第1話:プロローグ~おかしな子供を拾った~
俺の名前はジュブナイル、これでも冒険者になって20年のベテランだ。
とはいえ、ランクはE級……
同期のなかじゃ下の方だが、それもしょうがない。
俺より弱い奴は、殆どが死んじまってるからな。
そして、いまマウントグランドの近くにあるビルドのダンジョンにて、その同期の仲間入り直前だ。
というのも、新人パーティのおもりとしてダンジョン3階層のコボルト退治に付き合ったんだが。
「ううう……すいません」
「いや、大丈夫だ……と思う」
このアホ治療師の姉ちゃん、チョコって言ったか? が転移の罠を踏みやがった。
なんの罠を踏んだか分からなかったが、確実に罠を踏んだであろうガコッっていう音が聞こえた為、助けようと手を掴んで引き寄せようとしたら、逆に俺が引き寄せられちまった。
まあ、しょうがない。
それが転移の罠ってもんだ。
そしてこの壁の色、天井の高さ……たぶんここは13階層~15階層のどこかだな。
前にC級パーティの荷物持ちで通った事があるから覚えている。
あの時は20階層にある、キミ草の採取に来たのだが真っ赤な壁が特徴的でよく覚えている。
ちなみにキミ草は卵の黄身の味がするらしい。
貴族のもの好きからたまに高額で依頼が入るが、わざわざ危険を冒してまでこんな草を食べなくても卵を食べろよと言いたくなった。
まあ、報酬が良かったからいいけどな。
全55階層からなるこのダンジョンから見れば入り口に近いが、この階層の推奨レベルは標準的な4人で25~30。
E級のトップからD級パーティ推奨ってやつだな。
一応経験だけは長いから、俺のレベルは33ある。
俺が4人居れば、油断さえしなければなんとかなるレベルだ。
だが……
「ここ、どこですかあ?」
このチョコって姉ちゃんのレベルは……なんと2しかない。
前衛職ならゴブリン相手でも一進一退レベルだ。
前衛職でだぞ?
こいつは、後衛職だからな。
戦力としては期待できない。
まあ、治療師だから俺が主に戦って怪我を治して貰えば、まあそれでも生存率10%以下だろうな。
余計な心配はさせるべきじゃなかろう。
「うん、分からんがまあ取りあえず下に降りていけば帰れるだろうから、精々魔物避けの祈祷をしっかりと唱えとくんだな」
「ううう……はい。本当にごめんなさい」
もういい、黙って歩け。
その間延びした声を聞くと、緊張感が薄れる。
いくら治療師が貴重だからって、ダンジョンに連れてくるなよ。
ちなみに、このダンジョンは山の中にあって上に登っていくタイプだ。
「っと、なにかの気配だな」
「えっ」
「ああ、騒ぐなよ。出来ればやり過ごしたい」
俺の言葉に顔を青ざめさせているが、叫ばないだけマシか。
いや、魔物に出くわしたら思いっきり叫びそうだが。
さて、この辺りだと吸血蝙蝠のヒルバット辺りなら……うん、群れでいるからチョコを守りながらは無理だ。
死ぬる。
毒芋虫のポイズンキャタピラーなら、こいつの解毒を頼りに毒を受けながら斬り飛ばしていけばなんとかなるか?
問題は……
「なあ、解毒の祈祷は使えるのか?」
「えっ、いやそこまではまだ使えません」
うん……死ねるな。
理想はただのキャタピラーか。
正面と後ろに立ったら糸を飛ばされるが、動きが緩慢だから横に回り込めば簡単に勝てるしな。
一匹なら。
といっても足音が聞こえてる時点でそれらの可能性は排除される。
精々良くて職持ちゴブリン、オークならまだしもオーガならきつい。
最高はまともな冒険者だな。
最悪は追剥紛いの冒険者だ。
蛇が出るか、鬼が出るか。
取りあえずチョコを置いて行っても背後から襲われそうだから、俺から離れないように指示を出して角から少し覗いてみる。
「あっ!」
「えっ?」
俺の視線の先にはいかにも貴族の坊っちゃんですって恰好をした子供が居た。
向こうも俺を見て、びっくりしたような顔をしている。
(急に気配が沸いて出たから気になってきてみたが、魔法職とは関係無い人っぽいな……まさか、転移が仕える戦士なんて居るわけないし……後ろの姉ちゃんは論外か)
「なんか言ったか? というか、坊主は一人か?」
「あー……うん、所謂迷子ってやつかな?」
妙に落ち着いた迷子が居たもんだ。
なんか、妙な事を口走ってた気がせんでもないし。
というか、これ以上お荷物が増えるのは勘弁だ……勘弁だけど放っておけるほど、人間やめてない。
絶対絶命だな。
「ああ、そっちは……えっ? もしかして……」
「違うぞ? 人さらいじゃないぞ?」
俺の後ろの怯えたチョコを見て、何やら勘違いしたような表情を浮かべている。
これはあれか、中年のおっさんと10代中頃の女の子の組み合わせからたぶん誤解している。
「お姉さん大丈夫?」
「えっ?」
いや、絶対誤解している。
「助けいる?」
「はい! でも、貴方が?」
「おい、余計な事を喋るな」
「やっぱり」
あれっ? これ言葉間違えたか?
