安藝國
・安芸国
安芸国の風俗は人の気質実多き国風なれども、気自然と狭くして、我は人の言葉を待ち、人は我を先にせん事を常に風儀として、人の善を見ても差して褒美せず、悪を見ても誹る儀もなく、唯己々が一分を作、己を意地にして抜き出たる人千人に十人と無之して、世間の嘲哢をも不厭風儀なり。
(安芸国の風俗は人の気質は誠実な国風であるが、元々が心が狭く、自分は他人の言葉を待ち、他人は自分を先に言わせようとするところが常にあり、人の善行を見てもさほど褒めず、悪行を見ても批判せず、ただ各自が面目を作り、自分より優る者は千人に十人も居ないと意地を立て、世間からの嘲笑すら嫌とはしない風儀である)
侍の形儀取分如斯也。
(侍のふるまいは取り分けてそうである)
因玆頼みなき様なれども、底意は実儀より起こりたる事なれば、善き所多し。
(だから頼みにならないようだが、心の奥底では誠実さから起こることなので、善い所が多い)
此気質を離たる人出来は、名人とも可謂人可出国風なり。
(この気質を離れることが出来る人は、名人と言える人を出せる国風である)
別而、佐伯・沼田・賀茂郡の人健儀強く、二心表裏すくなく、形儀よきなり。
(特に、佐伯・沼田・賀茂郡の人は健気で律儀な所が強く、心に表裏が少なく、よいふるまいである)
・超意訳
安芸の人は誠実なのだが心が狭く、お互いに相手が話し出すのを待つところがあり、人の善い所も褒めなければ、悪い所を批判したりもしない。
『自分より優れた人はそうそう居ない』と孤高のプライドを持ち、世間から馬鹿にされてもどこ吹く風で気にしない。
侍は特にそうである。
一見頼りなさそうだが、根が誠実なので善い所も多い。
変なプライドさえなければ名人になれるだろう。
特に南西部の人は律儀で、心に表裏が少ないから良いね。
・私評
下げながら最後は上げるという人国記には珍しいパターン。
他国ならコテンパンに叩いてる所を上げようとしている。
どうも作者は安芸に好印象があるようだ。
・一言要約
根は善い国




