笑話集
「この絵、画家は誰ですか。ルノワール?」
「違うよ。シスレーだよ」
「こりゃまた、シスレーしました」
「そのセザンヌの絵、手放すんですか」
「借金の返済期限が迫っている。売却セザンヌを得ないんだ」
「それ、モローの複製画?」
「ああ、知り合いにモローたんだ」
「アングルの絵の模写に挑戦するぞ!」
「じゃあ、そばでトライアングルを演奏してあげる」
「画家ゴーギャンか。生意気そうだよね」
「どうして?」
「ゴーギャン(傲岸)不遜、なんちゃって」
「ゴッホの絵が盗まれたって?」
「美術館からゴッホり持っていかれたらしい」
「マネ様。他人の絵の模写がお上手ですね」
「まあねー」
「ミケランジェロ様、彫刻の新作ですか」
「秘密に作っておるのじゃ。まさか、勝手に布をめくって中をミケランジェロうな」
「ダ・ヴィンチ様。寒いですね」
「そうだな。ヴィンチょう炭の火鉢が欲しいのう」
「レンブラントさん、また徹夜で絵を描いていたんですか」
「借金があってね」
「ちゃんとねんむらんと体壊しますよ」
「クリムトの大きな絵、どうやって運ぼう」
「梱包材でくりむと傷付かないよ」
「きゃあ、ワーグナー様よ! こっち向いてー!」
「こら、あんまり騒ーぐなー」
「ハイドンのCD、どこにある?」
「ここよ。ハイドンぞ」
「モーツァルトのCDもあるの?」
「もーち、あるとも」
「ベートーヴェンの交響曲第五番には凍ったうどんを温めたのが合うんだよ」
「そうなの?」
「冷凍麺、うんめえ!」
「このピアノ、弾いてみたいの? みたくないの?」
「うーん、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第二十一番かな」
「『ワルトシュタイン』(割としたいん)だね」
「今度のフィギュア・スケートはシューベルトの曲なの?」
「彼の曲でシューベルト気持ちいいんだ」
「ロベルト、愛しています」
「クララ、ピアノの師匠の娘に手を出したら、ただではシューマンだろう。でも気持ちを抑えられない」
「あなたは作曲家、私はピアニスト。似合いの夫婦になりますわ」
「この古書、ショパンの伝記?」
「ああ、希少なショパン(初版)本だ」
「メンデルスゾーンが好きなあまり、彼の人形を買ったんだって?」
「うん、いつも一緒に寝てるの。今日もたっぷりめでるぞーん」
「フランツ・リストはドイツ語読みで、ハンガリー語ではリスト・フェレンツと言うんだよ」
「なるほど。それで女にもてたわけだ」
「どうして?」
「小動物っぽいだろ。リスとフェレット」
「あれが気難しいことで有名なブラームスさんだね」
「よく分かったね」
「いい天気なのに、ブラブラ散歩しながら、ムスっとした顔をしているからね」
「ブルックナーの交響曲はいいよね」
「ああ、聴いていると体がぶるっと来らー」
「スッペの『軽騎兵序曲』を聴くとお腹が空くよね」
「じゃあ、そろそろ飯にスッペ」
「またヨハン・シュトラウス一世の『ラデツキー行進曲』を聞いているの?」
「この曲、やみつき―になるよね」
「『美しく青きドナウ』をリクエストしました」
「ヨハン・シュトラウス二世のワルツは、夜半、そっと流すのが似合うわね」
「一曲踊っていただけますか、お嬢さん」
「部屋に入っていい?」
「音楽を聴き終わったらね」
「何の曲? もういいかい?」
「マーラーだよ」
「これは当分無理そうね」
「ヴァイオリンを習い始めたんだって?」
「うん。クライスラーの曲くらいスラーと弾けるようになりたい」
「ウェーバーの歌劇『魔弾の射手』の狩人の合唱は、すごくどきどきするね!」
「どうして?」
「この曲が好きなマダムの写真だ。今からデートなんだ!」
