豊後國
・豊後国
豊後国の風俗その気質の稟る所偏塞なる事百人に九十人如斯と可知也。
(豊後国の風俗、その気質を申し上げるならば、偏屈で塞ぎ込みである事、百人に九十人はそのようであると知ることが出来る)
残る十人善と言えども、気質の偏屈なる内より出生する人なれば、如形の風儀なり。
(残る十人も善であると言っても、気質が偏屈である内より出生する人だから、そのような形の風儀である)
譬ば子をまいたと聖徳太子の宣うは出家させて子孫を断絶する時は、其の苗滅する所以てなるに、是理を飜却而、其生する所の子を殺害するの類に心得たるもの今も儘有之と見えたり。
(例えば聖徳太子が宣うには、子に命じて出家をさせて子孫を断絶する時は、その苗も滅してしまう。これを以て理を翻し、その生まれる子を殺害するの類に心得たるものが今もままあると見える。)
末世に至るともこの風儀なるべし。
(末世に至ってもこの風儀なのだろう)
如此の人の気質故に、その死を不厭事如く鴻毛也。
(このような人の気質故に、その死を厭わない事、鴻毛の如くである)
別而武士の風俗如右なれども、自然を免れんと思う人あれども、正智・邪智を不弁して、その弁する処に従て国風を削らんとするといえども、正道に至る事不克して、或いは不覚を取り、或いは邪智に迷て、臆病をなす人も可有。
(特に武士の風俗は右のようであるが、それらから免れようと思う人が居ても、正智・邪智を弁えず、その弁をもって国風を削らんとするといえども、正道に至る事が出来ず、或いは不覚を取り、或いは邪智に迷って、臆病になる人も居る)
多くは勇勝而理闇き形儀多し。
(多くは勇みがちで理に暗い行儀が多い)
自然と気質の素直なる人もあるへきとも稀なりと可知也。
(自然と気質の素直な人も居るが稀であると知ることが出来る)
・超意訳
豊後の人は言うなれば、偏屈で塞ぎ込みがちな人が百人中九十人
残りの十人はまだマシだが、偏屈な内で生まれ育っているから程度の問題である。
例えば、聖徳太子の『子孫断絶してしまうのに子を出家させるのは、苗を滅してしまうようなものだ』と言う言葉を変に解釈して『生まれてくる子を殺すようなものだ』と捉えることがままある。
末世になってもこんな風だろう。
こんな風だから死を厭わぬ事鴻毛の如くである。
武士は特にそうで、そこから逃れようとする人が居ても何が正しいのか弁えて無いから、国風を変えようとしても失敗して、臆病者呼ばわりされる。
大半が勇みがちで、理屈が分かってない。
気質が素直な人も居るが稀である。
・私評
聖徳太子の宣うは…こんなところに聖徳太子が出て来るとは思わなかった。
この言葉聞いた事があるが、聖徳太子だったかな?
※鴻毛=大型の水鳥の羽で、極めて軽い事の例え
・一言要約
偏屈で勇み勝ち




