第23話:ペルセウスと北風とバジリスク8~マザーそしてカナタブートキャンプ後編~
「はあ……はあ……」
「はい、次!」
「あんたは、鬼か!」
カナタに無理やりバジリスクと戦わされ始めてから、のべ2時間42分18秒。
「まだ、1時間32分11秒だよ?詳しい時間言っても、誤魔化されないよ?」
くっ……相変わらず細かいやつめ。
というか、まだ1時間半しか経っていないのに、立つのもやっとの状態でバジリスクと対峙している。
とでも言う訳無いだろ!
一時間半も戦える人なんて聞いたことないし!
目の前の個体の後ろにはあと7体とクイーンのみ。
ようやく終わりが見えてきた。
「立つのがやっとって、ちゃんとポーションで回復させてんじゃん?しかもリフレッシュの効果は、緑のにも青いのにも入ってるから体力は満タンでしょ?」
「うるさい!人は心も疲れるんだからね!」
「そんな不明瞭なこと言われてもねー……心が疲れたんなら気合でなんとかなるんじゃ「なるわけあるかー!」
カナタに怒鳴りつけたら、目の前のバジリスクもビクッてなってた。
ちょっと面白い。
まあ、後半は結構サクサクとやっつけてきたしね……何回か即死級の攻撃を喰らいながら。
「じゃあさ、心無くす?」
なんてことを思っていたら、すぐそばから急に底冷えのするような声が聞こえる。
そしてカナタがこちらを見てニヤニヤしている。
「はっ?ちょっと、その手に持ってるお面は?」
その手には、いつの間にか取り出された見た事の無いお面を持っている。
その顔は笑っているような、泣いているような、特徴らしきものが無い癖に妙に心をざわつかせる表情をしている。
「ここまでで大分やれるようになったんだけどなー?まあ、これ以上は精神的に無理ならさ……」
無理ならなんでしょうか?
ゆっくり近づいてくるのやめてもらえませんか?
やれるようになった自覚はあります。
10戦目くらいから、魔法2発まで打てるようになりました。
20戦目で魔法3発までいけるようになりました。
かなり魔力が上がってます。
後ろでカバチが寝始めたのを、バジリスクを見ながらでも感じられるようになりました。
30戦目で魔力のコントロールを覚えてから、10発くらい打てるようになりましたよ?
40戦目で、時間差はありますが世界でも100人使えるかどうかという二重詠唱も覚えましたが?
まだ足りませんか?
「そんな精神いらない―
「ヒッ!」
―よね?」
目の前のカナタがニヤリと笑ったかと思うと、背後から声が聞こえてきた。
そして、顔に妙にフィット感のある何かが張り付いてる。
そっと触るとスベスベしてて気持ちいい……そうじゃない。
「フフフフッ……ニクイ!ニクイワー!ワタシニコンナメニアワセルアナタガニクイ!ソシテソコノトカゲドモガニクイ!ニクイノヨーーー!」
ひいっ!
私じゃありません。
お面が勝手にしゃべりだしました。
「なにあのお面!」
クリスさんがドン引きした声で叫びます。
「コワイコワイコワイコワイ!」
テオラさんが、顔を覆って呟き始めます。
どれだけ酷いのでしょうか?
「あれ、絶対被っちゃいけないやつだよな?」
ジャンさん?
それを実際に付けられた人間の前で言うなんて、良い度胸してますね?
流石空気が読めない空気を纏っている方だけありますね。
「ギャーーー!」
バリィさん……流石にそれは酷いです。
「……」
アレク?何か言ってください。
「あれっ?僕、寝てた?」
はい、寝てましたよカバチさん?
「うん、良く似合っている」
顔全部覆ってるんだから、誰が被っても変わりませんよねカナタさん?
ああ、憎い……カナタが憎い……バジリスクが憎い……
「ということで、まとめてやっちゃって」
それはどっちに言ってるのでしょうか?
私に?
蜥蜴に?
バジリスクが一斉に駆け出してたのに、なんということでしょう……身体が動きません。
「【遍く大地に住まう聖霊よ!飲み込め!アースクエイク!】」
「なっ!二重完全詠唱?」
唐突に私の口から勝手に漏れ出た言葉に、テオラさんが驚愕の声をあげる。
顔を覆った手の指の隙間からチラッと見ながら……ヒドイ。
というか、これ言葉以外にいろいろ漏れてる気がする。
魂とか魂とか魂とか、あと魂とか。
「えっ?魂?大丈夫、そんな副作用は無いから」
うん、信用出来ない。
そして杖から真っ赤な炎の鞭が荒れ狂うようにバジリスクに襲い掛かる。
地面が激しく揺れ、地割れが起こり跳ぶことどころか立つことすらやっとの彼らに。
「ギャアアアアアー」
「グオオオオオオ!」
「ウギャァァァァァ!」
「ムギョォォォォ!」
「ギイイイイイ!」
「ビエエエエエ!」
「モギョーーーーー!」
「キャッ!イヤン!」
うん、みんな個性を出して断末魔の雄たけびを上げている。
だが、ムギョォとモギョーはどおかと思うよ?
