第2話:A級冒険者英雄戦線のリーダー、リチャード
「本当に良かったのか、リーダー?」
いま私たちの少し前を、さっきまでパーティを組んでいた人たちが歩いている。
先頭を歩いているのは、リーダーのリチャードさん。
金髪碧眼のキラキラとした美青年。
17歳とまだ若いけど、腕は確かだった。
ちょっと浮世離れしたところがあるけど、未来を夢見る若者。
装備は金属製のライトアーマーと、やったら高そうな剣。
実家の倉庫から持ってきたと言ってたから、きっといいとこのお坊ちゃんだと思う。
有名な冒険者の子供とか……
宝物庫を倉庫に言い換えていたから、貴族かも……
プライベートを詮索されるのを嫌がるから、詳しくは聞けてないけど。
「何がだ?」
「ああ、ミコを置いてきたことに決まってんだろう」
剣士のフーガさんが、後ろを振り返って親指でこっちを指し示している。
てか、これ見られる!
慌てて隠れようとしたけど、カナタさんが手を振ってそれを押しとどめてきた。
バレたらどうするんですか!
声も出せないから、睨むしかできない。
「大丈夫だって! 【完全存在遮断】と【音漏れ防止】のスキル発動させているからさ」
そう言って、わざわざフーガさんの目の前で手を振ったりしてるけど。
本当に見えていないみたい……ああ、この人はマジシャンなのかな?
魔術師じゃなくて、手品師の方の。
「知るか、あんなやつ!」
「うわっ、冷たいんなあ」
「良いんだよ! これで良かったんだよ……あいつのためにも……」
徐々に声が小さくなっていき、最後は呟くような自分に言い聞かせるように言うリチャードさんに首を傾げてしまった。
「どういうこと?」
カナタさんが不思議そうにこっちを見てきたけど、私が聞きたいのですが?
私のためというなら、このまま変わらずに仲間でいさせてくれたらよかったのに。
「俺たちの風向きが変わって、調子が上向いてきたのはあいつが入ってからだ」
「だから、いいのか? って聞いたんだが?」
リチャードさんの言葉を受けて、カナタさんだけは合点がいったような顔をしているけど。
私にも教えて欲しい。
「役不足って言ったでしょ?」
「アシュリーは、何か知ってるのか?」
「そりゃそうよ! あの子のことをリーダーに話したの、私だもん」
私が居ない間に、何か話し合いが行われていたのかな?
アシュリーさんが、私を追い出そうとしてたのか……
仲良くさせてもらってたと思ったのに、私の勘違いだったんだ。
悲しくなる。
「あの子のサポートを受けるだけの資格が、私たちにあるのかなって」
「どういうことだ?」
「私たちに、あの子のサポートは勿体ないってこと」
「意味分かんねーよ」
二人の会話を、リチャードさんが下唇を噛んで地面を睨みつけながら聞いている。
ごめん……私も、全然分かんないや。
「フーガってやつ以外は、ミコちゃんの価値に気付いてるのかな?」
「私の価値ってなんですか? ああ、見た目より力が強いとか?」
そう言って、クルリと回って背中を見せる。
背負った荷物をアピールしながら。
これ、80kgあるんですよーなんて言いながら。
ちょっと、可哀そうな子を見る視線を向けられてしまった。
解せぬ。
「俺は認めない……けど、試してみないとわからない」
「まったく、リーダーは素直じゃないねぇ。いいよ、ちょっと戦闘したらすぐに分かるから」
そう言って道の先に、チラリと視線を向けるアシュリーさん。
うん、私の気配探知の圏内にはとっくに入ってる。
職持ちゴブリンが3匹。
ナイトが2匹と、メイジが1匹。
楽勝でどうにかできる魔物だ。
アシュリーさんが緊張した様子で、黒いとんがり帽子を被りなおす。
それから、後ろに手を出す。
「ミコ、ロッドをちょうだい!」
「あっ、ごめん……俺が持ってる」
アシュリーさんの呼びかけに、フーガさんが申し訳なさそうに腰から杖を抜いて渡していた。
うん、アシュリーさん手が塞がってると、危ないからっ手ぶらなんだよね。
悪路とか杖があった方が安全かもしれないけど、地面をカンカン音を立てながら歩くなんて魔物を呼ぶだけだし。
なにより、ババ臭いって言って嫌がるんだよね。
まだ、23歳だもんね。
杖をつく歳じゃないもんね。
「あっ、ありがとう」
気まずそうにフーガさんから杖を受け取って、目の前に突き出して構える。
リチャードさんも、ご自慢の剣を抜いて構える。
「えっと……敵か?」
「じゃないと、杖を頂戴なんて言わないでしょ」
どうやら、フーガさんの方はまだ察知できていなかったのか。
結構抜けてる人なんだよね。
だから、色々と心配なんだけど。
腕は確かだから、戦闘になると凄く頼りになる。
「大丈夫だと思う?」
「勿論ですよ! A級冒険者パーティですよ?」
相手になるはずがない。
瞬殺だと、思ってた。
「魔法の発動が遅くないか?」
「普通は、こんなもんよ! ほら、そっちのナイトをお願い!」
「分かったよ! って、いつもより硬いぞ!」
「く、身体が重い……」
「リーダー、しゃがんで」
「チッ!」
あれ?
