21 賭けの報酬
「グ……ハハ、ハ……」
リュッカの様子に呆気にとられていると、デルドアが笑いだした。
彼はその場に座ると、リュッカを見る。
「オレの、負けだ。殺せ」
デルドアがそう言うと、船長が顔をしかめる。
「バカ言ってんじゃねぇ。死にたいなら跳び降りろ。船を汚すんじゃねぇ」
「……だそうだ。すまん、な」
デルドアはそう言って立ち上がる。
そんなデルドアに俺は声をかけた。
「――待て!」
「……なんだ?」
デルドアは俺を見下ろす。
……こうして見られると、トロールの血筋怖っ!
だが怯えてるわけにもいかない。
「俺も命を賭けた。……ならお前の命の半分は俺の物だよな」
「そう、か?」
「そうなんだ。お前が死んだら、せっかくもらったお前の命がなくなっちまう。それは俺にとって損だ。だから一つ俺のお願いを聞いて欲しい。……いいよな」
俺はリュッカに目配せする。
リュッカは頷いてくれた。
「お前、冒険者歴は?」
「もう、三年ぐらい、やってる」
「なら十分だな……」
俺は頷く。
「デルドア、お前が知ってる新大陸で知っている情報を全部教えてくれ。それで俺の分はチャラでいい」
「……グアハハ、そんなことでいいなら、いくらでも、やろう」
笑うデルドアに、シーブルムが声をあげる。
「ま、待て待て待て! 俺たちのパーティがせっかく見つけた貴重なモンスターの群生地とかを教えるってんじゃないだろうな!」
慌てるシーブルムをデルドアは睨み付ける。
「……元は、お前が、しかけた勝負、だよな?」
「ひっ」
デルドアの剣幕に押されて、シーブルムが小さく声をあげた。
デルドアは言葉を続ける。
「お前の部屋、こいつらに渡す。いいな?」
「そ、それは……」
「いいな?」
「……はい」
シーブルムはデルドアに対してそう答えた。
それを見ていたリュッカが笑みを浮かべる。
「じゃあわたしの分は一つ貸しにしておくッス。……死んだら戦えなくなるッスからね」
「グァハハ、おもしろ。忘れない」
デルドアは笑う。
……こいつとは仲良くなれるかもしれないな。
頭を抱えるシーブルムを横目に、俺はそんなことを思うのだった。
* * *
「おお、これが一等客室か!」
俺たちが案内されたのは四人が入っても十分に広い船室だった。
窓が二つあり、外の様子も見られる。
「わたしは前のままでも良かったんですが」
そう言って口を尖らせるのはミユサだった。
俺はそれに苦笑する。
「四人固まって寝ることになってもいいのか?」
「……それはダメです。旦那様はわたしのものですし」
「じゃあこっちの部屋でいいな。何より暑苦しくない」
「そうですね。こっちでも一緒に寝る事はできますし」
「……四つベッドがあるんだから四人別々に寝ような!」
俺の言葉にミユサは鼻歌を歌い、聞こえてないフリをする。
……東方とは価値観が違うのだろうか。
俺がそう思いながら自分のベッドに腰掛けようとすると、そこにはなぜかエルンが座っていた。
「そこは俺のベッドなんだが」
「ボクがどこにいようと関係ないだろ」
「あるわ! ……まあどうしてもそこがいいならべつに交換してもいいが」
「そういうことじゃないだろ」
じゃあどういうことだよ。
俺がため息をつくと、彼女は仮面を外してこちらを見つめた。
「……さっきはなんであんなムチャなことをしたんだ。お前、弱いくせに」
「……それは」
俺は言葉をつまらせる。
そんな俺に助け船を出すように、リュッカが笑った。
「わたしのこと、助けてくれたんスよね」
「……いや俺が入っても別に助ける事にはならないだろ。ただその……」
上手く言えない。
だけど。
「……あそこでリュッカを見捨てたら、今まで俺を追放してきた奴らと同じだと思ったんだ。俺はお前らを見捨てない。ただそれだけだよ」
「……ふーん」
エルンはそう言って立ち上がる。
「バカだな、お前」
「……わかってるよ」
「でも、バカでもいいと思う」
そう言って彼女は自分のベッドに戻る。
……それってどういう――。
「旦那様かっこよかったですよ! 実はさっきのは二人で裏から見てて、何か不正でもしそうならエルンちゃんと飛び出そうと構えてたんです!」
「そ、そうなのか」
「はいです! もし旦那様が海に身を投げるような事があれば、この船ごと心中する気満々でしたです。いいですよね、心中」
「いや良くはないが」
一緒に死ぬことを良しとする文化は残念ながら俺にはわからない。
せめて周りを巻き込まないで欲しいもんだ。
俺はそう思いながらも、ベッドに腰掛けて一息つくのだった。
* * *
その頃のシーブルム。
「狭すぎるだろココ!!!!!」
☆ ☆ ☆
リュッカ・カロン
筋力 B(S)
本気出すとすごいッスよ!
体力 A
体力には自信あるッス!
器用 C
細かい作業はそこそこッスね~。
魔力 E
魔法はちょっと苦手ッスねぇ。
直感 A
本能っていうんスかね?
戦闘狂 S
……それじゃあ、全力で戦いますか!




