第4話:剣士フーガの困惑
俺はA級冒険者パーティ英雄戦線の剣士のフーガだ。
一応地元の街にある剣術道場では、17で師範代にまで登りつめた。
その後、剣術修行の旅に出て、路銀を稼ぐために冒険者稼業を始めた。
それが19の時。
遅い登録であったが、地力があったおかげで昇進は割と簡単だったな。
それから、リチャードと出会い、アシュリーを仲間にしてパーティを組んだ。
その後、荷物持ちにミコを雇ったわけだ。
そして、何故かダンジョンの中層でリーダーがミコを解雇した。
というかパーティ登録してたから、除隊かな?
テンプレ追放という言葉が脳裏を過ったけど、ダンジョンでパーティメンバーを追放するような奴はいない。
いや、いるのかな?
いないよな……悪質なパーティなら、深部でポーターを殺そうとするやつもいたらしい。
そういう悪質なやつは、深部にたどり着くほどの実力を兼ね備えていないことの方が多い。
まあ、終わりが見えたら戦闘能力のないポーターが邪魔になることもあるのだろう。
置いて行けばいいが、ギルドに生きて戻って密告られたら大変なことになるしな。
しかしそんなとこまで着いていけるポーターが弱いはずも無く……失敗して結局は良い事にならないケースが多い。
まあ、それはそれとして……なんで、ここで?
まだ、先は長いよ?
そう思ったけど、アシュリーも賛同していたわけだし。
俺としてはどっちでも良かったけど、今じゃないと思ったよ。
食料も多めに渡して、魔物避けの香水の入った瓶も鞄に突っ込んでいたし。
ここに来る前に買った、ほぼ新品の寝袋も……ちなみに俺が買った。
自分用に。
まあ、良いけどさ。
一番年上だけど、一番力があるから荷物持ちは俺か。
そうか……
近接戦闘なら、俺が一番強いんだけど?
まあ、良いけどさ……
「なんで、急にミコをパーティから抜けさせたんだ?」
とりあえず、二人に改めて聞いてみる。
「私たちが、駄目になるからよ!」
よく分からない答えが返ってきた。
どういうことだ?
「だって、朝起きたら着替えが畳んでベッドの脇に置いてあるのよ? その日の気候に適したうえに、ファッションの流行に左右されない無難な組み合わせかつ、おしゃれなコーディネートで!」
良い事じゃないか?
服に悩まなくて済むわけだし。
「依頼を受けた時に、荷物の準備をしたことあるか?」
「ん? ミコが大体やってくれてたじゃん」
「ああ、そうだよ! ミコが袋に必要な物を入れて渡してくれて、返ったらそれを返すだけ……」
「楽でいいじゃん」
「常に必要なものが、自分の鞄から出てくるんだ」
「そりゃ、必要だから持って行くんだろ?」
「フーガ……お前、自分でそれ準備できるか? 今回だったら、何が必要か言えるか?」
「えっと、水とカンテラ? ロープと食糧?」
そのぐらいあれば、なんとかなるんじゃないか?
他は、薬くらいしか思いつかないが。
「途中で、沼地階層があっただろ? 靴を覆う革袋を用意したのはミコだ」
「ああ、あれは助かった」
「あと迷路階層用の目印になる、ヒカリゴケ」
「あると便利だよな」
「アシュリーの持病の薬に、俺の剣の手入れのセット」
「色々と、いるんだな」
「フーガの小腹が空いたとき用の、非常食」
「……」
「を含め、各種状況に対応したものを必ず鞄に入れてくれてたんだ」
まあ、確かに俺たちがやったら足りないものが、たくさん出そうだ。
忘れ物も……
「冒険の道具も揃えられない冒険者がいるか!」
「ま、まあ、やれば出来るんじゃないかな?」
「出来ないと思ったから、ミコを抜けさせたんだよ!」
「いや、だったら宿で言えよ!」
何も、ダンジョンに入ってから言わなくても。
宿で言えばよかったのに。
「本当は……ここで、見極めるつもりだったんだ。自分たちの能力を……」
「でも、もう無理だったのよ! このダンジョンを終えるまで、待てなかったの!」
どうした、アシュリー?
突然、叫びだして。
「その前に現実を思い知ったのよ!」
どういうことだ?
「私……私……とうとう、ミコに普通に素で、お母さんあれ取ってって……」
あー……それは、重症だな。
うん、依存しすぎてる自覚が出たのか。
「大丈夫、生きて帰れるようにミコに渡した荷物は、充実してるから」
「それ以前に、罠も魔物も全て回避できるだろうから、ミコは大丈夫」
俺たちは、あまり大丈夫じゃないけどな。
「それに、フーガも何回かミコに、おふくろって呼びかけてたし」
「えっ? マジで?」
「すぐに訂正してたけど、素だったんだ」
そうか……
いや、ミコってそういう雰囲気あるし……そうか。
「実は俺も……ママって呼び間違えたことが」
そうか……リチャードはママ呼びか。
ふふ……ミコは皆のお母さんだ。
二人の危機感がよく分かったけど……だったら、ずっと一緒にパーティを組んでたらいいだけの話じゃないのかなぁ。




