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短編集『花まかせ』  作者: 花和郁
第二集
20/32

笑話集 その二  ☆

「社長、また会議をすっぽかして麻雀(マージャン)? 好きだねえ」

「はい、相当いかれています」


「社長、今度は競馬だって?」

「はい、もういっちゃってます」


「社長、将棋を始めたんだって?」

「いつも小学生相手にやられています」


「社長、いつもあの人に勝負を挑むよね」

「勝ちたいみたいですけど、かなわないようです」


「社長、また美人秘書をデートに誘ってるぞ。諦めてなかったの?」

「いつもああいう言葉を笑顔でかわされています」


「社長、まだ料亭の女将(おかみ)を口説き落とせてないんだって?」

「彼女、何を言われてもにっこりと微笑んでいやがるんです」


「社長、こっぴどく振られたんだって?」

「ほら、泣き声が……、だんだんや(病)んできましたね」


「玄関にある奇妙な像は何だ。社長か?」

「宗教関係の知り合いができて、おかされているんです」


「うちの社長は慈善(じぜん)事業に熱心で、募金(ぼきん)を求められると社員は断れないんだ」

「えらいお人だねえ」


「この空になった酒瓶(さかびん)の山、社長が一人で? 大丈夫なのか」

「はい、先程()されました。今は安らかにお休みです」


「社長を眠らせたよ。いつもの方法でな」

「しなれているのですね」


「美男美女の社長夫妻、とても仲が良いですよね」

「いつも甘々べたべたな様子、見(魅)せられていますよ」


「忙しそうだね。ちゃんと休めているの?」

「週末はいつも、仕事、おわれます」


「あいつ、最近大きな仕事を成し遂げて自信を付けたらしいな」

「社長に気に入られて、かなり調子に乗っています」


「あの車、のろのろしてやがるからあおってやったぜ。愉快だろ」

「うん、とってもおかしいよね」


「昨日初めて夫と喧嘩(けんか)しまして。この結婚指輪、売りたいんです」

「そいつはいただけないね。仲直りしなよ」


「田んぼの土手(どて)(くず)れかかっていると聞いたけど、水位(すいい)(たも)たれているの?」

「もってるよ」


「あの人を公園に呼び出して交際を申し込もうと思うんだけど、雨が心配だ」

「やめておいたら。きっとふられるから」


「私が彼を好きだとどうして分かったの?」

「いつも目がいっているもの」


「珍しいヘビだって。肩に乗せてあげる。……顔が引きつってる?」

「いや、いやされているよ」


「この薬、かゆいここに()ればいいのよね?」

「お知りでしたか」


「デートなのに腹痛で行けなくなったの? で、誰と?」

「あのきれいな人だよ。あ、いてー」

(相手。あ、(いて)え。会いてえ)