「プリン・ア・ラ・モードを食べながら、バロック音楽を聴く」
「あ、ラモーだ」
「最近バッハにはまっているんだって?」
「うん、彼の曲バッハり聴いているよ」
「ハレルヤ・コーラスで有名な『メサイヤ』を書いたのは、どこの国の人か知っていますか」
「ドイツ人のゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデルでしょう?」
「そうです。でも、イギリスに渡って帰化し、ジョージ・フレデリック・ハンデルと名乗ったんです。だから、イギリスの作曲家だと英国では思われています」
「ハンデルなんて、ヘンです! めっちゃいや!」
「テレマンの曲の演奏、よかったです」
「そんなにほめられるとテレマンすね」
「最初の演目はコレルリの『ラ・フォリア』だって。あっ、舞台に出てきた」
「これるり、演奏を始めます」
(※コレルリは「コレッリ」と書かれることも多いです)
「フォーレの音楽にはこのおひたしが合うね」
「何の野菜?」
「フォーレ演奏(ほうれん草)」
「サン=サーンスの『交響曲第三番オルガン付き』を聴きに行ったんだって?」
「さいざーんす」
「いい演奏だった?」
「大指揮者と名オルガニストの組み合わせだから、折り紙付きだよ」
「セザール・フランクのヴァイオリン・ソナタは名曲だ。あのような傑作を書いた作曲家は深んく尊敬セザールを得ない」
「そのダジャレ、さっきも聞いたよ」
「その点については、深んくお詫びセザールを得ない」
「しつこいよ!」
「『あなたが欲しい』か。エリック・サティのピアノ曲って独特だよね」
「エキセントリックさでー、際立っているね」
「でも、不思議な叙情性があるんだよね」
「ああ、あなた、のような才能、が欲しい」
(※エキセントリック=奇矯・ひどく風変り)
「チャイコフスキーの交響曲第六番『悲愴』、見事な演奏だったね」
「うん、いい曲だった。僕も作曲を始めてみようかな」
「チャイコフスキーに対抗する気ー?」
「ムソルグスキーの『展覧会の絵』か。このピアニストの演奏、何点くらい?」
「一万点だよ!」
「随分、点高いのね」
「曲も彼の演奏も、ムチャクチャ好きーだからね」
「これ、何という曲?」
「リムスキー=コルサコフの『シェエラザード』だよ」
「題名は知ーらざーれど、聞いたことはあるかも」
「リズムが好きーなんだよね。これさ、ここ!」
「一番よく聴く曲は何?」
「最近はアレンスキーのピアノ三重奏曲かな」
「私も、あれ、好きー!」
「このコーヒー、ちょっと濃すぎるわ。うん、『我が祖国』するわよ」
「なんだって? あっ、水でうスメタナ!」
(※チェコの作曲家スメタナの連作交響詩)
「この店、創業三百年か。ドヴォルザークの交響曲第九番『新世界より』だね」
「どういう意味?」
「老舗かい!」
「ニールセンの交響曲第四番はどんな曲?」
「不滅の名曲だ。きっと君も気にいるぜん!」
(※交響曲第四番『不滅』)
「音量を下げてくれない。『愛の挨拶』は好きな曲だけどうるさいわ」
「そっちの部屋まで聞こエルガー?」
(※イギリスの作曲エルガーの曲)
「いつもの組曲『惑星』、ホルストの名曲が聞こえないね」
「では、あの学生はほ留守と……」
「ジャン・シベリウスの曲が好きなの?」
「大好き! すごく北欧っぽいジャン。しびれます!」
「ハンガリーの民謡を採譜する夢を見たんだ。もしかして、僕はコダーイ・ゾルターンの生まれ変わりかも?」
「随分なコダーイ妄想だね」
「ヘイノ・カスキのピアノ曲の魅力をみんなに知ってもらいたい!」
「今度は彼女にCDを? 例の、貸す気?」
「ビートルズの四人が絵を描くそうです。どの色を選ぶかな?」
「じゃあ、ジョンは、レノン色のペンで行くジョン! オー、ノー!」
