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26 いざ新天地

「ここが新大陸……! ついに俺は、この第一歩を……!」

「早く行け」

「ぐえっ」


 エルンに背中を小突かれて、俺は船のタラップから地面へと突き落とされた。



 巨大スライムを倒した後、船には大きな損害もなく、船員たちに感謝されながら俺たちは無事に新大陸まで着いた。

 そこで俺が感慨(かんがい)深く新大陸への第一歩を踏み出そうとしていたのだが……。


「……お前なぁ! 俺がどれだけここに来るのを夢見てた事か……!」

「バカじゃないか」


 俺の抗議を受け流しつつ、エルンにミユサ、リュッカが船から下りて、新大陸の港へと降り立つ。

 エルンはにぎやかな港の様子をながめて、仮面を頭の上にあげた。


「こんな所で立ち止まっててどうする。これからずっと止まってる気か」


 エルンのそんな言葉にミユサが笑う。


「『ここはスタート地点だから、止まっている暇はない』……って言いたいみたいです、エルンちゃん」

「……クソ、微妙に良いこと言ってる気がして、言い返せない……!」


 俺はその場に立ち上がりながら、彼女たちの横に並んだ。

 船と人が動き回る港街は、活気が溢れていて恐ろしい新大陸とは思えないほどだ。

 ――ここから俺たちの冒険が始まるんだ。


 俺がそう思っていると、後ろから男の声がした。


「――おい」


 俺は首だけで振り返る。

 そこには船の上にいる、シーブルムの姿があった。


「……なんだよ」

「――すまなかった」


 彼はいきなりそう言うと、頭を下げて謝った。


「……許してもらおうだなんて思っていない。だがお前に命を助けられたのは、事実だ」


 彼は顔を上げて、そう言う。


「……俺は修行時代、東方から来た(まじな)い師とやらに簡単な魔術を教わった。言い訳になるが、それがどんなものかはお前に使うまでわかっていなかったんだ」


 彼はまっすぐにこちらを睨み付けた。


「俺はお前にムカついていた。冒険者になる手段として、錬金術を学ぼうとしていたお前が。錬金術師になりたくて学んでいた俺にとって、許せないことだった。……だから軽い気持ちで(のろ)いをかけたんだ」


 シーブルムは俺に人差し指を向ける。


「……俺の命が欲しかったら好きなだけ狙って来ればいい。俺はお前に殺されるだけの事をしたとも思う。それでお前に復讐されて殺されても恨みはしない! ……だが」


 そして腕を下ろした。


「……そんなお前に命を助けられてしまった。完全に俺の負けだ。……だからせめて、謝らせてくれ。……すまなかった」


 シーブルムはうなだれる。

 そんなシーブルムの様子に、俺は苦笑した。


「それが謝る態度かよ」


 俺はシーブルムに向かって指を差し返した。


「……俺には、お前みたいな小物に構ってる時間はない!」


 そして背中を向ける。


「これまでの事は貸しにしといてやるから、償いは今度会った時にでもしてくれ! 貢ぎものならいくらでも受け取ってやるよ!」


 そう言って俺は彼の返事を待たず、シーブルムに背中を向けたまま港を歩き出す。


 ――今頃シーブルムはどんな表情をしているのだろうか。

 復讐されず安堵しているのか、それとも見逃した俺をバカだと嘲笑しているのか、もしくは反省し泣いているのか、もしかしたら見逃してもらってみじめさを感じているかもしれない。

 どれであれ、俺はアイツをもう振り返らない。


 そんな俺に、後ろからミユサが駆けてきて声をかける。


「……いいんです?」

「……べつに」


 尋ねるミユサに俺は短くそう答えた。


「俺は新大陸で一流冒険者になる目的がある。それに原因がアイツの呪いとはいえ、実際にこれまでのパーティメンバーにされた仕打ちの方が正直憎かったりする」


 俺の言葉にミユサは頷く。


「……おそらくは、あの人がかけた呪いはきっかけに過ぎないです。付け焼き刃でできるような簡単な呪いじゃなかったですし。だから旦那様の呪いを強化した張本人が、別にいるです」

「ならそいつの方はしっかりとっちめないとな」


 俺がそう言って笑うと、ミユサも笑みを浮かべた。


「はい。協力しますです。ちなみにさっきの人は、呪い返しの効果でしばらく不幸は続きますですよ」

「そりゃいいや。……ああ、でもやっぱり一発殴っておけば良かったな。呪いはともかく、シーブルムに言われた嫌みは100倍ぐらいにしておけば良かった」


 俺が冗談めかしてそう言うと、ミユサはクスクスと笑った。


「今から戻るです?」

「……それはかっこ悪いだろ」


 俺の言葉に、ミユサは「ふふー」と楽しそうな笑顔を見せる。


「旦那様は、とってもカッコイイですね」

「……いや、カッコ良くはないんだよ。カッコ良くないから、こうしてカッコつけてるんだ。……ダサいだろ?」

「そうやってかっこつけてるのが、最高にカッコイイんですよ」


 俺の腕を取って抱きつくように歩くミユサ。

 俺はなんだか恥ずかしくなって、彼女から視線を逸らした。


 俺は「こんな姿で歩いてたら目立つだろうな」と思いつつも、何も言えずそのまま放っておくことにするのだった。

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