フラれたその先で
今回のお話で完結となります。どうか最後までよろしくお願いします!
「天成―! 愛花ちゃん迎えに来てるわよー! 早くしなさーい!」
「分かってるよ、すぐに準備するからちょっと待って!」
今日は高校の卒業式、高校最後の登校日だ。
あっという間に過ぎ去った高校時代、その締めくくりとなる日に俺は少し寝坊してしまっていた。
「こんな大事な日に寝坊なんてね、妹として情けないよ~」
「おう可奈、お前学校は?」
「私の学校は登校昨日までだったの。今日から春休み」
「ああ、そうなのか」
急いで準備をしている俺に比べ、可奈はパジャマ姿のままのんびりとしていた。髪にはしっかりと寝癖が付いていて、普段はしっかり者の可奈もやっぱり俺の妹なんだなと思い安心した。
「悪い可奈、ネクタイ取ってくれ」
「はーい、ついでに私が結んで上げるよ」
そう言って、可奈は手際よくネクタイを結んでくれる。高校三年間ネクタイを着け続けた俺よりも可奈の方が上手く結ぶことが出来るのは少し落ち込むところではあるが、妹は良い奥さんになるだろうなという思いの方が強いのか、嬉しく思う気持ちの方が勝っていた。
「あ、そう言えばさ」
「ん? 何だ」
「お兄はいつ覚悟を決めるのかな? もう高校生活も最後でしょ?」
「ああ、その話か」
可奈は少し頬を膨らませながら怒っていることを主張してきた。
うん、分かってるよ。可奈が言いたいことは……
「今日だよ、今日。てか、それのこと考えすぎて昨日眠れなかったんだし」
そう伝えると、可奈はニコッと笑った。
「そっか、なら安心した。じゃあ、気合い入れなくちゃね」
「うぐっ……」
その言葉と共に、可奈はネクタイを思いっきり結び、俺の首はいっきに締め付けられた。
「おい、なにすんだよ」
「へへっ、私からのエールだよ。覚悟を決めたお兄への最大のエール。頑張ってね」
エールがこんな形で送られるとは。……本当に、俺の妹は可愛いやつだ。
「ありがとな可奈」
「うん、どういたしまして! じゃあお兄、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってきます」
笑顔で送り出してくれた可奈に俺は手を振って家を出る。すると、家の前で待ってくれていた愛花が少しムスッとして待っていた。
「おそーい」
「ごめんな愛花、少し寝坊しちゃってさ」
「こんな大切な日に寝坊なんて、天成もまだまだ子どもだね」
「ああ、そうかもな。卒業式のこと考えてたら中々寝付けなかったんだ」
本当は卒業式のことなど全く頭になく、別のことを考えていた訳だが、それを伝えるわけにはいかず、とりあえず納得してくれるようなことを伝えておく。
「そっかそっか、卒業式が楽しみだったんだ。まあ気持ちは分かるよ、私も高校生活で色々なことがあったし、楽しかったからね。その締めくくりの卒業式も良いものにしたいって思うよ」
「そうだな、終わりよければすべてよしなんて言葉があるくらいだ。最後は綺麗に気持ちいい終わり方にしたいよな」
「そうだね、ただでさえ最初が寝坊で始まってるし、スタートダッシュは失敗ぎみ。ここから挽回していかないとね」
「せっかく迎えに来てくれたのにお待たせしてすいませんでした」
「ふふっ、少しいじわるしてみたの。ちゃんと反省してね」
二人で横並びになり、学校へと向かう。その間、俺は寝坊のことで愛花にずっとからかわれ続けることとなった。
◇◇◇◇
教室に着くと、真司、舞、朱乃はもうすでに教室にいた。
「おう、来たな天成、愛花」
「おはよー天成くん、愛花ちゃん」
「少し遅かったね二人とも、もしかして二人で寄り道でもしていたのかな?」
「おはようみんな。ていうか朱乃、卒業式前に寄り道なんかするわけないだろ」
「そうそう、天成が朝寝坊しただけだよ」