「ポールは真っ赤ートニーだな」
「リンゴは青リンゴ色にしまスター!」
「さて、ジョージは?」
「俺は描かない。常時持ち歩いてるシタールを演奏シタールぜ!」
「そんなこと言わずに、お前も書けよ」
「あ、ナニスンだよ! おい、ジョン、楽器を返せ! ヘルプ! プリーズ・プリーズ・ミー!」
「ほら、この色を使えよ。アイこそはすべてだぜ。大切なのはイマジンだ!」
「わしはドン・キホーテ。鈍器をー手に、戦うぞ。これは愛馬のロシナンテ。抵抗はよしなって」
「俺はサンチョう目のパン屋サ。彼の従者だ」
「あの二人、風車に向かっていったぞ。あっ、負けた。ドルシネーヤつだ」
「俺はダルタニャン。お前たちは誰だニャン?」
「俺たちは三銃士だ!」
「三十四? もういい年だな。おじさんだ」
「失礼なやつめ。成敗してくれる! ミレディー、ゴー!」
「むむっ、この剣術、こんスタンス、リシュ流の使い手か!」
(※コンスタンスはダルタニャンの恋人になる女性です)
「『三銃士』を書いたアレクサンドル・デュマの息子も、アレクサンドル・デュマという名前なんだって」
「そんなデュマかせを言うな」
(※本当です)
「デュマの息子の方は『椿姫』を書いたんだよね」
「アルマンという若者が椿姫というあだ名の高級娼婦マルグリットと恋仲になったんだけど、離れようとした彼女に怒って意地悪をするんだ」
「男にアルマンじき振る舞いね。椿姫のつらき悲鳴が聞こえるようだわ」
「でも、実体験にもとづいていたので大評判になって、作者は一躍有名になったんだよ」
「あれまあ」
「『谷間の百合』はどういう話?」
「バルザックり説明すると……」
「スタンダールの『赤と黒』を読んでみたんだーる」
「面白かった?」
「とっても。二度も読み返したんだーる」
「『ボヴァリー夫人』を読んでいるの?」
「ああ、フローベールの傑作だよ。さて、読み終わったし、寝る前に風呂ーへえるか」
「モーパッサンを読んでいるのか。面白い?」
「モー、パッサンり内容が分からない」
(※そんなことありません)
「『カルメン』のストーリーは重たい話なの?」
「いや、割とカルメンだ」
「『月曜物語』を読破したぞ。どうでえ!」
(※アルフォンス・ドーデ)
「『大いなる遺産』を卒論に選んだんだ。で、君に会いにきた」
「帰れ!」
「おおい、成井さん、怒らないでー。このディケンズ!」
「いけずって言ったつもり? 絶対協力しない!」
「大いなる誤算だった」
「『リア王』ってどんな話? 〈オセーロ〉よ」
「対人恐怖症の唐沢さんがリア充の中のリア充になって天下を取る話」
「すごいね」
「でも、目覚めたら〈夏の夜の夢〉で、〈冬物語〉に逆戻りさ」
「とんだ〈から騒ぎ〉だね」
「シェイクスピアって子供がいるんだね」
「そりゃそうだよ。『十二夜』(ジュニア)の作者じゃないか」
「『ロミオとジュリエット』の舞台、面白かったね」
「富夫と百合恵っちにお土産を買おうよ。カメオとジュエリーと」
「急がないと遅れるぞ。間に合わなかったら大変なことになる」
「そうね。仮死一つではすまないわね」
「アリス、不思議の国へ行ったんだって?」
「そうでありんす。変な薬を飲んで、変な人たちにたくさん会ったでありんす」
「花魁言葉を覚えるなんて、どんな国へ行ったんだ!」
「ウィリアム・サマセット・モームの『人間の絆』ってどう?」
「大傑作だ。読むと、人間、について多くのことに、気付くな」
「じゃあ、私も読んでミルドレット」
(※作中に登場する女性の名前です)
『緋文字』を読んだぞ」
「ほう、そんで、面白かった?」
(※ナサニエル・ホーソン)
「エドガー・アラン・ポーの伝記を読んだよ。エドガーは乱暴だったらしい」