めちゃくちゃ、手こずってる。
フーガさんとリチャードさんが、それぞれ1匹ずつゴブリンナイトを受け持ってたけど。
すぐに倒すかと思いきや、拮抗してるし。
そうこうしてるうちに、メイジの放った火球がリチャードさんの肩を掠めていった。
アシュリーさんの指示がなければ、顔面に直撃していたかも。
「肩をやられた! ミコ、ポーショ……」
いや……私、あなたについさっき、クビにされたんだけど?
「チッ!」
なんで、リチャードさんが不機嫌になるんだ。
「ウケる! あいつ、自分でクビにしといて忘れてたのかな? てか、要らない子扱いしてるのに、めっちゃ頼ってるの笑える」
「あー……ああいった、雑用は私の仕事でしたから」
なにこの人。
何がおかしいのか分からないけど、めっちゃ手を叩いて地面を笑い転げてる。
ちょっと、馬鹿にしすぎじゃないかな?
クビになったパーティだけど、よく知りもしない人に笑われると何故か腹が立つ。
「どうにか、なったわね」
「もっと、早く撃てなかったのかよ! 結構、被弾しちまったじゃん」
それから少しして、アシュリーさんの放った氷弾で戦況が一変した。
ゴブリンメイジは、頭と胸を貫かれて即死だったし。
ナイトも盾で受けて腕を骨折したっぽく、その後の動きは精彩を欠いていた。
それでも、数合は打ち合っていた。
もしかして、特殊個体だったのかな?
「ないない、普通のゴブリンナイトとゴブリンメイジだったよー。マジ、あんなん見ただけで倒せるわ」
「カナタさんって、B級冒険者なんですよね? 職業はなんなんですか?」
「ん? 無職だよー」
無職って……さっき、隠密系の上位スキルというか特級クラスのスキルを、二つも使ってましたよね?
それで、無職って。
まだ、手品師とかって言ってくれた方が、納得できるのですが?
「じゃあ、手品師」
「さっきから、ちょいちょい私の思考に返事してますよね? あまりに自然すぎて、スルーしてましたが」
「じゃあ、メンタリスト」
「メンタリストってなんですか!」
よく分からない職業が出てきたけど、真面目に答える気が無い人に問いただすだけ無駄かな?
とりあえず、それで納得しておかないと……話が終わる気がしないし。
「ミコ、み……」
「はい、水な……すまんな、俺で」
リチャードさんが剣を振って血糊を落とすと、右手でそれを前に突き出しながら左手を差し出していた。
フーガさんが、水筒を渡していたけど。
「剣の手入れは、自分でな」
「おい、そのまま鞘にしまったら、ミコに叱られるぞ!」
「ミコは、もういないって」
リチャードさんの剣を押し返しつつ、自分の剣をそのまま鞘にしまっていた。
いや、ぱっと見で血糊は落ちたように見えるかもしれないけど、血脂が付いたまま鞘にしまわないで。
鞘も洗わないといけなくなるし、二度手間というか……大手間になるんだけど。
なぜか、何べん言ってもフーガさんは、たまに忘れてそのまま鞘にいれちゃうんだよね。
せめて、拭いてから入れてくれたらいいのに。
てか、そのための布を渡してるのに……
「鞘も内側が腐る原因になるって言ってたし、しっかりした方がいいと思うぞ」
「ああ、俺のはリーダーのと違って、数打ちの安物だからな」
「といっても、タダじゃないんだから、大事にしろよ」
リチャードさんは、しっかりと剣を布で拭いてから鞘に入れていた。
うん、リチャードさんの方は、鞘込みで一級品だからね。
血糊やら血脂が付いた状態で鞘に入れちゃうと、次使う時に抜けにくくもなるし。
その辺りは最初からしっかりしてたから、安心できた。
「こんなものか……」
リチャードさんが複雑そうな表情で、呟いていた。
「ざまぁ」
カナタさんが、楽しそうな表情で呟いていた。
「って、展開じゃないのか……」
とガッカリした表情で、付け加えながら。