明らかにチョコを口止めしたみたいになったぞ。
「ああ、おじさん。あっちに護衛の騎士がたくさん「嘘つけ! さっき、迷子って言ってたじゃねーか!」
あからさまな嘘を平気で吐く子供に思わず怒鳴りつけてしまった。
「ああ、叫ぶと本当に来ちゃうよ? 騎士じゃない何かがたくさん」
うるさい、黙れ。
俺も知ってる。
お前らのせいだ。
チョコもジト目でこっちを見るな。
誤解がさらに誤解を呼ぶ。
やめてくれ。
「じゃあ「じゃあってなんだ。あとチョコ! お前も誤解を招くような行動を取るな!」
「ジュブナイルさんが叫ぶから」
「あれ? 知り合い?」
ほっ……かなり疑わしい目を向けながらも、少し状況が好転しそうだ。
「さっき会ったばっかりですけどね」
「さっきつっても、昨日じゃねーか!」
「声」
このクソガキ!
見た感じ10歳過ぎたくらいの子供に注意されてカチンと来そうになったが、落ち着け俺。
今回は俺が悪い。
俺が悪いからこそ、子供に指摘されると余計に腹が立つ。
大人になれ。
っと、チョコも頼むから余計な事を言うな。
「まあ、おじさん悪い人じゃ無さそうだし、あんまり揶揄ってもあれだから取りあえず一緒に行く?」
「うん、良い根性してるな? というか、これ以上荷物が増えるのも困るが」
「うう……ジュブナイルさん、私の事やっぱりお荷物だと思ってたんですねえ」
うん、お前がお荷物じゃなかったらなんだっていうんだ?
大体、巻き込んだのもお前。
ここでの戦力外もお前。
これを荷物と言わずしてなんという。
「僕くらいなら軽いでしょ?」
「重さの問題じゃないんだがな」
「知ってるよハハハ。まあ、彼女よりは邪魔にならないかな?」
この子供の第一印象をはっきりと言おう。
気持ち悪い。
そもそも、ダンジョンの中に子供が一人っきり。
それなのに、この落ち着きよう。
有名な吸血鬼一族の子供と言われても納得できそうだ。
まあ、治療師のチョコが反応してないからそれは無いだろうが。
なんとなく、治療師としてもポンコツっぽいから信用も出来んな。
「失礼な事、考えてません?」
「その勘を、罠に対して働かせろ!」
「うう……」
チョコが妙に鋭い勘を働かせたが、使いどころが間違ってるぞ。
ダンジョン内の敵意や違和感に対して使ってくれ。
そうしたら、あんな初歩的なトラップ床なんて踏まずにすんだのに。
「ああ、転移の罠踏んで来たんだ。どうりで……」
「どうりでなんだ坊主?」
「別に?」
この子供は子供で、鋭いというか妙に達観しているというか。。
本当に子供かこいつ。
「ジュブナイルさんは、これから帰るところ?」
「ええ、なんでこの子ジュブナイルさんの名前を知ってるんですか!」
溜息が留まる事をしらない。
本当に疲れる。
「お前がさっき俺の事を呼んだからだろ!」
「はっ!」
なるほどみたいな顔してんじゃない。
「盗み聞きですか?」
『違う! 』
くっ、子供とハモッてしまった。
だが、たぶんここに10人以上人が居たとして9割は同じ突っ込みをしてしまうだろう。
「僕はカナタだよ、宜しくね」
「ああ、なんで宜しくしないといけないか分からんが、もういい……お前もついでに連れて帰ろう……帰れたら」
「そこは言い切って下さい! 私はチョコです、宜しくお願いします」
「ああ、お姉ちゃんは別に……」
「えっ?」
「いや、なんでも無いよ。宜しくね」
うん、坊主の判断は正しい。
正しいが、お前も対して変わらんだろう。
これが、俺と不思議な少年カナタとのファーストコンタクトだった。
今回はそこそこベテランのお話です。
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