初恋の相手
放課後になり、俺と華城はあの時の公園に来ていた。
俺と華城の二人きり、あの時と同じ状況だ。
華城と約束をしたその場にいた真司と篠宮は二人で行ってこいと言ってくれた。
もう一つ、俺は華城と話をするために公園に行くことを愛花にも伝えた。隠し事はせず、俺を助けてくれた華城としっかりと話したいと伝えると、愛花は快く送ってくれた。
この公園に来ると、やはりあの時のことを思い出す。
ナンパから助けた後、華城と一緒に来た公園。あの時の俺は振られたショックで自暴自棄になっていたからな、話を聞いてくれた華城には本当に感謝している。
「なんだか懐かしい感じがするね。ついこの間のことなのに」
「ああ、そうだな」
華城と来たのは本当に最近、1週間も経っていない。けれどなぜだか、懐かしさのようなものを俺も感じていた。
「ホントにありがとね。あの時助けてくれて」
「いや……感謝しているのは俺の方だ。あの時華城が話を聞いてくれなかったら、きっと俺は自分の中に全部しまい込んでいた。そして、いつか駄目になっていたと思う。こうして前を向けるようになったのはお前のおかげだ。本当にありがとう」
お互いに感謝を伝える。助けた、助けられた形は違えど、お互いがいなければ今頃、深い傷を負っていたことだろう。
「思えば最初、佐伯くんってクラスメイトなのに私のこと知らなかったんだよね。これって結構ひどい話だと思うんだけど、どうだろう?」
「えーっと、それについては本当に申し訳ないというか……自分のことで精一杯で周りを見る余裕がなかったと言いますか、本当にごめんなさい」
「あははっ、そんなに落ち込まないでよ。ちょっといじわるで言ってみただけなんだからさ、佐伯くんが真っ直ぐで優しい人だって事、私良く知ってるから」
小悪魔のように、クスクスと笑う華城。普段からかわれることが多いらしい華城は、自分がからかう立場に立つことは少ないのだろう。とても楽しそうだった。
「華城こそ、真っ直ぐで優しいよ。俺もお前みたいになりたい、そう思わせてくれる」
「それは嬉しいな、人からそんな風に言われたことなかったから。でも、私だって最初からこうだったわけじゃないんだよ? ある人が私を助けてくれたから。だから私は今も生きていられるの。私は私自身を好きになることが出来たんだ」
「それってこの前教えてくれた初恋の人のことか?」
「そうだよ、私の初恋、私を助けてくれて、私を変えてくれた。私が私でいられるのはその人の事を好きになったから。……その人のことを今もずっと想い続けてる」
「そうか……」
ずっと想い続けている。それは簡単なことじゃない。華城は言っていた、その初恋の人には他に好きな人がいると。そして、自分の恋が叶うことは無い、と。
「そいつのことが本当に好きなんだな」
「うん……大好き」
華城は迷うこと無くそう言った。好きと口にした華城の表情はまさに恋する乙女と呼ぶに相応しいほど可憐で、とても綺麗だと思った。
そして同時に、その表情はずっと俺に向けられていたものと同じものだと分かった。
「そいつの名前、聞いたこと無かったよな。教えてくれないか?」
そう伝えると、華城は驚いた表情を見せる。そして、その後クスリと笑った。
それは、さっきと同じ小悪魔の笑みだった。
「気になるの? 私の初恋の人のことが」
「ああ、気になる。教えてくれ」
「どうして? 佐伯くんには関係ないことだよね?」
「関係ないとは思ってないよ。友達のことをもっと知りたいって思うのは当然のことだし、何より俺もしっかりと向き合うべきだと思ってる。もう逃げるのは止めたんだ」
「もしかして佐伯くん。私の初恋の人が自分だって思ってるの?」
えっ、違うの?
「いや、あの……」
「私の好きな人が自分のことで、いたいけな少女の心を独占してしまっている罪づくりな俺は、しっかりとこの子に向き合ってあげなければならないって……そう思ったの?」
はい、そう思ってました。とは、口が裂けても言えない。
「もしかして佐伯くんって自意識過剰なの?」
そう言われて、一気に顔が熱くなってくる。
だって、華城の俺に対する態度は他の人とは違うものがあったし、「俺のこと好きなんじゃ」って思ってしまっても仕方ないじゃないか。
これまで人から好意を向けられた経験なんてほとんど無かったし、女の子の気持ちを正確に読み取ることなんて出来ない。
それでも、向けられた好意から逃げるなんてことを、もう二度としたくないと思ったからこそ、華城の気持ちに踏み込んだ。
その結果が、まさか勘違いだったとは……
あまりの恥ずかしさに、もうこのまま地面に埋まってしまいたいとそう思った。
「まあ、正解なんだけどね」
「……え?」
「正解だよ、正解。佐伯くんの言うとおり、私の初恋の人は佐伯くん。私は……あなたのことが大好きなの」
そう言った華城の顔は、多分俺と同じくらい赤くなっていた。




