25 防げパーティ崩壊
俺は『追放』の力により、魔法生物であるスライムから水分を追放した。
それによってスライムから噴水のように水が放出されていく。
――やった!
そしてスライムは形を失うように崩れていった。
だが俺の体は替わらずスライムの中に沈み込んでいく。
……やばい。成功した後の事までは考えていなかった。
息ができず俺は慌てて口を押さえるが、リュッカに投げ飛ばされたときにあらかた空気は吐き出してしまっていた。
――くそ……! ここで死ぬのか……!
そう思った瞬間、スライムの外からこもったような声が聞こえた気がした。
「――旦那様っ!!」
――ミユサっ!?
見れば、ミユサがスライムの中にその身を飛び込ませ、こちらに向かって来ていた。
どうして――!
俺がそう思う間もなく、彼女は俺のいる場所まで泳いでくる。
俺は腕を伸ばして彼女を捕まえた。
ミユサはこちらをまっすぐに見つめる。
そしてその口を俺に押し付けた。
――!!
頭の中が真っ白になる。
同時にミユサの口から空気が流れ込んできた。
ミユサは目を閉じ、少しずつ空気を注入してくる。
俺はその空気を漏らさぬよう、ミユサを抱きしめた。
そうしてスライムの中の人工呼吸は、数十秒の間続いたのだった。
* * *
辺り一帯に、元はスライムだった真水の雨が降る。
数分の後、海に放り出された俺とミユサは救出された。
……ついでにシーブルムも運良く助かったようで、甲板に寝かせられている。
船長の話によれば船は落ち着きを取り戻し、元通りの進路で港街へと向かっているらしい。
俺とミユサは海水でびっしょり濡れた服のまま、乾燥がてらマストに背を預けていた。
幸い海の天気は雲一つなく、お日様が照っている。
潮風が涼しく感じるぐらいには暖かい日だった。
「――ミユサ」
「――あの」
俺とミユサは同時に口を開いて、そして閉じる。
沈黙が流れた。
ミユサが何も言わなくなったので、俺が先に口を開く。
「……さっきはなんであんなムチャを」
「ムチャは旦那様の方です。あんな大きなスライムに飛び込むなんて」
頬を膨らませるミユサに、俺は視線を逸らした。
「……ごめん。でもミユサも人のこと言えないと思うが」
「旦那様は弱いですし」
「なんも言えねぇ」
一応、「もしかしたら魔法生物のスライムなら体内から水を『追放』できるんじゃね?」という勝算があって飛び込んだのだが、落ちこぼれの錬金術師である俺がやるにしては分が悪い賭けだったようにも思う。
ミユサに比べて俺は弱い。
……しかし。
「……だけどミユサだって、べつに体力あるってわけじゃないだろ。お前の体力の無さ、ギルドで見たぞ。歩くだけで力尽きるぐらいだった」
「ぎく」
「飛び込むだけならリュッカやエルンに任せた方が良かっただろ」
「……それはそうですけど」
ミユサは口を尖らせた。
……いや、違う。
俺が言いたいのはこんなことじゃないんだ。
俺は深呼吸して、ミユサから視線を逸らす。
「……でもミユサ。その……ありがとう。助かったよ」
「……旦那様」
「すごく嬉しかった。……俺なんかの為に助けに来てくれたのが」
「当然のことです」
ミユサはそう言って笑った。
……リュッカもエルンも、そしてミユサも。
みんな俺を助けてくれる。
だから俺も、彼女たちを助けたいと思った。
「――俺はお前らと出会えて本当に良かった」
教えられた気がする。
本当の『仲間』という存在を――。
俺の言葉に、ミユサは頷く。
「……今のはプロポーズですね!?」
「なんでそうなるの!? ちゃんとお前『ら』って言ったろ! 『ら』って! 複数形だ!」
「そんな……! わたしの唇まで奪っておいて、用済みになったら捨てるなんて……!」
「どっちかというと奪われたの俺じゃない!? それに……いや、その……うん……」
俺はさきほどのミユサの唇の柔らかな感触を思い出してしまう。
自分でも顔が赤くなっていくのがわかった。
ぐおお……!
あれが俺の、女の子と初めての……。
「――うおおお! 邪念退散!」
「旦那様!?」
俺は船のマストに頭を打ち付ける。
「仲間だ……! ミユサは俺の大切な仲間……! そういう気持ちを抱いちゃいけない……! ダイジなナカマ……!」
「旦那様! 落ち着いて!? わたしが悪かったです! だから落ち着くのですー!!」
俺はそれからしばらく、額から血が出るまでマストに頭を打ち付けて気持ちを落ち着けた。
俺たちはパーティメンバー……!
誰がなんと言おうとパーティメンバーなんだ……!
☆ ☆ ☆
シン・ノクス
筋力 D
一般人ぐらい……じゃないか?
体力 D
普通……だろ。
器用 C
一般人よりは多少マシ……だと思うが。
魔力 E
魔法を使う才能はなかったんだよ……。
直感 B
嫌な予感に限って当たるんだよなぁ……。
追放 EX
……で、これって結局何ができるんだ?