(※うそです)
「好きな短編小説は何ですか」
「『最後の一葉』が大好きです」
「よいO・ヘンリー(お返事)ですね」
「カフカは読んだことあるかい?」
「大分前にね。内容をカフカに覚えている」
「プーシキンの『エヴゲーニイ・オネーギン』は読んだ?」
「うん。韻文小説らしいけど散文訳だった」
「どんな話か教えて下さい。オネーギンします」
「ゴーゴリの短編小説を探しています」
「一冊『外套』する本がありましたよ」
「昔はツルゲーネフの『初恋』の主人公のようにうぶで、女性に夢を見ていたよ」
「今は?」
「どんな女性でもバッチコーイさ」
「アンナ・カレーニナは、どうして恋に落ちてしまったのかしら」
「あんな彼―にな!」
「ロシア文学を片っ端から読んでやる! チェーホフなんて、なんのその!」
「それを言うなら『桜の園』でしょう」
「ドストエフスキーの『罪と罰』もあっという間に読破だ!」
「読み飛ばす、と」
「ツルゲーネフは、すーげーです!」
「死んでもいいわ、って感じ?」
「あっ、トルストイの本が濡れちゃった!」
「日陰に、つるすといい」
「シェヘラザード、今宵の相手はお前だ。明朝首をはねる」
「あらいやん、アラビアンナイトには、新たな日はないとおっしゃるのですね。では、千夜一夜の物語をお聞かせいたしましょう。トレビアンな夜にして差し上げますわ」
「推理小説を読もうと思うんだけど、エラリー・クイーンを読んだらいいのかな」
「アガサ・クリスティーを薦めるね」
「どうして?」
「クイーンはXYZだけど、クリスティーはミステリーのABCから始められるからさ」
(※『Xの悲劇』・『Yの悲劇』・『Zの悲劇』、『ABC殺人事件』)
「『アクロイド殺し』ってどういう話?」
「あくどい殺しの話だよ」
「『オリエント急行の殺人』ってどういうトリック?」
「耳を貸して……ごにょごにょごにょ」
「ありえんぞ急行の殺人だ!」
「四年生が卒業して、この学生寮も『そして誰もいなくなった』だな」
「でも、すぐに新入生が入るぞ。全国の離島や山奥から、紹介状を手に十人が集まってくる」
「そして誰もがいなかっぺだった」
「やっぱりエルキュール・ポワロは名探偵ですね。灰色の脳細胞は偉大です」
「そうとも、ヘイスティングズ。私は永久のポワロなのだ」
「ホームズ、事件は解決したな」
「ああ、ワトソン君、そろそろベーカー街へ帰るべえかー」
「事件の真相はこうだ! 読者諸君は分かったかな?」
「よしよし、よく解けましたね。エラリー、エラリー。ご褒美を上げましょう」
「頭を撫でないでよ! くいーん……」
「おい、大変だ! 激しい雨が降ってきたぞ」
「こんな時、ブラウン神父がいてくれたら」
「こうもり傘一本に三人で入る気か。童心に返って濡れて行こう!」
(※『ブラウン神父の童心』)
「セーラ・クルーの病状はどう?」
「小公女うたいよ」
「王様、明日の出陣はいつ頃ですか」
「アーサー」
「アイアイサー!」
「アレクサンダー大王様、あそこに木が」
「いや、あれ草―だー!」
「カエサルさま、そっ、それは女物の服ですぞ!」
「ただ、来た見た勝っただけだ」
「なにっ、カエサルがルビコン川を渡っただと!」
「はい、賽は投げられたと言ったとか」
「一線を越えてしまったか。やつはもはや元老院の敵だ!」
キケロの手から匙は投げられた。
「待ってクレ、オパトラ! アクティウムの海戦はまだ続いている!」
「アンソニー(あんたに)はもう勝ち目はないわ。エジプトへ帰るわよ」
「三国時代、蜀漢の皆様、好きな食べ物は何ですか。まず、伏龍と言われた諸葛亮様」
「こーめー(孔明)」
「では、鳳雛様は?」
「ほうとう(龐統)です」
「関羽様は?」