「あのお客さん、たくさん酒瓶(さかびん)を並べてつっぷしていますね」

「ええ、弱いのにお好きで、よくのまれています」


「そのお酒、おいしい? まずい?」

「こたえられない味だねえ」


「あのお店のお饅頭(まんじゅう)、何度食べてもまた買いたくなるね」

「よい(あきな)い(()きない)をしているね」


「パン作りコンテストは、あんパンの老舗(しにせ)が優勝か」

「アイデアの奇抜(きばつ)さで勝負した職人たちは、こてん(古典)パンにやっつけられたね」


香辛料(こうしんりょう)たっぷりの料理だって。(から)い?」

「とってもスっパイっス」


「彼氏と海水浴に行く予定なの」

「いいなあ、やけちゃうね」


「ひっく、君は常識を知らんなあ。物事のことわりってやつを教えてやろうか」

「酔っぱらいは相手にしないものだ。それこそ、おことわりだよ」


「植物園、雨でも行くぞ。そういう日はまた違った(おもむき)があるからね」

「雨天けっこうだね」


「あの生徒会長、いつが一番かっこいいと思う?」

壇前(だんぜん)、全校生徒に語りかける時だね」


「あの噂、耳にしていないのは本人だけらしいよ」

「知らぬはほっとけい」


「あいつの屁理屈(へりくつ)には腹が立つね」

「まさに牽強付会(けんきょうふかい)(不快)だね」


「駐車場、車がごちゃごちゃに置かれていて動けないよ」

「しゃれつにならないひどい状態だね」


「あの横綱、かっこよかったね」

「うん、立派な押し出しだった」


「どうしてお(いわ)いの時に昆布を食べるの?」

「こんぶラッチュレーションという英語があるんだよ」


「わあ、お寿司(すし)だ。どれをくれるの?」

「いくら食べてもいいよ」


「説得は成功したんだね」

「社長が合意んに持っていったよ」


「小柄なあの子と付き合うことになったのか。大事にしてやりなよ」

「うん、とってもめでたい」


「こふき芋、上達の道は険しいぞ。修行あるのみ」

「まさに、いもふかしだね」


木枯(こが)らしに乗って目に砂が飛んでくるよ」

「もう、ふゆかいな」


「あの寿司屋の板前、俺の店に招こうとしたのに独立しやがった」

「のれんわけがあったんだね」


「サンタクロースだよ。大きなつづら、中くらいのつづら、小さなつづら、どれがいい?」

「えっ、一つを選ぶの?」

「そうだよ。三択ドースル?」


「サンタクロースだよ。煙突から、じゃじゃーん! あっ、かまどだった」

「サンタのローストだ」


「お正月、ご馳走(ちそう)を食べましたか?」

「もちだよ!」


「もう営業は終わりました。シャッターを下ろします」

「遅かったか。しまったあ!」


「あれ、手土産に持っていくはずの菓子折りは?」

「あっ、さっき子供のおやつにした。やっちゃったなあ」


「どっちが先に橋の向こうまで行けるか、競争したって?」

「互角に渡り合っていましたよ」


「これ、手を触れちゃいけないの?」

「ええ、さわりがあると困りますので」


「日が沈むのはそろそろかしら」

「もうちょっとくらいかな」


「このところてん、おいしいね」

「うん。ところでん、もう一杯頼んでいいかな?」


「あの熱心な裁判官、魚料理が好きなんだってね」

「うん、次々にさばいているよ」


「最近、ホットケーキが売れないねえ。不況(ふきょう)だからかねえ」

「お母さん、お小遣い増やしてくれない?」

「ほっと景気がよくなったらね」


「夕食はてんぷらだよ」

「本当に?」

「ほら、エビでんす」

(evidence 英語で「証拠・根拠」)


