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答え

「鈍感な佐伯くんが私の気持ちに気付いてくれるなんて思わなかったよ。もしかして一鈴さんと仲直りしたからなのかな? ……さすが一鈴さんだね。やっぱり幼馴染みは強いなあ」


「華城は、いつから俺のことを」


「いつから……いつからかなあ。忘れちゃったよ」


「忘れたって、お前」


「それくらい昔から好きだったんだよ」


「昔って、お前と会ったのは高校からだろ。……もしかして違うのか?」


「うん、違うよ。最初に会ったのは小学生の頃、君がみんなから避けられていた頃かな」


 俺が暴力事件を起こしたことを華城は知ってた。それはつまり本当に小学生の時にあっていたということだ。


「まあ佐伯くんが知らないのも無理ないけどね。私と佐伯くん、同じ学校に通ったことは無いし、接点無かったから。私が一方的に知っていただけ」


「でも、お前は助けてもらったって言っていたじゃないか。助けたってのは小学生の時、俺はお前に何かしたんじゃないのか?」


 華城はその初恋の人に助けられたと言っていた。だが、俺にはそんなことをした覚えはない。


「それも私が一方的に助けてもらっただけだから、佐伯くんが知らないのも仕方ないよ。君が起こした暴力事件、君は一鈴さんを助けるためにやったんだよね。でも、あれで助けたもらったのは一鈴さんだけじゃなかった。それだけの話だよ」


 あの時俺は愛花を助けるために、愛花をいじめていた女子のリーダーを殴り飛ばした。そして、いじめはなくなった。


 俺がそうしたのは全部愛花のため。だが、それが俺の知らない所で華城のことを助けていたということか。


「君が綾乃ちゃんを殴り飛ばした時から、私は自由になることが出来た。いや……自由にはなってないかも。だって、綾乃ちゃんの代わりに今度は佐伯くんが私の心を埋め尽くしちゃったんだから」


 あの女子のリーダーは俺が思っていた以上に嫌な奴だったらしい。愛花だけでなく、華城のこともいじめていたようだ。


「でも、佐伯くんには一鈴さんがいるってことは知っていたから。だから私は想いに蓋をすることにしたの。叶わないって分かった上でアタックするのは私には難しかったから」


「中学時代も違う学校だったし、そんなに苦には思わなかった。多分、その時は恋って言うより感謝の感情の方が強かったからだと思う。けど、高校生になって、同じクラスになった時から少しずつ感情が逆転していった。それでも佐伯くんには、一鈴さんがいることは知っていたから。だから私はまだ自分を抑えることができていた」


 これまでを振り返り、そう語る華城。俺はそれを静かに聞くことしか出来なかった。


「そんな時、私が自分を抑えることが出来なくなる出来事が起きた。そう、佐伯くんが私を助けてくれたこと、そして、一鈴さんにフラれたって聞いたこと」


 それは俺が華城をナンパから助け、その後、この公園で二人で話をした時の出来事だ。あの時俺は、華城の事情を知らず、単なるクラスメイトだと思い、愛花とのやり取りを話した。


「諦めていた人がフリーになった。傷心している時に隣に立って支えて上げることが出来る。こんなチャンスは二度と無いってそう思った。……そう思ってしまった」


 華城はまるでそれが罪であるかのように語る。だが、そんなことはない。想っていた人がフラれ、自分にもチャンスが回ってきた。なら、それを確実に掴むために行動するだろう。俺もそこまで詳しいわけではないが、こと恋愛においては華城のように考える方が自然なことだ。


「華城の気持ちは分かるよ。俺だって華城の立場だったらそう思う」


「それからは必死だったよ。何とか意識してもらおうと振る舞った。私の魅力に気付いて欲しいなんて、そんな風に行動した。佐伯くんの視線の中に少しでも入っていられるように……ホント、バカだよね」


「そんなことはない。短い時間だったけど、華城と話して、一緒に遊んで、華城の魅力を知ることが出来た。そのおかげで、俺は自分と向き合うことが出来るようになったんだ。さっきも言ったけど、華城には本当に感謝してる」


「そう言ってくれると嬉しいよ。佐伯くんの中に少しでも私の居場所が出来たのならこんなに嬉しいことはないんだから」


「そうか……」


 嬉しいと言った華城は、じっと夕日を見つめていた。なぜ夕日を見つめているのかなどと聞く気にはならなかった。俺は夕日を見つめる華城のことを見つめる。しばらくして、華城はその視線をこちらに向けてきた。


「ねえ、一つお願いしたいことがあるんだけど……聞いてくれないかな?」


 そう言った彼女の瞳からはとても強い意思のようなものを感じた。そしてそれに対して、俺は同じように強い意思を込めて華城に答える。


「ああ、聞かせて欲しい」


「ずっと、ずっと……あなたのことが好きでした。私と付き合ってくれませんか?」


 その言葉に驚きはなかった。ただ華城に対してある種の尊敬の気持ちと、自分のことを好きと言ってくれたことを嬉しく思う感情が俺の中に広がっていた。


勇気を出して相手に告白する難しさは痛いくらいに知っている。自分のためにそれをした俺に比べ、華城の告白は真っ直ぐ気持ちを相手に伝えるもので、俺が出来なかったことだ。


 なら、俺は告白してくれた華城の気持ちを蔑ろにすることだけはしてはいけない。華城がしてくれたように、自分の気持ちを伝えることだけがここですべき唯一のことだと、そう思った。


「華城がそう思ってくれていたこと、本当に嬉しいよ。でも、ごめん。俺は愛花のことが好きなんだ。だから、華城の願いを叶えてやることは出来ない」


 正直に伝える。愛花のことをまだ好きでいるということを。


「うん、知ってた。……ありがと、ちゃんと答えてくれて」


 知っている……それは本当のことなんだろう。これまでの華城の言葉からそうだと分かる。だが、知っていたからって、それでどうなる話でもない。


 告白の重みがなくなることもなければ、失恋の痛みが和らぐこともないのだ。


 事実、華城はその瞳に大粒の涙を浮かべていた。


 そして、その涙はやがて耐えきれずに流れていく。華城が何度もその涙を拭うが、それでも次々と流れる涙は、まるでこれまで抑え続けていたものを全て吐き出しているかのようだった。


 沈み始めた夕日が、辺りを真っ赤に染め上げる。


 俺は、真っ赤に染まった公園の景色と、泣き続ける華城をただ見つめ続けた。

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