「うんちょう(雲長)、ねえ……、悩むなー」
「はい、はい、俺は酒だ! ぷはー、うめえ!」
「益徳、張飛にのるな!」
劉備が義弟の頭にごつんと玄徳を落とした。
「曹操様、勝利を願って音楽を捧げます。題して曹操行進曲」
「よし、赤壁の決戦で流そう!」
「魏の司馬懿は、年のせいで耳が遠く薬をぼとぼとこぼすふりをして、政敵曹爽を油断させたんだ」
「芝居が上手だったんだね」
「父上、諸葛亮は死にました。今こそ蜀の地を攻める時です」
「司馬師待て。やつらがもっと弱るまで」
「前秦の苻堅皇帝は淝水の戦いで東晋に大敗して、南北に分裂した中国を統一し損なったんだ」
「盛者必衰だね」
「女真族の王はヌルハチという名だそうです」
「ならば塗り箸でも贈るか。もしくは岩山を掘る道具とか」
「それはつるはし!」
「清軍が攻めてきました!」
「あれが皇帝ホンタイジの本隊じゃな」
「崇禎帝陛下は次々に重臣を処刑して、何をそんなに恐れておられるのか」
「この前は、満州こわいと言っていたよ」
「袁崇煥がまた清軍に大勝利、忠臣だと人気が高まっております。謀叛を起こされる前に処刑なさるべきかと。崇禎帝陛下」
「やつは有能すぎて、ええん、好うかんぞ! やつを捨うてえてえしまえ!」
「あの女神、また長湯して体を磨いているのよ」
「おーい、アフロディテ、早くアフロディテ(お風呂出て)よね」
「ポセイドンの石像はどこにあるの?」
「お聖堂ン!」
「この石像はどの神だ? あっ、ポロンと首が……」
「じゃあ、アポロンだね」
「この石像はハデス神かな」
「どこで分かるの?」
「歯です」
「ヘラクレスって、一言で表すとどんな神様っすか?」
「あらくれっす」
「アンドロメダとペルセウスの神話が大好きなんだよね」
「その本、読むの何度ろ目だ?」
「この手紙はアテネ様宛てね。あの女神様はどこに?」
「アテナイを去って、アテナイ旅に出ました」
「アルキメデス様。エウレカとはいい湯だなという意味ですか。というか、ギリシャ人は湯につかる習慣があったんですね。……えっ、何です、その冷たい表情は」
「呆れ目です」
(※エウレカ=発見した!)
「マリー・アントワネット様、どうか私たちに食べ物をお与え下さい」
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」
「ナニー、アンタワネ、そりゃあ、いいもの食べてるでしょうよ。でもね、あたしら庶民は……、こら、何するの、離して!」
「王妃様、大丈夫ですか」
「ナニー、ナントモネエッテ」
「ピョートル大帝陛下は、いつもあんなにお顔が赤いのですか」
「大抵は酔うとるよ」
中宮がやってきて、目の前で定子した。
「清少納言、そこで何をしているのですか」
「まくらのそうじです。って、本当は少しなごんでいるだけです」
「紫式部殿、執筆は順調かな」
「部屋が暗くて書きにくいです」
「では、光源を持ってこさせよう」
「藤原定家の本、安くなってるね」
「ほんとだ。定価が低下している」
「遣唐使の廃止を検討したのはなぜ? 菅原道真が健闘して意見通したんだろ?」
「ローマで剣闘士の反乱が起きたからかなあ」
「あの男は許せぬ。大っ嫌いだ!」
「平清盛の名前を聞いた俊寛、激怒したよ」
「頼朝様、裁判の判決はこれでよろしいですか」
「それでよりとも」
「頼朝公と結婚? 我が北条を危険にさらす気か!」
「止めて政子が聞きますか。野暮はよしとき(義時)」
「源頼政様、法皇様から院庁に来るようにとお使いが」
「なら、都に行くついでにヨリマサー」
「源義家様から伝令が」
「よし言え」
「再び東北の地で反乱だそうです」
「八幡太郎め、今頃はもう、戦が始まったろうな」