「ラッパが聞こえる。走って一丁買ってきて。絹ごしじゃない方だよ」

「分かってるよ。もう、めんどう! ふう……」


「この古書、外国語で読めないけれど絵が素敵だね。値段は?」

「それはうらない本だよ」


「おばさんのご飯、やっぱりおいしいです。おかわりがなくてよかったです」

「もっと作ろうか?」

「ダイエット中なんです」


「お代官様に越後屋が贈り物を持っていったって?」

「なんと小判だそうだよ」


「彼女の遅刻の理由、迷子の女の子を親のところへ連れていったからだってさ」

「彼女のそういうところ、スキですね」


「あのドライバー、しこたま飲んで他の車に嫌がらせをしたんだって」

「まさにあおり運転だね」


「かき氷にこんなに練乳をかけたの?」

「もっともっとって言うから」

「あなた、娘に甘すぎるわ」


「君の言った通り、日食があったよ」

「そら見たか」


「食後の片付け中に悲鳴が聞こえて床に血が!」

「さらわれたか!」


「あの立候補者、ロングコートを着ていたよ」

「街頭演説だからね」


「選挙結果は?」

「政権交代だよ。汚職の多発に国民が怒ったんだ」

「与党の退廃(たいはい)か」


「政治家に便宜(べんぎ)をはかってやったら、金一封(きんいっぷう)を渡されて税務署には内緒にしろと言われた」

「その金、裏がねーかー?」


賄賂(わいろ)を受け取ったのですか? 簡潔にお答えください」

「よろしい、問題の核心からおはなししましょう。このダムがようやく着工に至り、地元には大変感謝されております。そもそもの始まりは五十年前の洪水により……」

「見事に核心からはなしているね」


「五人に結婚を申し込んだですって! うそつき! 浮気者! 誰を選ぶのか答えてよ!」

「俺は誰に対しても本気なんだ。口説くために全力だっただけなんだよ」

「あれは全くこたえていないね」


「この貯金箱、底を開けると『よく頑張ったね。えらいえらい!』って大好きな声優さんの声でほめてくれるんだよ。毎日聞いているんだ」

「それはたまらないね」


「親が決めた相手と結婚しろって。あなたに稽古(けいこ)をつけるのはこれで最後。でも……」

「さらってほしいんだよね。そのつもりだ」


「君の兄さんに久しぶりに会いたいな。今はどこにいて何の仕事をしているの」

「実家に帰省中(寄生虫)よ」


「十月のページは菊の写真にしたんだね。可憐ダー。誰の庭のものなの?」

「彼ンダー」


「富士山が大好きで、毎年登りたくなるんだ」

「それはもう不治(ふじ)(やま)い(病)だね」


「いらないものの片付けは進んだかい?」

「さっぱりだよ」


「このたくさんの名画、どれが模写(もしゃ)なの?」

「全部だよ」

「そっくり、なんですね」


「かっこいい冗句(じょうく)を言おうか」

「おっ、しゃれー!」

(※洒落。おしゃれ。おっしゃるの命令形)


「望遠鏡は直ったの?」

「まだだけど、少し見通しは改善したよ」


「大きな鐘! ついていい?」

「それはなりません」


「昨日月まで行って、ウサギにニンジンをやってきたんだ」

「ほら話しはやめて。先生が来たよ」


「おばあちゃん、寒い。お腹空いた」

「台所に行って肉まんをお食べ。……あったかい?」

「うん」


「見て! 雪の中、池に大きな白い鳥がいるよ」

「あれは、は、は、ハックチョウ。彼等も寒いだろうねえ」


「その窓を開けて」

「えっ、どれ?」

「もう、まどろっこしいなあ」


「どこへ行くの? 外は嵐よ」

「あら、しらなかった」


「駅へ行くのはこの道?」

「その通りです」


「失礼な。尾瀬は沼地じゃないよ!」

「湿原でした」


「あの動物はカバではないよ」

「サイですか」


「温泉付きスポーツジムに就職したんだって?」

「毎日汗を流して働いているよ」


「あの湯上りの男性、浴衣の帯がほどけそうだよ。肩が半分ずり落ちてるし」

「しまらない格好だねえ」


「あなたの旦那さん、さっきお友達の女性と腕を組んで歩いていましたよ」

「大丈夫、そんなことは、おこらないから」


「足の手当ては終わった。車で送っていくよ」

「まだいたいの。今夜は泊まっていい?」


「あなたの彼氏、浮気相手とドライブ中に事故を起こしたんだって?」

「これからお見舞いしにいくの。あの馬鹿にね」


「思い切って相談したら、びっくり仰天の意外な作戦をあっさりと教えてくれたよ」

「彼は奇策な人だからね」


「海藻の生えた岩の上で歌って踊っているよ!」

「ノリに乗っているね」


「木製の洗面器が欲しいって言うから、作って持っていくついでに一泊してくるよ」

「木の(おけ)ない友人なんだね」


「いい気分だなあ」

「ああ、そうかい」


「俺、腹の真ん中でゴマを生産しているんだ」

「へえ、そう」


「もしもし。寝ては駄目ですよ」

「おや、すみません」


「エイエイ・オー! エイエイ・オー!  ……はあ、はあ」

「随分いき(意気)が上がっているね」


「猫が走って逃げている絵を描いたよ」

「口に魚をくわ(加)えたら、もっとよくなるよ」


「この肖像画、目の中に外の風景が映っている」

「本当だ。目がいいね」


「いい詩だね。誰かが曲を書いて歌にしていそう」

「うん。しらべは付いています」


「ぞくっとするほど美しいメロディーだね」

「この作曲家のあだ名は、戦慄(せんりつ)の魔術師だからね」


「あそこが王様のお住まいです」

「おおきゅうございますな」

「昨日食あたりで首相が亡くなりまして」

「ご愁傷様でございます」

「大臣の私も体調がよくないのです」

「お大事んになさって下さい」


「総理大臣閣下。汚職の疑惑(ぎわく)を新聞が(ほう)じておりますが」

「全て否定し、堂々としているぞ」

「いな(否)オールというわけですね」

「すぐに騒ぎも収まり、胃の痛みも治るだろう」

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