愛花が正直に遅れた理由を伝えると、三人ともぷぷっと笑った。いや、正確に言えば舞はクスリと笑っただけで、ぷぷっと笑ったのは真司と朱乃の二人だが……
それから少しみんなで話したあと、愛花は同じテニス部だったクラスメイトのところに行った。
そして、俺と真司と舞、それから朱乃の4人になった。
「おおかた、緊張して眠れなかったってとこだろ?」
真司がそう聞いてくる。
「まあそんなところだ」
「気持ちは分かるよ天成くん。クラス委員長にして生徒会長、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた私でも、やはり卒業式というのは緊張するものだ」
3年間クラス委員長を務め、2年からは生徒会長も兼任していた朱乃は、いつもの自信たっぷりな様子でそう言った。
「いや、お前からは緊張とか全く感じないんだが」
「いやいや、そんなことはないとも。人間誰でも大事な場面では緊張するものだよ。どれだけ凄い人間だとしてもね」
「まあ、そうかもな」
「だから君が緊張するのは当然のことだ。その上で言わせてもらおう。頑張りたまえよ天成。君になら出来る」
朱乃がそう言うと、今度は真司が俺の肩に手を置き、
「俺からも頑張れって言っておくぜ。男を見せろよ天成」
そして……最後に舞が、
「天成くん、私まだ諦めてないから。彼女がいる人を好きになっちゃいけないなんて法律はないし、違う大学に行く愛花よりも私の方がアピールチャンスはいっぱいある。まだ全然負けた何て思ってないから。……でも、今日だけは愛花ちゃんに譲るから。だから頑張って」
「ああ、ありがとうみんな」
みんなからの応援を受け、俺は気合いを入れ直した。
それからしばらくして、卒業式が開始される。これまでの高校生活を振り返りながら式は進んでいき、そして高校の全ての行事が終了した。
◇◇◇◇
「どうしたの天成、みんなもう打ち上げに行っちゃったよ」
卒業式が終わった後、俺は愛花を呼び出した。呼び出した場所はあの時愛花に告白した場所、そこで俺はもう一度告白することを決めていた。
「ああ、すぐに終わるからそれから打ち上げに向かおう」
徐々に早くなる鼓動を抑えながら出来るだけ平静を装う。
愛花はまだ自分が呼び出された理由に気付いていないのか、いつも通りの愛花だった。
「卒業式、終わっちゃったね。なんだか少し寂しい気分になっちゃった」
「ああ、そうだな」
「大学はみんなと違うところだし、もっとみんなと高校生したかったな」
そう、進路はみんなそれぞれ別の道を選んだ。愛花は推薦で東京の有名私大に、真司は自動車関係の専門学校に、朱乃にいたっては日本一の難関大学に進学する。
そして、俺と舞は地元の国立大学への進学を決めた。
「自分の将来を考えて選んだ結果だからな、仕方ない」
「そうだね、離れていても友達なのは変わらない。一緒に過ごした時間が消えることはないもんね」
愛花の言うとおり、人と人の繋がりが消えることはない。例え離れてしまっても、一緒に過ごした時間が、お互いを想う心がある限り。
だからこそ、俺は告白しようと決めたんだ。
「天成も私がいないからって、大学サボったりしないで……」
「愛花」
「……うん? どうしたの?」
「俺はお前が好きだ」
「っ……」
不意を突かれたように愛花は驚いた表情を見せた。
「ずっとお前が好きなんだ、いつからかも分からないくらいずっと昔から変わらず愛花のことが好きなんだよ」
「……何で今になって言うの。もう高校生活も終わりだよ、春から私は東京。天成とは離ればなれになっちゃうんだよ」
「ああ、分かってる。でも、お前だって言っていたじゃないか。離れていても変わらないって。俺だってそう思う。真司に舞に朱乃、みんな大切な友達だ。どれだけ離れていても大切な友達だ。そして、愛花のこともどれだけ離れていたって好きって気持ちがなくなることはない。きっと好きでい続ける。お前が不安になるって言うならいつでも会いに行く、何度でも告白するよ」