「平将門、関東で反乱!」
「まさか、どうすれば!」
「法皇様、平家の討滅が完了致しました」
「源九郎義経、ご苦労だった。さすがじゃのうと思ったゆえ、左衛門尉の官位をやろう」
「わしは弁慶、牛若丸とやらに決闘を申し込む」
「よかろう。で、競技種目は?」
「もちろん判官投げじゃ!」
「剣豪将軍様、お酒を一杯いかがですか」
「いや、鍛錬中は飲むのはよしてる(義輝)」
「あなたは徳川家康を尊敬していますか」
「イェヤス、アイ・ドゥー」
「大友宗麟、お主、キリシタンとなって寺社仏閣をかなり壊したな!」
「アイム・ソーリン」
「黒田如水、お前を牢に幽閉する!」
「かんべえ(官兵衛)して下さい」
「上杉謙信ってトラック野郎だったんだね」
「どうして?」
「名前、ケートラ(景虎)だろ?」
「かげとらだ!」
「山本勘助、そろそろ感付け、謙信の策に。啄木鳥の戦法は破れたぞ」
「武田信玄様、申し訳ございません。進言がはずれてプライドが傷付きました。この上は敵陣に斬り込んで討ち死にするのみ!」
「富士山の絵を描いた風鈴。甲州のお土産だよ」
「風林火山か」
「信長様は安土に巨城を作ったそうです」
「ならば、大阪にもっと大きな城を作れ!」
「太閤意識を燃やしているな」
「明智光秀、ここにいたか!」
「あけちゃ、いやよ」
「信長兄様、また美少女アニメですか」
「お市か。うふ(右府)、加工してギフ動画を作ったぞ」
「それを言うならジフ(gif)でしょう。本当に、オタなんだから」
「料理長、信長様が湯漬けの具を増やせと。体によくないのですが」
「う、つけもの、か、やはり」
「この財布、きっと織田有楽斎の遺品に違いない」
「どうして?」
「裏が臭い」
「信長様、浅井長政殿が当家を裏切り、朝倉家につきました!」
「おのれ! 決して背かぬ徳川殿に比べれば、あやつは所詮、あさいなかまさ」
「立花宗茂の小説を書いたんだ。読んでくれ。誾千代するな~」
「遠慮する。彼の岳父万歳に決まっているからな」
「立花道雪?」
「どうせつまんないだろ」
(※岳父=妻の父。誾千代は道雪の娘で宗茂の妻)
「道雪殿はどうなさっている」
「立花氏は廊下でご友人と立ち話をなさっています」
「すぐに座敷にお通しせよ。足がお悪いあの方が立ちっぱなしではわしの立場なしだ」
「長曾我部元親でございます。秀吉様、お初にお目にかかります」
「顔が見えん。もっとちかくに来い」
「毛利元就は毎朝昇る朝日を拝んでいたんだって」
「それが知謀のもとなり、なんてね」
「吉川元春と小早川隆景の兄弟が殴り合いをしたって」
「きっかわどうなった?」
「兄の隆元がやってきて、喧嘩両川敗になった」
「もっと、大福食べていい?」
「直虎様、だめですよ。子供は二つまでです」
「いいな、おとらは」
(※井伊直虎)
「三好長慶様、例の件、うまくはからっておきました」
「ああ、ちょうけえ」
「松永久秀様、あれで伝わっているのでしょうか」
「だんじょうぶだ。わしはとても信頼されておるからな」
(※松永弾正少弼久秀)
「島左近、打倒徳川の兵を挙げるぞ。準備を致せ」
「承知いたしました、石田三成様」
「時が来るまで、これは二人だけのひみつなり」
「母に誓って」
「鬼島左近、まさか、おにしマザコン、ではなかろうな」
「町奉行の遠山様、近頃ばくちが流行って風紀が乱れております」
「では、厳しくきんじろう!」
(※金四郎=きんしろう)
「大老様、帯がほどけそうです。結びましょうか」
「いい、なおすけん、自分でな」
(※井伊直弼)
「西郷、大久保、木戸。維新の三傑で誰が好き?」
「隆盛がさいごーだ!」
「長州と手を組むなど、おいどんは気が進まん!」
「この桂小五郎、薩摩が頭を下げるまで、承知するつもりはない!」
