幽かに
幽霊のことを考えると、僕はいつも憂鬱な気持ちになる。なぜ、生きている者が死んだ者に精神も肉体も干渉されないとならないのか、それも幽霊となり心を現世に残し、失った肉体を生きている者に憑依することで得ようとする病んだ死人如きに……。
誤解して生き、誤解したまま死んで、死んでからまでも迷惑をばら撒く病原菌のような者達が僕は嫌いだ、だから殺菌するように、本当に死んで貰う。心も魂も跡形もなく消えるまで……。
想いを言葉にし、音も無く心に響かせていると、言葉が輪郭となり描かれた線が情景となって過去を心に象っていく……空は青く、雲は高いところに浮かんでいた。チャイムが鳴り響く。
歓声を上げながら下校していく子供達の中で、校舎を見上げている少女が何となく気になり、声をかけた。
「何を見ているの?」
少女は少し考えた後で、口を開いた。
「あそこに黒い塊が浮いているのが見える?」
指差した辺りを見つめたが僕には黒い塊というのが見えなかった。
「見えないけど、黒い塊って何なの?」
僕は本心から少女の言葉に心を動かされていた。少女は僕の想いに引かれるように笑みを浮かべ言葉を続けた。
「わからない、けど塊が浮いていると幽霊が出るから気になっただけ……」
霊が見えると言われて気持ちがさらに大きく動き傾いた。
「君は幽霊が見えるの?」
「たまに見る」
「何処で見たことあるの?」
少女は指さした。僕は指の先に視線を伸ばす。指されていたのは学校、校舎の二階の窓だった。
「学校で幽霊を見たことがあるの?」
「何度もあるよ、黒い塊が浮いていると幽霊が見ているから目が合うし……」
「どんな幽霊が見ているの?」
「若い女の人だと思う。悲しそうな淋しそうな気持ちで見ているから……」
少女は表情を曇らせ言葉を繋いだ。
「見えてもどうすることも出来ないから……」
辛そうな顔で俯き、霊感があるという少女は帰って行った。
黒い塊とは何だろう。霊の研究をして来たけど初めて聞いた。
黒い塊と幽霊の関係が気になる。僕は少女が指差した窓の辺りを見つめたが、何も見えなかった……不意に寒気がしたような気持ちになり自転車を止めた。後ろから視線を感じる。それも上の方から僕の背中を見つめている気がする、あの窓から誰かが見ている…僕は強い視線を感じたが振り向かなかった。
まだその時は来ていない。そう感じた僕は気づかない振りをして立ち上がると、ペダルを大きく踏み込んだ。




