厳格なる…
小屋の戸を引くと低い声がして、反射的に挨拶を返した。
小屋の中で、校長先生が子供達から隠れるように喫煙していた。
校長は僕の顔を見ると屈託ない顔でご苦労さんと笑った。はじめの頃の険悪な雰囲気が嘘のように休憩時間が重なる度にここで校長先生と色々なことを語り合う。
既に初老の校長はこれまで何度も校長を歴任し、退職してそれでも人材不足の為にまた校長先生をしていると言った。
先生は成るのも、辞めるのも難しいとは校長先生の弁だが、僕には先生を目指した方が良いと平気で言う。年齢的に無理だと分かりながら…
先日、話が熱くなり、国の未来を語り合って結果、学校の先生よりも政治家に成るしかないと話がまとまり、政治家になりなさいと言われたのだが、運命の兆しはまだ見えない。
病んだこの世界を救う方法は人の病みを治すことしかない。心の病みを治すには正しい心の操作と制御の技術が必要不可欠、それを僕は魔術と呼んでいるし、魔術を体能に応用したものを武術としても使う。あれほど険悪だった校長と打ち解けられたのは僕が武に長けていると明かしたからで、風を切る音を響かせる流れるような型の動きを見せると驚き、喜んで、それから色々と本音を話してくれるようになった。
笑顔で話し合えるようになり、少しずつ蓄えた知識を披露して校長を何度も驚かせている。
何を話そうかと見つめる校長先生に不意に聞いてみた。
「校長先生は幽霊を信じていますか」
校長は真剣な表情になり断言した。
「信じてない」
ここまで言われてこの話は終わりかと思った時、校長が言葉を続けた。
「信じてない。しかし、見たことはある」
「何処で見たんですか」
「この学校で」
「見間違いではないのですか」
「いや、何度も見ているから見間違いではない」
「どんな幽霊ですか」
「女の幽霊だ。おそらくは若い女だと思う」
「でも、幽霊を信じてないのですよね」
「信じてない。信じると恐いからな」
そう言うと校長先生は「またなっ」と笑って小屋から出て行った。
校長先生の体験談を聞いて霊が見えるという少女が話したことが事実だと確認出来たのだが、あの時あそこに居ると言われて指さされた場所はこれから自転車に跨って巡回する順路から見える場所だから、幽霊を信じないことにしようかと、悩んでしまう。