「龍馬さま、どうしますか」
「疲れた。もう海援隊へカイエリタイぜよ」
「薩長は幕府を倒すため、戦を始めるつもりだ。どうするか」
龍馬は船中で思案した。
「頭が疲れた時は果物だ。はっさくを食べるぜよ」
(※船中八策)
「勝海舟様。先程公方様にお渡しした書類に、あなたが昔書いた小説が挟まっていましたよ」
「あれは黒歴史なんだ! かっ、かいしゅうせよ!」
「『吾輩は猫である』はもう読んだ?」
「吾輩はまだである」
「レポートを書かないといけないのに?」
「この季節のせいだ。夏目、なぜ私を誘惑する! 海に行って、水に〈ぼっちゃん〉と飛び込みたい!」
「暑さが落ち着く〈彼岸過ぎまで〉、〈こゝろ〉、漱石にあらずね」
「このたくさんの本は何?」
「森鴎外の全集を大買いした」
「文学なんて森しちゃって」
「田山花袋の『布団』は読んだ?」
「中年男が、好きだった女弟子が去った後、部屋に入って布団のにおいを嗅いで泣くんだよ」
「ぶっ飛んだ話ですね」
「発表当時、恥の赤裸々な告白に人々はびっくりしたらしい。みんな、あたまかたいよね」
「武者小路実篤の住んだ家を博物館の中に移築するんだって」
「それは無茶な工事だね」
「志賀直哉の『小僧の神様』ってどういう内容ですか」
「しがない小僧を哀れんで、寿司をたらふく食わせてやる話だよ」
「『暗夜行路』は?」
「父と対立したしかたないやつが、エンヤコーラと苦労する話だ」
「神様、僕もお腹が空きました。そこの店、〈真鶴〉で獲れた魚を〈焚火〉で焼いているそうですよ」
「〈和解〉もんは食欲旺盛だな」
「『城崎にて』を読むと、温泉に入りたくなりますね」
「実は昨日先に行ってきた」
「太宰治って本当に『人間失格』な人だったの?」
「天才だけど、ださいおっさんだね」
「谷崎潤一郎の傑作と言えば何?」
「『春琴抄』かな」
「題名が難しそう。読もうかな、やめようかな」
「読んで、しゅっきりしょう」
「石器の槍か。どうやって戦ったんだろう」
「もちろん、せっきんしてずぶりさ」
「土器を運んでいるの?」
「そうよ。どきなさい!」
「あれは前方後円墳かそうでないのか、激しい口論になったんだって?」
「古墳の議論だけに、興奮して紛糾(墳丘)しちゃったんだね」
「あの人、京都にいつ来るの?」
「今日、到着するよ」
「あの女性、どこの出身?」
「名古屋のおなごや」
「彼、鳥取に帰るんだってね」
「家の跡っ取りだからな」
「あっ、札幌の実家に忘れ物した」
「あほっかい! どうすんの!」
「このお茶、何県の産?」
「福岡だよ」
「道理でふくおかな香りがするわけだ」
「三重県の実家から栗を送ってきたよ」
「じゃあ、いが(伊賀)栗だね」
「岩手県代表が全国優勝だ!」
「盛大にいわってやろうよ!」
「阿波踊りを見にきたよ。館山駅前で友達と待ち合わせなんだ」
「ここは安房。踊りは徳島だよ。……あっ、泡を食って走っていった」
(※阿波国にいた一族が移住したからという説があるそうです)
「早く大阪に行こうよ」
「そんなにせっつ(摂津)くな」
「岸和田の祭りに来たよ」
「いづ見(和泉)ても、にぎやかだね」
「香川に来たらうどんだね。もちろん具は油かすさ」
「讃岐だから、たぬきのうどんだね」
「鳥取にはスケートをする動物の伝説があるんだ」
「そうなの?」
「因幡ウワーの白兎さ」
「初詣に出かけるぞ。今年も行先は……」
「いづもの大社だね」
「山口県下関市、長門のフグは有名だね」
「全国に名が通っているよね」
「福岡はまだか」
「今は北九州だ。もうすぐちくぜん(着くぜ)!」
「文学賞の締め切りまであと三日。ナイアガラの滝だー!」
「どうしたの?」
「とてもできアガラナイ」




