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短編集『花まかせ』  作者: 花和郁
第四集
31/32

韻文集

あの角を曲がればきっとこの春も 舞い散る桜 振り返る君


木漏(こも)()(した)微笑(ほほえ)む白き花 名知らぬ(われ)に春を知らしむ


ぎらぎらの暑さも暗い雪の日も 思い出になる あなたがいれば


あなたからもらえたはずの一言を 胸に抱えて(われ)は踏み出す



せわしなく雪のとばりが君の背に 足跡すらも追わせぬように


限りなく降りつむ雪がきしませる 君()きし日に閉じた扉を


どつき合う芸の乾いた笑い消し あの笑み恋し 眠れぬ朝は


寂しさも不安止まらぬ醜さも 涙と共に消えるこの胸


屋根すらも越えて積もった雪と恋 桜の下に跡形(あとかた)もなく


広がりし部屋を見下ろす赤だるま 片目に泣きて やる金の星



千年樹(せんねんじゅ)揺らし降り立つ金龍(きんりゅう)の 紫翼(しよく)いたわる紅白の巫女(みこ)


戦国の田野(でんや)に影を(すべ)らせて 戦果武将に(ささ)大鷹(おおたか)


千人を呪い殺せる我が魔術 封じ惑わす あの無垢(むく)な笑み



()みかける 君のまなざし まっすぐで ふくらむ希望 (くだ)ける自信


あの人に向けるあなたの微笑みは まぶしすぎるの 影などなくて


好きなのは無邪気に笑う(ひと)だって いつもどきどき苦しいのにな


すれ違う 瞬間固く目を閉じて 無理に逆らう 君の引力



友達でいようと言ったその日から 目で追っている自分に気付く


あの人の 名を呼ぶ君に 胸どきり 違いは一字(いちじ) 差は無限大(むげんだい)


あの子さえ 君は()ったか 安堵(あんど)より 負けた(あせ)りと 勝てぬ不安と


力こぶ大きさ(ほこ)る君だけど 愛に(こた)える勇気はあるの?


「好きな人か……」浮かべた笑みがやさしくて (われ)でなきこと確実なれど



懸命(けんめい)に笑える話題探すより 冷たいこの手 包んでほしい


横顔や背中ばかりで 初めての 深い(ひとみ)に (おぼ)れてしまう


背伸びして白馬(はくば)に乗ろうとするけれど この手支える やさしさでいい


ウサギとか カニやワニとか 言うけれど 私の月に 浮かぶのは君



「何人目、俺は」だなんて 口で(ふた) あなたを最後にさせてほしいの


(ゆき)蹴立(けた)てマンモス狩りし熱き血よ 戻れ花束握るわが手に


喧嘩した翌朝(よくあさ)の手にさりげなく 初デートの日もらった指輪


彗星(すいせい)は 離れていても 太陽に つながれていて 戻っていくの


究極の選択 冷めた一煎目(いっせんめ) もしくは急須(きゅうす)の熱い二煎目



伝え聞く逸話(いつわ)を語るこの子らが あなたを過去の人にしていく


除夜の鐘 あいつが()ってもう五年 俺もと折る指 止めた手恋し


()いた絵を広げはにかむ孫を()づ 息子の時と違う言葉で


田と森と山に囲まれ十五年 峠の先に運命(さだめ)はありや



ダム崩しビルなぎ倒す怪獣より 傷を許す手 召喚(しょうかん)したい


巧妙に言い抜けられる舌よりも 受ける信頼 (こば)まぬ覚悟


誕生日 この日があってよかったね あなたのために 私のために


あの時は苦労したねと言い合える そんな未来になったらいいな




   連作短歌『初恋』


初恋は 新教室の窓のそば 春日(はるひ)あふれる 君と世界と


校庭の 桜の下で 立ち止まる その横顔は たった五歩先


おはようが ようやく言えた 五月(ごがつ)には 君の手はもう あの人のもの


選ぶのも 着るのも勇気がいる水着 君は堂々 目が離せない


お化け役 抱き付けたらと すそを踏み 引き起こす手が 秋の思い出


追いかける 熱い光でどこまでも 舞台の君を 輝かすため


クリスマス ウィンドウ越しに選んでも 渡せるわけない ペアのセーター


初詣 もしや会えると 期待して 大凶引いて 餅をやけ食い


バレンタイン 初挑戦の手作りを 一人で食べる 君は二人で


また同じ クラスと祈り 休み明け 君去るを知り 桜見上げる



人込みに 初恋の君 大人びて 桜のとばりに 歩みゆるめず


   (「初恋」企画参加作品)




ぬくもりを こぼして笑う 桜かな


一番の 初めては君 春の風


紅梅(こうばい)や ほのかに(とも)る 雨の庭


(うぐいす)は 声が変でも 愛される


うれしげに 春を振りまく 白き(ちょう)



風鈴に 団扇(うちわ)を止める 雲高し


街角(まちかど)の ()にこがねむし (おぼ)れけり


なけたかな アブラゼミなら 大声で


そんなにも この木が好きか カブトムシ


子へ届け 歌い虫狩る 夏燕(なつつばめ)



汗だくの 背と墓石(はかいし)に 秋の風


台風は屋根が私はこの腕が


ゆっくりな(われ)を追い抜け(かり)の群れ


地の熱よ 天に帰れと 虫時雨(むししぐれ)


白黒(しろくろ)の日々に(にじ)んだ山紅葉(やまもみじ)



ひざ掛けに犬とくるまる暖炉(だんろ)()


除夜の鐘 遠くに今年を 運び去る


雪だって だんだんとける ものだもの


節分や 鬼かばう吾子(あこ) (かた)く抱く


歩き()し道振り返る雪の朝




  包み込むものたちへ


ふるさとの高い山

自然とあごが引き上げられる

やがて静かに頭が下がる


行き着いた広い海

彼方の青へ吸い寄せられる

波に抱まれ満たされていく


果て見えぬ長い川

やさしい風がほっぺを()でる

よどんだものが流されていく


天覆う星や月

思い出がふと胸締め付ける

いつも見守る者がいたのだ


山よ、海よ

川よ、太陽よ

砂漠よ、森よ、田畑(たはた)よ、湖よ

 お前があるから、私でいられる

 お前に包まれ、私は生きている


寄り添っているあなた

そのぬくもりが教えてくれる

みんな何かを愛していると




  花の下で


ついに咲いた桜よ

(われ)は誓おう

必ずここに戻ってくると

あの大切な人に会いに

あの懐かしい景色を見に

あの思い出を語り合いに

あの約束を果たすために


総身(そうみ)燃やす桜よ

固く誓おう

再びここで春に会おうと

伝えなかったことを告げに

なしえなかったことをなしに

あの日の笑顔また浮かべに

共に涙をこぼすために


光散らす桜よ

永久(とわ)に誓おう

決して今を諦めないと

夢を持つのをやめはしない

絶望しても負けはしない

明日への歩み止めはしない

この花をまた(あお)ぐために

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