あとクイーン?
キャッ!イヤン!ってなんだ?
貴女喋れるよね?
「凄い……」
「もしかして、北風で一番強いの彼女なんじゃないのか?」
「ああ……たったいま、そうなったかもしれませんね」
「あのお面、良いかも……」
「なあ、俺帰っても良い?」
「わあ、アリスかっこいい!お面が!」
アレクの言葉が気になるけど、私はバリイさんと一緒に帰りたいです。
あっ……魔力が……
――――――
「気が付いたか?」
「私……どうなったんだっけ?」
というのがこういった場合の普通の流れでしょう。
強敵を倒して魔力枯渇に陥った私を、誰かが抱きかかえて伺うようなやり取りをする。
まあ、この場合イケメン担当のクリスさんか、頼れる戦士のジャンさんあたり、まあ、アレクが譲歩ラインの最低限度でしょうね。
うん、普通はそうなるはずでした。
ところが、気を失う直前に青い液体をぶっかけられたため……
実際は。
「これで大丈夫!」
「グォラーーー!こんだけ頑張ったんだから、倒れさせて!休ませて!寝かせて!」
「ハハッ、もう終わったんだから帰ったら好きなだけ寝れるじゃん」
倒れる暇もなく回復しました。
でもね……それで魔力が回復しても心は回復しないんだよ?
知ってたカナタ?
てか、知って!
人の心を知って!
「フフ……キモチヨカッタ……」
バジリスクを消し炭にしたあと、仮面は勝手な事を言ってぽろっと落ちてしまいました。
「ああ、確かに消耗品だったけど、いくらなんでも早すぎだな。もうちょっと未練や魔力を込めた方が良いか……その辺は、要改良か」
改良しなくて良いから。
というか、拾わなくて良いから。
もう寝かせてあげて。
地面に落ちた仮面を拾い上げて、砂を払うカナタの手を必死に握って止めるがその手はスルリと抜けていった。
「クイーンを一撃……それも、他のバジリスクとまとめて……師匠って「呼ばないで!私の実力じゃないら!その仮面のせいだから!」
テオラさんが不穏な事を言っているのを必死で止める。
それと、仮面を物欲しそうな目で見ないで。
カナタの目が光ったから。
人間のはずなのに光ったから……
「今回は助けられてばっかりだったね。ありがとう」
うん、クリスさんの常識人っぷりに癒される。
もっと感謝して良いんですよ。
「なあ、カナタつったっけ?最初は嬢ちゃん……ていうのも失礼か。名前……」
「アリスだよ、ジャン」
「ああ、アリスちゃんに対して酷いなんて思ったけど、実際結界に閉じ込められてなかったら俺達足手纏いだったかもな。感謝するわ」
おいっ!
いくらなんでも、名前くらい覚えといてよ!
短いけど、名前を覚えるくらいのやり取りはしたじゃない。
それから、感謝するなら私にして!
「良いんだ……どうせ俺なんて、最初っから石にされて、他の人と絡むことも無かったし……ああ、帰ったらしばらくソロで……」
ほらあ!バリイさんがいじけちゃってるじゃん!
という事で、無事にバジリスク退治……じゃない、クリスさんの捜索を達成した私達は、対象者全員無傷で生還という最高条件でクエストを達成し街に戻った。
次でエピローグを乗せて第2章完です。
第3章はちょっと変わったターゲットが、カナタにロックオンされます。
大分間が空いてしまいましたが、少し時間の使い方を見直そうと思います。
具体的にこれ以外にも書きたいネタが多すぎて、忘れないようにメモ書きで書き溜めしているため、更新が滞った部分もあります。
ただそれ以上に、職場が壊滅的に人手不足で勤務が朝から深夜に及ぶ日が平均週3日で7~10月まで続くので通常勤務の時間だけだと、プライベートの用事との兼ね合いであまり時間が取れないという言い訳です。
新人入れたので、彼が仕事を覚えたらまた前のペースに戻る予定です。
彼の研修が10月2日に完了予定ですので、それまで少しずつ書き溜めておきます。