「そんなの私だって同じに決まってるよ。私だって天成のこと、ずっと好きだったんだよ。天成よりももっともっとずーっと好きだった。でも、きっといつか負担になるよ、今はよくても天成が私の存在を煩わしく思うときが来るかも知れない。そう考えると、今のまま、昔みたいに大切な友達でいた方が良いんじゃないかって」
愛花の言うことも分かる。恋人同士になったらどうやったって関係は変わる。関係を変えることは必ずしも良い方向に変わるとは限らない。今よりも悪い方向に変わってしまう事だって当然あるのだ。でも、それでも俺は……
「お前がどう思おうが俺は言い続ける。俺が愛花を負担に思う事なんてない。愛花を煩わしく思うことなんてない。ずっと愛花を好きでい続ける。全部未来のことだから何一つ確定はしていないけど、それでも断言する。絶対に愛花を好きでい続ける。約束するよ」
俺の精一杯の告白、それを聞いた愛花は肩をふるわせ、顔を両手で押さえながら、答えてくれた。
「……ずるいよ天成。そんなこと言われたら、断る事なんて出来ないよ」
愛花の声は震えていた。きっと様々な感情が愛花の中で渦巻いているんだろう。そして、今にも泣き出してしまいそうなのを必死に抑えながら、答えてくれている。
「私も天成が好き。ずっと好きでした」
ずっと聞きたかった答え。それを聞いた瞬間、俺はたまらず愛花を抱きしめてしまった。
急に抱きしめられて、驚く愛花。しかし、しばらくすると愛花からもぎゅっと抱きついてきた。
「俺と、付き合ってくれますか?」
「もちろん。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
至近距離でお互いの気持ちを伝え合う。涙を流す愛花につられたのか、俺も涙を浮かべていた。そして、そのまま涙が流れていく。
「ふふっ、お互い天成も泣き虫だね」
「ははっ、お前ほどじゃないけどな」
愛花は俺のまぶたに浮かんだ涙を拭ってくれた。その時にさらに近づいた愛花の顔、愛花の唇に自然と視線が惹き付けられた。
「うん、いいよ」
それに気付いた愛花は、すっと目を瞑った。そして、そのまま俺も目を瞑り、初めてキスをした。
「へへっ、キス……しちゃったね」
「……下手じゃなかったか?」
「そんなの分かんないよ。初めてだったんだから」
「そ、そうだよな」
「まあ、下手でもいいじゃない。これから上手くなるように練習していけばいいんだから。ね?」
「それは……えと、よろしく頼む」
「うん、あっ……でも、早く上手くなりたいからって浮気とかしちゃダメだからね。もし、しちゃったときは、そうだなぁ……」
そのまま、少し考え込む愛花。そのときの表情は今まで見たことの無い新しい愛花の表情だった。
「いや、しないから。そんな怖い顔しないでくれよ」
自分の知らない一面を見せてくれた嬉しさと、怖さを感じながらそう伝える。
「えっ、私怖い顔なんてしてたかな……? そんなつもりは無かったんだけど……でもそうだね、もし浮気なんてしたら覚悟しておいて欲しいかな」
どうやら無自覚なようだった。浮気などするつもりは無いが、そのときは命が無くなることになると肝に銘じておこう。
「絶対にしないから。だから安心してくれ」
「うん、もちろん信じてるよ」
「大好きだよ、愛花」
「うん、私も大好き!」
愛花はニコッと笑い、もう一度俺の胸に飛び込んできた。
俺も愛花を抱きしめながら、今感じている幸せが一生続いていくのだとそう強く確信した。
ご愛読いただきありがとうございました。
途中長期間投稿が止まったり、最後駆け足になってしまったり、読者の皆様には大変ご迷惑をおかけいたしました。
この作品を最後まで読んでいただけたこと、ブックマークや評価、感想をいただけたことなど読者の皆様には感謝しかありません。
ありがとうございました!




