もう一度
「……」
「……」
学校に向かい歩く中、俺と愛花はお互いに話し出すタイミングを見計らっているまま、かれこれ5分くらいは経ってしまっていた。
いや、このままじゃ駄目だ。愛花と話す、そう決めたじゃないか。
愛花の様子を横目で見ながら、タイミングを見計らう。そして、意を決して話しかけた。
「なあ愛花」
「……なに?」
帰ってきたのは、少し警戒したような返事。当然か、愛花からしてみれば、俺は振った相手、こうして一緒に歩いてくれているだけでも十分頑張ってくれている。
なら、おれもしっかりと向き合うべき。
俺がすべきことはただ真っ直ぐに自分の気持ちを伝えることだ。
「俺、お前に謝りたかったんだ」
「謝る?」
「ああ、告白のこと、その後の事、今までの事、全部諸々謝りたかった」
「何それ、意味分かんない。天成は何か謝らなくちゃいけないことをしたの?」
「ああ、した。俺は今まで、お前の気持ちを考えずに自分のことしか考えていなかった。告白したのも自分の劣等感、焦燥感を優先して行動した結果だ。もちろん、お前のことが好きだという気持ちに嘘はないし、お前と恋人になりたいと本気で思っていた。でも、あの時俺はその気持ちよりも自分自身のために行動してしまった」
そう、あの時俺が考えていたことは、愛花のことが好きだという想いよりも、置いていかれたくない、対等になりたいという気持ちの方だった。
告白することで自分を肯定しようとしていたのだ。
「それだけじゃない、その後もお前に告白した後、俺は逃げることだけを考えていた。現実を受け入れたくなくて、情けない自分を否定したくて」
そして、それは劣等感を感じ始めてからずっとだった。
「高校生になって、さらに綺麗になっていくお前に引け目を感じ始めた。部活も勉強も出来て人気者になっていくお前が眩しくて、そんなお前と自分を比較しては落ち込んで、段々とお前とどう接していけば良いのかも分からなくなった」
その結果がこれだ。愛花に振られるのも納得の情けない男が出来上がった。
「本当にごめん。お前をずっと傷つけていた」
言い終えた俺は、深く頭を下げた。
「……っ」
頭を下げたままでいると、何かに耐えているような愛花の声が聞こえてくる。
その声につられて顔を上げると、愛花は必死に涙をこらえていた。
「……愛花?」
「そっ、そうだよ。ホントに、ずっと傷ついてた。ずっとずっとずっと……」
涙をこらえ、声が震えないように必死に抑えながら、愛花はそう言った。
「わ、私はずっと天成に憧れてた。弱くていつもビクビクしてた私を守ってくれて、いつも私の前を歩いてくれる天成に追いつきたくて、頑張ったのに……」
「それなのに、天成は私から離れていった。表面上は取り繕いながら、心はどんどん離れていく感じがして、私もどうしたらいいのか分からなくなっていった」
愛花もまた、俺と同じように思ってた。どうしたらいいのか、二人の距離が分からなくなっていったんだ。
「天成に告白された時、凄く嬉しかった。でも、天成が本当に私のことが好きなのか分からなかった。それに、仕返しがしたいなんて思ってしまった。天成が私から離れていって、天成に裏切られたと思って、天成が傷付いたら私の気持ちも分かってくれるんじゃないかって思った。だから、ありえないって言ってしまった」
あの時の答えを聞いて俺は、愛花が俺のことを振ったと思って逃げた。その背景に、愛花の葛藤があったことも知らずに自分のことだけを考えて。
「だから……私もごめんなさい。天成のこと傷つけてたのは私も一緒、あの時私がこうやって自分の気持ちを伝えていたらよかったんだ。そうしたらもっと早く天成と昔見たいに一緒にいられたのに」
そう言って頭を下げる愛花。愛花は自分も悪かったというけれど、それは違う。きっかけを作ったのは俺だ。だから、これは俺から言わなきゃいけない。俺がそうしたいと本気で思っていることを。
「愛花、改めてお願いがあるんだ。本気の気持ちを聞いて欲しい」
「……天成、分かった。聞かせて、天成の気持ち」
俺の本気度が伝わるように愛花に視線を送る。愛花もそれを感じ取ってくれたのか、目を合わせてくれる。
「愛花、俺ともう一度幼馴染みになって欲しい。今度はずっと、隣で歩いていけるように頑張るから」
「……え? 幼馴染み?」
「ああ、幼馴染みだ」
「……?」
「……?」
首を傾げる愛花に合わせて俺も首を傾げる。なんだ、俺はなにか変なことでも言ったか?
「……ここは普通、もう一回告白するところじゃないの?」
拍子抜けしたかのような表情を浮かべ、愛花はそう言った。
「い、いや……その告白はまだなんというか、その段階にまだ俺は立ててないっていうか、まずは対等な幼馴染みとして距離を縮めていきたいなと思いまして」
そう伝えると、愛花はキョトンとした顔をした後、小さく笑った。
「そうだね、私達はまだ恋人になれるほどお互いをわかり合えてない。でもこれから少しずつ分かっていけばいいんだもんね」
「ああ、改めてよろしくな愛花」
「うん、こちらこそだよ天成」
俺と愛花は視線を合わせたまま笑い合う。そして、学校への道を再び歩き始めた。
同じ歩幅で、同じ方向に。
これから一緒に歩いて行こう、この時、俺と愛花はそう思った。




