような仕事を押し付けられるということだ。

 命がいくつあっても足りなそうである。


 俺が青ざめているとリュッカが声をあげた。


「楽しそうッスね!」

「どこが!?」

「だってカッコよくないッスか? 街を守る正義のヒーロー! しかも一歩間違えれば死んじゃうスリル!」

「たしかにカッコいいと言えなくはないが、スリルはない方がいいな!」


 目を輝かせるリュッカに俺はそう答えた。

 俺も昔、憧れの人に命を助けられた事はあるし、リュッカの気持ちもわかる。

 だがそれはそれとして自分の命は惜しい――!


 そんなことを思っていると、視界の端で何かが光る。

 そちらに視線を向けると、誰かの魔法らしき氷の刃がこちらへ向かってきていた。


「よ、よけろ!」


 周りに注意喚起しつつ、その場に伏せる俺。

 すると向かってくる氷結魔法に向かって、エルンがその仮面を投げた。

 パキン、という音を立てて魔法が炸裂し、仮面を中心として空中に巨大な氷塊が発生する。

 魔法が無効化されたのを見て、俺はその場に立ち上がった。


「さすがエルン! ナイス!」

「……ふん」


 エルンは俺から顔を背ける。


「あの仮面は少しばかり魔力抵抗が強い素材でできてるんだ。……今ので使い物にならなくなったが」

「そ、そうか。すまん、俺を守る為に……」

「思い上がるなよ。ボクがお前を守ってやったとでも思ったのか?」

「いや事実、守ってもらったが?」

「……お前だけじゃなくてパーティみんなを守ったって事だよ! わかれよ!!」

「相変わらず言い方が不器用だな。ともかくありがとう」


 俺がそう言って笑うと、エルンはフードを目深(まぶか)に被った。

 獣耳を気にしているのか、それとも照れ隠しなのか。


「……まあ仮面がなくても気にしなくていいんじゃないか。エルンはもう暗殺者じゃなくて、冒険者になるんだし。それにこの街だったらきっと、耳の一つや二つ隠す必要もないと思うぞ」

「……そんなもんか」


 エルンはそう言うとまた別の方向を見つめた。

 ギルド内の戦いを観察しているらしい。


 そうして俺たちがしばらくぼんやり周りの攻防を眺めていると、次第に魔法や怒号がやんでくる。

 どうやら職員たちによる犯罪者の制圧が完了したようだった。


「……みっともない所を見せちまったな。改めて、このギルドの受付をやってるレンダーだ。よろしくな兄ちゃん」

「はい……よろしくお願いします」


 そう行って歓迎してくれる男と、俺は握手をする。

 彼は白い歯を見せながら笑った。


「それで、今日はどうした? 何か困り事か?」

「えーと本国の方から派遣されてきたんです……が……」


 俺は特別就労許可を受けてきたことを説明する。

 それを聞いてレンダーは頷いた。


「わかった。なら手続きしておこう。明日から働いてもらうよ。これはギルドの特務員の証だ」


 すんなりとそう言われ、星型のバッチを四つ渡された。


「必要があったらそれを見せれば、身分証明にはなるはずだ。ただし表では付けない方がいいぞ。闇討ちされるからな」

「ひぇっ……」


 俺は自分の分のバッチを慌ててポケットにしまい込む。

 どれだけ治安が悪いんだ、この街は……。


「ははは、最初からそんなに大きな仕事は渡さないから安心してくれ。……まあ、この街で安全な仕事なんて探す方が難しいんだが」

「はは……は」


 俺は乾いた愛想笑いを返す。

 ……とんでもないところに来てしまった。

 俺はそう思いながらも、宿の場所や街の主要施設の場所などをレンダーに聞いてメモを取る。


 ……おそらくだが、他の三人にはこういう細かなことは向いていないからだ。

 俺はそうして少しばかりの不安を抱えつつ、ギルドを後にするのだった。

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